糖質制限は本当に体にいいのか?最新研究で判明した健康と食にまつわる7つの真実【医師解説】
「糖質制限」「菜食主義」「発酵食品」といった食事法や健康食は科学的に正しいのだろうか? 寿命研究の第一人者である南カリフォルニア大学長寿研究所の教授、ヴァルター・D・ロンゴさん(以下、ロンゴさん)をはじめ、専門医の方々に取材し、最強の食事法をリサーチ。ロンゴさんの研究をもとに健康と食の真実に迫ります。
1.糖質制限の真実「炭水化物の摂取量が少ないと死亡リスク増」
体重増加に悩み、今年の春から減量を試みた東京在住の宮田恵子さん(62才・仮名)がこうぼやく。
「ご飯を抜く糖質制限ダイエットで一時的に体重が減ったけれど、便秘になったりして体調があまりよくない。お腹が空いてイライラもする。本当に糖質制限って体にいいのかしら?」
ロンゴさんが言う。
「アメリカで43万人以上を対象にした追跡調査のメタ分析では、炭水化物からエネルギーの20%未満しか摂取しない群は、炭水化物からエネルギーを50~55%を摂取する群より総死亡リスクが50%高いことがわかりました。炭水化物の摂取量が少ないと、死亡リスクが増えるのです」
一般的に糖質はインスリンの分泌を増加させ、老化を促進すると考えられている。それなのになぜ糖質(炭水化物)制限で死亡率が上昇するのか。食糧学院副学院長で医師の松生恒夫さんが言う。
「過度な糖質制限は長期的には体によくないことがわかっています。清涼飲料水や菓子類を制限するのはいいのですが、糖質が入っているからと穀物や野菜、果物の摂取まで抑制すると、食物繊維やビタミン、ミネラルの摂取までも減ってしまいます」
ちなみに食事制限中に好きなものを好きなだけ食べていい「チートデイ」を設けることにも松生さんは反対する。
「せっかく食生活を改善している最中にバランスを崩すのはごほうびとはいえません。一日の油断で、むしろ体調が悪化する可能性もあります」
2.カロリー制限の真実「食べる量が少ないサルは長生き」
カロリー制限の研究はこれまで微生物やマウス、サルなどで幅広く行われてきた。
「長期にわたる研究により、カロリー制限で体重が少なく、食べる量が少ないサルは長生きし、後半まで健康であることがわかりました。重要なことに、そうした特徴はヒトでもほぼ再現されます」(ロンゴさん)
脂肪率の低下やインスリン感受性の向上、炎症の低下、心血管疾患のリスクの低下、脳の老化の遅延など、カロリー制限したサルの健康度は軒並みアップした。
「ある研究でサルのエサの量を25%減らすと、糖尿病が60%減、がんが50%減となった。これらの徴候はヒトにも当てはまることが期待できます」(ロンゴさん)
人間も食事量を4分の1ほど減らせば、病気知らずになれるかもしれない。
3.菜食主義者の真実「ビーガンは死亡率のリスクは低いが骨折リスクは高い」
ロンゴ研究では、卵や乳製品を含む一切の動物性食品を口にしない完全菜食主義者のビーガンは、肉食者と比較してがんや高血圧、糖尿病の危険性が低下し、総死亡率のリスクも低くなったことがわかった。
「しかし一方で、ビーガン食は非ビーガン食と比較して全骨折のリスクが43%増加し、股関節骨折が2.3倍増加しました。ビーガン食は虚弱体質になりやすいのです」(ロンゴさん)
骨折が寝たきりや要介護につながりやすい高齢者にとって、やりすぎの菜食主義はマイナスの側面が大きそうだ。
4.脂質の真実「太っても摂るべきか?」
脂質は糖質やたんぱく質と並ぶ3大栄養素の1つだが、肥満や動脈硬化の元凶とされてすこぶる評判が悪い。しかし意外にもロンゴ研究は、「エネルギーの30%を占める脂肪の摂取は長寿食の一部」と、脂質(脂肪)を高く評価する。
また、脂肪は、糖分やたんぱく質のような老化促進作用はないとされるため、脂質の摂取に過度に消極的になる必要はない。
ただし、脂質の摂りすぎで肥満になるのは禁物だ。ロンゴ研究はBMIを25未満に維持することを推奨している。
一石さんによると、50~64才の女性の場合、1日の脂質の摂取量は50~60gが適切だという。牛もも肉100gに9.6g、豚バラ肉100gに35.4g、卵1個(50g)に5.2gの脂質が含まれるので目安にしてほしい
5.発酵食品の真実「長寿地区ではみそや乳製品を多く摂っている」
ロンゴ研究には登場しないが、長寿大国日本のカギを握るとされるのが発酵食品だ。奄美群島の百寿者らの腸内環境を調査した岡山大学の森田英利さんが説明する。
「発酵食品に含まれるバクテリアには整腸効果があり、免疫を強化してストレスを和らげ、体の炎症や肥満を抑えることが長寿につながると考えられます。実際、奄美群島の長寿者はみそのほか、乳製品を発酵させた土着の食べ物を多く摂っており、体内からさまざまな善玉菌が検出されています」
松生さんも伝統食の効果を指摘する。
「日本を代表する健康長寿エリアの長野県の特徴は、みその生産量が全国1位であること。また、食文化に野沢菜やすんき漬けなど、植物性乳酸菌の豊富な漬けものをはじめ、納豆やこうじなどを使った発酵食品の消費も多いのです」
めかぶ、オクラなどネバネバ系の食品も長寿を招く。
6.調理法と寿命の真実「食材の加熱によるAGEsに注意」
調理はおいしい料理のために必要なだけでなく、健康にも直結する。米ボストン在住で内科医の大西睦子さんが説明する。
「食材に火を加えて加熱すると、化学反応で『終末糖化産物(AGEs)』という化合物が発生します。AGEsは酸化ストレスや炎症を増加させ、がんや糖尿病、認知症や心血管疾患のリスクを増します。調理温度が高くなるほどAGEsを含有しやすいので、肉や魚の焼きすぎには要注意。安全のためには煮る、蒸す、ゆでるなどの調理法がベターです」
揚げ物にも気をつけたい。
「アイオワ大学の研究チームが約10万人を対象にした調査では、週に1回以上フライドチキンを食べ続けると心臓病に関連する死亡リスクが13%増加しています。添加物や油の劣化の影響のほか、揚げ物がAGEsを多く含むことも理由の1つと推定されました」(大西さん)
7.食事の回数や時間と健康長寿の真実
ロンゴ研究は食事の回数や間食、食事時間の選択が健康長寿に深くかかわることも示した。その成果をもとに、ロンゴさんがアドバイスする。
「太っている人と太りやすい人は朝食と昼食、または朝食と夕食の2食にして、糖質5g未満、100kcal未満の間食を2回摂るようにしましょう。また、標準体重の人、やせやすい人、65才以上で標準体重の人は1日3食と100kcal未満、3~5gの低糖質の間食を1回摂って」
教えてくれた人
ヴァルター・D・ロンゴさん/南カリフォルニア大学長寿研究所・教授、馬渕知子さん/食糧学院副学院長・医師、松生恒夫さん/松生クリニック院長、一石英一郎さん/国際未病ケア医学研究センター長、森田英利さん/岡山大学、大西睦子さん/内科医
※女性セブン2022年8月11日号
https://josei7.com/
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