101才のピアニスト・室井摩耶子さん「好きなことに正直でいる」老いの楽しむ7つのルール
室井摩耶子さん(101才)は、日本最高齢の現役ピアニストだ。孔子は「四十にして惑わず、五十にして天命を知る」と言った。だが実際は、五十を過ぎても毎日惑うことだらけで、何かとがまんしてばかり。つい後ろ向きな気持ちになりそうなときは、人生の大先輩の言葉に、元気をもらえるかもしれない。誰でもすぐにまねできる、101才の元気の秘訣とは。
日本最高齢の現役ピアニスト、室井摩耶子さん
平均寿命は年々延び続けているが、年を取れば取るほど、体は思ったように動かなくなり、物忘れも増えてくる。老いた体とどう向き合えばいいのか――。人生100年時代を幸せに過ごすための、よきお手本がいる。
8月に『マヤコ一〇一歳』(小学館)を上梓した、ピアニストの室井摩耶子さん(101才)だ。
大正10(1921)年生まれの室井さんは、タイトル通り、御年101。現在も活躍する、日本最高齢の現役ピアニストである。
「年を取って、できないことはもちろん増えましたよ。スタスタ歩けませんし、立ち上がるだけでもひと苦労。物忘れもしょっちゅうで、失敗ばかりです。でもそれでいいの。だって、100才を超えているんだから。“年なんだからしょうがないわよ”と思えば、くよくよすることはありません」(室井さん・以下同)
とはいえ、体がままならないのは事実なのだそう。「若い頃に戻りたい」と思うことはないのだろうか。
「全然! そんなことを思ったことも、考えたこともありません。だって、長く生きてきたということは、それだけいろんなことを見聞きしてきたということですから。私の人生は、私の財産です。若い頃に戻るなんて、そんなのもったいない」
室井さん流「老い」の楽しみ方
実際、室井さんはこんなふうに「老い」を楽しんでいる。
「耳はずいぶん遠くなりました。でもおかげで、嫌なことを聞かなくてすみます。何度も骨折しているから、歩くのは本当にゆっくりです。でもその分、周囲をゆっくり観察できます。
骨折してリハビリしていたときには“人間の体って、ただ歩くだけでも、全身の骨や筋肉を使って動いているのね”と、体の動きを学び直すことができて、とても興味深かったものです」
102才で亡くなった父の介護は、5年続いたという。その間ももちろん苦労はあったが、その分、一緒にいる時間が増えたと前向きに語る。室井さんにかかれば、どんな状況も、プラスに変換できてしまうのだ。
失敗を恐れない「85才でブログ開設」
だから失敗を恐れない。それよりも、新しいことに出会うことを望み、いまでもさまざまなことにチャレンジしている。その1つがブログだ。
「最近、更新できていない」と話すが、室井さんがブログを開設したのはなんと、85才のとき。
「自分で書いているんですよ、パソコンを使って。デジカメで撮影するのも私です。インターネットで検索だってできちゃいます。
最初は、ちんぷんかんぷんでした。でも、友人の息子さんに“先生”になってもらっているんです。“メールが上手に送れないんだけど”と、困ったらすぐに連絡。わからないことは誰かに教わればいい。できないことが多いと、小さなことが1つできるようになるだけで、天にも昇る気持ちになれるんですよ」
自分でできない事は人に頼む
室井さんは6才でピアノを始め、やがて東京音楽学校(現・東京藝術大学)に進む。34才で単身、ドイツに留学し、以後、61才で帰国するまで、ヨーロッパを舞台に活躍した。結婚はせず、いまもひとり暮らし。身寄りがないいま「人に頼らない生活」をしているのかと思えば、そうではなかった。
「“何でも自分でやる”と思わなければいいのです。掃除ができないならヘルパーさんに頼めばいい。自分にできることを無理なくやって、あとは甘えればいいのです。頼める人をたくさん持っておけば、ひとりでも大丈夫」
だが、ひとり暮らしは寂しくないのだろうか。室井さんに直接ぶつけると、笑いながらたしなめられた。
「あら、あなたはひとりの楽しさを知らないのね」
小さな「好き」を続ければ幸せになれる
室井さんがこの世でいちばん好きなのはピアノだ。 室井さんは、好きなことを何をおいても優先する。なぜなら、好きなことをしているときが、いちばん幸せな時間だからだ。
「夜中に突然“この音よ!”とひらめいて、飛び起きて、気兼ねなくピアノを弾く。これが楽しいの。『おひとりさま』とは、『自由人』の言い換えじゃないかしら」
室井さんの生き方はまさに、自由そのもの。聞いているだけで勇気がわいてくるような言葉ばかりだ。
「101年間を振り返ってみると、私がこうして幸せなのは、ピアノという好きなことに出会えたからでしょうね。私はたまたま、好きなことを職業にしていますが、無理に仕事にする必要はないと思っています。“好き”は、小さなことでいいんです。洗濯でも、料理でも、散歩でも、読書でも…日常の中に、“好きで続けられること”があれば、それで幸せになれます」
体の声に耳を傾け「自由に、無理しない」
好きなことに正直でいる。これが、室井さんのスタイルなのだ。事実、室井さんの日常には、「正直」が貫かれている。真夜中にピアノを弾いたかと思うと、「今日は体が無理をするなと言っている」と、ピアノの練習を短時間で切り上げ、さっさと寝てしまうことも。「しなければならない」より「こうしたい」が優先される。
だから一日のスケジュールも自由そのもので、ルーティンもない。朝は起きたいときに起きて、夜は寝たいときに寝る。食べたいものを食べるし、食べたくないときに無理に食べることもしない。
「私はこれを“体調リベラリズム”と名づけています。なかなか素敵な言葉でしょう? 体の声に耳を傾け、その声に従うのが、私の流儀。これが唯一の健康法ね」
大好物は牛のヒレ肉
体の声に耳を傾けると、自然と「おいしいもの」を口にすることが多くなるという。例えば旬の食材。お値段は少々張るが、「旬」を求めるのが、自然の摂理だ。
「私のガマグチはしきりに“ノー! ノー!”と抵抗しますが、黙らせます(笑い)」
牛のヒレ肉も大好物で、これもガマグチとけんかしながら、体の方の言うことを聞いているのだという。