世話疲れで”孫ブルー”になるばぁばたちの本音と「世話はしたくないと言えない」理由
目に入れても痛くないが、考えると頭が痛くなる―― それが「孫」という存在だ。孫のためと張りきったことが原因で、心身の不調を訴える“ばあば”たちが増えているらしい。孫エピソードを反面教師にして、新に孫との関係を見直そう。
孫のお世話で疲弊する人が続出
「平日は孫の世話でお昼もまともに食べることができず、体を休めることができません。おかげで週末は疲れがたまり、一日中布団から出られない。気力も体力も限界で…」
うつむき気味に語るのは、都内在住の津村真紀子さん(仮名・65才)。
コロナ禍で近所に住む娘婿の勤め先が倒産し、出産後すぐ働くことになった娘に代わり、孫の面倒を見ることになった。だが、娘を育てた若かりし頃とは違い、ぐずる赤ん坊にミルクを飲ませたり、お風呂に入れたりするのは想像以上に重労働で、心身ともに疲れ果ててしまった。
「休日に友達と外出することもできなくなりました。それでも娘に『孫の世話をしたくない』とはとても言えません」(津村さん)
離婚した娘が4人の孫を連れて実家に戻ってきた松井哲雄さん(仮名・67才)も疲れた表情を浮かべる。
「娘は働くようになったけど稼ぎが足りず、果樹園を営む私たち夫婦のもとへ戻ってきました。食費は5万円以上余分にかかり、妻は朝から晩まで孫の世話に追われ、仕事を手伝えなくなった。家業を手伝っていた未婚の息子は仕事の負担が増えた上、騒がしい子供たちにうんざりし、『やっていられない』と荷物をまとめて家を出ていきました。息子と晩酌するのが毎日の楽しみだった妻は、寂しさと孫疲れが重なってうつになってしまった。娘には農協から借金した200万円を渡して家から出ていってもらいましたが、『実の娘と孫を追い出すの!?』と口論になり、それっきり疎遠になっています」(松井さん)
「孫ブルー」を家族問題評論家が解説
「孫ブルー」という言葉をご存じだろうか。孫の世話を託された祖父母が疲れ果てて、うつっぽくなる状態を表す。
家族問題評論家の宮本まき子さんが指摘する。
「孫の世話には肉体的、精神的、経済的な疲弊が伴いがち。ストレスがたまって爆発しそうになることもあります。文句を言ったり、愚痴をこぼすうちは『孫疲れ』の段階ですが、孫の顔を見ても気分が落ち込んだり、パニックになったり、逆に何の情感もわかないレベルにまで達すると危険信号です」
結婚前後は「マリッジブルー」、出産後は「マタニティーブルー」と、女性の人生には一過性の落ち込みがつきものだが、コロナ禍も重なり、「孫ブルー」で憂うつになる高齢者が増えている。
孫の世話は「やりがい」がない
全国20~79才の男女を対象に行われた内閣府の「家族と地域における子育てに関する意識調査」(平成25年度)によると、「理想の家族の住まい方」は、「祖父母と近居」が回答者の3割強を占めた。
国土交通省によると、近居とは「住居は異なるものの、日常的な往来ができる範囲に居住することを指すもの」であり、「車、電車で1時間以内」の範囲を示す。
自分や夫に何かあったときを考えると、子供家族が近くに住んでいることは心強い。だが祖父母にとって、近居は悩みも生み出す。
兵庫県の主婦、山内宏恵さん(仮名・70才)は、車で30分の距離に住む娘から連絡があるたび、心臓がバクバクすると明かす。
「娘夫婦は共働きで、忙しくなると、『明日うちに来てよ』と長男7才、長女4才の孫の世話を頼んできます。娘は年金生活の私や夫は暇だと思っているみたいですが、家の掃除や洗濯、夫の食事の準備など、やることはたくさんあるんです。本心は断りたいけれど、『急な仕事でどこにも預けられない』と言われると、受け入れざるを得ません。
しかし、娘の家に行っても食事やおやつは何もないことが多く、すべて私が買うことになる。孫にカップ麺などいい加減なものを食べさせるわけにもいかないし、お金も手間もかかって仕方ありません」(山内さん)
孫はかわいいが、子育てほど「やりがい」を感じられないと山内さんが続ける。
「自分の子育てのときは、娘が『ママ、ママ』と言ってくれたけど、孫はどんなに面倒を見ても、結局は自分のママがいちばん。しかも最近は、だんだんと小憎らしいことを言うようになってきた。子育てと違って、『やりがい』を感じられないんです」
埋められぬ世代間ギャップ
孫と同居する野本知佳さん(仮名・65才)も、祖母の微妙なポジションを嘆く。
「うちは夫と長男夫婦、3人の孫の7人家族。夫と長男で会社を経営していて、嫁は経理としてフルタイムで働いているので、家事と子育ては“ばあば”の役割。でもある日、8才の次女が『ばあばの卵焼きはしょっぱい。ママも言ってた』とゴネ始めた。コロナ禍で休校していた時期だったので、一日中孫の世話をしていた私もイライラして嫁を問い詰めたら、『でも、ばあばの餃子は世界一だよね~』と次女と一緒に白々しいことを言う。その姿を見たとき、結局、孫と嫁は連合軍。どんなにかわいがっても、私は“ばあば”なんだと実感して、時々すごく寂しくなります」
医師でマインドフルヘルス代表の山下あきこさんは、世代間のギャップをこう語る。
「いまの60代以上は専業主婦が多く、『家のことは母親が全部やるべき』という価値観を持っています。だから孫の世話を頼まれると、毎朝、早く起きて食事を作り、熱心に保育園や学校の送り迎えをするなど頑張りすぎてしまう。この頑張りすぎを続けていると、緊張状態を緩められず、自律神経が高ぶって耳鳴り、動悸、頭痛などの症状が出る。実際にこれらの症状で受診する高齢者は多い」
しかし、体調を崩すほど頑張っても、子供夫婦が親の苦労を理解していないケースも目立つ。
シニアの暮らし研究所代表の岡本弘子さんが指摘する。
「親に孫を預ける子供は、無理をお願いして申し訳ないと思う半面、“親は孫に会えて喜んでいるから、まあいいや”と楽観的に考えていることが多い。親も親で、子供に頼られると、つい虚勢を張ってしまう。本当はつらいのに、『できない』というのはカッコ悪いと考え、がまんして孫の世話をする祖父母も珍しくない」
娘の頼みを断れず、毎日無理をして赤ん坊をあやしていた祖母が、とうとう体を壊してしまったケースも。
「孫を抱っこしていたおばあちゃんの両腕が、けんしょう炎で動かなくなってしまったんです。娘夫婦は、このとき初めて『そこまで親に負担をかけていたのか』と認識。子供にとって親はいくつになっても親で、“自分を養ってくれた最盛期の親”の印象があり、衰えを理解しにくい。だからこそ、祖父母は正直に『これ以上はできない』と伝えなければなりません」(岡本さん)
孫が成長するごとに難しい問題が
せっかくかわいがった孫も、成長するほど言うことを聞かなくなる。
つじかわ耳鼻咽喉科院長の辻川覚志さんが言う。
「特に最近の子供は、幼いうちからインターネット漬けになり、周囲の出来事に無関心です。10才くらいになると、おじいちゃんやおばあちゃんが話しかけても、生返事で心ここにあらずということが多い。いまの子供世代も苦労していますから、急に小さい孫の世話を頼まれたときは、できる限り助けてあげてほしいとは思います。ただ、10才になったら孫の世話は終わり。パッと手を放して、それ以上はあまり自分を犠牲にしない方がいいでしょう」
共働きの家庭が半数を超え、支援の制度はあっても、祖父母の助けなしには子育てが難しいのが現状だ。
宮本さんが言う。
「私は団塊の世代ですが、昭和半ばまでは家族や親戚の人数が多くて、SOSを出せば家事の手伝いに駆けつける女性がどこかにいたものです。近所づきあいも濃密だったから、子育てを助けてくれる人も大勢いた。ですが、高度成長期に女性の雇用が増え、家の中で暇を持て余す人はいなくなり、親戚や地域との人間関係は希薄になっていきました。
その結果、『頼れるのは祖父母』と狙いをつけ、都市部では30分以内の近居を目指す若い夫婦が急増しました。仕事が遅くなっても公立の保育園のお迎えは時間厳守だし、子供が急に発熱した際も、仕事を休めないから祖父母を拝み倒すしかない。結局、団塊の世代が憧れていた“ハッピーリタイア後の余生”なんて夢のまた夢で、“子育てアゲイン”です」
経済が上向かない現代で、必死に子育てをしているわが子らを助けてあげたくなるのが親心。しかし、線引きをしなければ、取り返しがつかなくなる恐れもある。
※女性セブン2022年5月5日号
https://josei7.com/
●孫の写真を大画面テレビで見ると認知症予防になるってホント?