連載

認知症になると親戚や近所の人は付き合い方をどう変えるのか

 認知症の母を東京ー盛岡の遠距離で介護している工藤広伸さんは、介護を通じて得た知識や経験を元に遠距離での在宅介護の心得をブログや書籍、講演などで公開し、介護中の家族の気持ちに寄り添っている。

 当サイトのシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、さまざまなエピソードとともに、介護中の困りごとを乗り切った対処法やアイデアを紹介してもらっている。

 今回のテーマは「親戚やご近所」。母が認知症であることを知った親戚やご近所はどのように反応し、付き合い方が変化したのだろうか…。

 * * *

 わたしの祖母や母が認知症になり、そのことを親族やご近所に話したときの反応や話した後、どうつき合い方が変化していったかについて、今日はお話しします。

家族が認知症であることを伝える?伝えない?

 もし、自分の家族が認知症になった場合、親族やご近所にその事実を伝えますか?それとも、隠しておきますか?

 わたしは母が認知症になったとき、自分から積極的に親族やご近所に伝えることはしませんでした。認知症初期だった母の日常生活は至って普通で、ご近所の庭に勝手に入ってしまった祖母のように、周囲に迷惑をかけることもなかったからです。

 しかし、わたしは母の認知症をずっと隠しておこうとは思っておらず、むしろ機会があったら、親族やご近所に伝えようと考えていました。母はひとりで生活していましたし、わたしも東京在住で、常に一緒にいられるわけではありません。何かあったときのために、親族やご近所に伝えたほうが得策だろうという思いがあったからです。

 その機会が訪れたのが、母の認知症が分かってから1年後の祖母の葬儀のときでした。わたしは喪主として親族にご挨拶するついでに、母が認知症になったという話をして回りました。ほとんどの親族は、この葬儀を機に母の認知症を知ることになりました。

 ご近所に関しても、町内会費の回収であったり、たまたま顔を合わせたりする機会を利用して、少しずつ母の認知症のことをオープンにしていきました。

 母の認知症を伝えたことで、わたしが何か嫌な思いをしたことはなく、「歳を取れば、誰でも可能性はあるよね」という反応が一番多かったように思います。

 ご近所に話したとき、「お母さんはひとり暮らしで、火の管理は大丈夫?」と質問されたことはありますが、「火をかけっぱなしにしても、地震が来ても、ガスが自動で止まる最新ガスレンジに変えました」と伝え、火事の不安のないことを伝えました。

 母が認知症であることを伝えたあと、数年経った現在は、親族やご近所とのつきあい方はどのように変わっているのでしょうか?

壮絶な認知症介護をイメージする人も

 わたしはしょっちゅう母と接しているので、母の認知症がどれくらい進行しているかを理解しています。しかし、認知症自体をよく知らない親族やご近所も多いので、そういった方々にとっての数年は、わたしの感覚とは大きく違うようです。

 先日も、母と3年会っていない親族が、母ではなくわたしに電話をしてきて、

「(母が)まだおうちにいるの?もうね、施設か病院に入ったかと思っていたのよ」

 と言っていました。

 親族がそう考える気持ちも、分からないでもありません。母と3年も会わなければ、認知症が進行して何も理解できない、何もできなくなっていると考えても、不思議ではありません。母に連絡をとっても、もう自分のことを忘れてしまっているかもしれないという不安から、自然と距離を置きたくなる気持ちもやむを得ないと思います。

 また、介護者であるわたしへの配慮もあると思います。介護が大変なのに、家まで押し掛けて迷惑をかけてはいけないと思っているかもしれませんし、壮絶な認知症介護をイメージして、家に近づけないでいるのかもしれません。

 このように、認知症介護をしている家族と距離を置く必要があるのでしょうか?

どんどん遊びに来てもらって構いません!

 認知症の進行度合いにもよりますが、わが家に関しては普通に遊びに来てもらって構わないレベルです。もちろん、母は同じ話を何度も繰り返したり、お茶やお菓子を出すことができなかったり、顔を見ても名前が思い出せなかったりすることはありますが、それでも不快な思いをすることもないと思います。

 介護者であるわたしの立場からも、気軽に遊びに来て頂いたほうが助かります。いつも母と話す会話の内容は同じで、面白みに欠けるのですが、ヘルパーさんや理学療法士さんなど1人加わるだけで、会話の幅が広がります。母にとっても、いつもと違ういい刺激になっているからだと思います。

 なので、認知症になってしまった親族のところへ遊びに行くのを躊躇する必要もないと思いますし、今までどおりのつきあいを続けたほうがいいとわたしは思います。介護している家族にとっても、孤独から解放される時間になると思いますし、介護者の息抜きにもなるはずです。

 毎年お盆になると、母と距離を置くことなく仏壇を拝みに来てくださる親族がいます。母は自分のことばかり話してしまって、会話が全くかみ合わないのですが、それでも母の様子を見て、ホッとして帰られます。昔と変わりなく、遊びに来てもらえることをうれしく思っています。

 認知症介護をしているご家庭ごとに事情は違いますが、認知症になったからといって、距離を置く必要はないとわたしは思います。介護家族の了解が得られれば、今まで通りのつきあいを続けたほうが喜ばれるケースもあると思います。

 今日もしれっと、しれっと。

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工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

 

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この記事へのみんなのコメント

  • TOMOKA

    どうしても、迷惑なんじゃないかな。とお邪魔するのをためらいがちでした。 会いたいなら相手方に確認して、会いに行こう。私も逆の立場だったら、その方が嬉しいです。

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