兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第168回 ツガエの脳内は「殴りたい」が33%】
若年性認知症を患う兄との暮らしで、心休まるときがないライターのツガエマナミコさん。ちょっと油断していると、兄が困ったことをしてしまうのです。かつてマナミコさんを悩ませていたものの、ようやく落ち着いたかと思っていたことが、最近また始まってしまった模様です…。
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兄の脳内はどうなっているのだろうか
「またか!」とビビリました。
お久しぶりにベラオシ(ベランダでオシッコの略)の痕跡をみつけたのでございます。マンションの大規模修繕工事中、窓に補助錠を付けてベランダに出られないようにしていたのが功を奏して、最近は補助錠なしでもベランダに出ることはなかったのですが、ついに思い出したようです。どうしてそんなことだけは思い出すのでしょうか。
じつはその直後、もうひとつわたくしの逆鱗に触れたことがありました。キッチンの隅のプラスチックのバケツの上に、洗って雑に積み重ねたスーパーの食品トレーがあるのでございますが、その一つに少量の茶色い液体が入っていたのでございます。
「なーにー?やっちまったな」と“クールポコ。”状態になったわたくしは、カッとなってその液体の正体を確かめることなく、トイレに流しました。もしかするとお味噌汁の残りだった可能性がありますが、そんなことは問題ではございません。下手をすれば斜めになって床にしたたり落ちてシミになって床が腐ったかもしれないのです!
いつまでも片付けずに乱雑に積んでおいたわたくしも悪いのでしょうが、絶妙に見えないところに、しかも蓋も何もない発泡スチロールの浅いトレーに液体を隠して知らん顔をしているなんて許せません。
でも、認知症にはそういうところがございます。記憶はできないのに自分の粗相を隠そう、ごまかそうとする知恵は働くのです。
怒り過ぎて、夕食作りをボイコットしようとしましたけれど、生魚を買っていたのを思い出し、1時間遅れで夕食を作り始めました。積み重ねた食品トレーは翌日にスーパーの回収ボックスにポイ。こまめに捨てなければいけないと学んだ出来事でした。
ゴミといえば、最近ゴキブリを見ないな~と思っておりました。でもお久しぶりに拝見いたしました。ただし新聞の中でございます。
「ゴキブリのサイボーグ化」という見出しとメカニカルなゴキさまの写真が衝撃的で思わず読み込んでしまいました。ゴキブリ型の小型ロボットではないのです。生きたゴキさまにあれこれ機械を取り付けて、無線による刺激によって遠隔操作する試みが成功したというのです。
「サイボーグ」といえば「009」と反射的に言ってしまう年代でございます。ほかにも「人造人間キカイダー」だの、「600万ドルの男」だの、人のサイボーグ化はSFファンタジーとしてさんざん見てまいりました。しかし今回は現実世界のリアルゴキさま。しかも、これは面白半分の「ゴキブリをサイボーグ化してみた企画」ではなく、大真面目な研究で、災害時に人が入れないところに入って救助活動などに活用できるかもしれないというのでございます。
黒光りする嫌われ者が人類のヒーローになるかもしれないニュース。しかしゴキさまにとってはいい迷惑でありましょう。人に生まれてこなかったばかりに目の敵にされて、勝手に改造されて、利用される。人間さまは傲慢でございますね。
兄も認知症にさえならなければ、わたくしに嫌われたり、怒られたり、勝手にデイケアに行かされることはなかったのに……。
記憶はどんどん少なくなり、新しいことは何も覚えられない兄の頭の中はどんなことが占めているのでしょうか。
ひと昔前に流行った脳内メーカー診断(お遊びの診断ゲーム)を久しぶりにやってみましたら、わたくし「殴りたい」が33%で「食べたい」の22%を大幅に超えてダントツでした。ヤバイです(笑い)
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ