遠くのものが二重に見えるのは”サギングアイ症候群”かも セルフチェック法と症状、治療法【医師解説】
NHK『ガッテン!』の最終回で取り上げられた『サギングアイ症候群』という新しい病気をご存じだろうか。番組放送後、「症状がすべてあてはまる」というSNSの投稿が相次ぎ、「眼科に行ってみよう」という投稿も多かったという。ものが二重に見える、視界がぼやけるなどの症状の『サギングアイ症候群』について専門家に詳しい話を伺った。
「遠くのものが二重に見える」もしかして?
新型コロナウイルスが拡大して3年目に突入したいま、生活環境の変化により目の不調を訴える人の数は増え続けている。コンタクトレンズ専門店の『アイシティ』が行った調査によれば回答者の9割がステイホームに伴う目の違和感を覚えているという。単なる“疲れ目”で済めばまだいいが、大きな病気が隠れている可能性もあるのだ。
神奈川県に住む主婦の岡田恵子さん(54才・仮名)がこんな体験を明かす。
「最近、遠くのものが二重に見えるときが頻繁にあって悩んでいたんです。とはいえ、スマホの使いすぎによる眼精疲労だと思い、そのままにしていました。そんなとき、テレビ番組で私と同じ悩みを“新しい目の病気”として取り上げていて…。すぐに眼科に駆け込みました。放置していたら運転中に交通事故を起こす可能性があったと知り、背筋が凍りました」
岡田さんを病院に走らせたのは、2月2日に27年の歴史の幕を閉じた生活情報番組『ガッテン!』(NHK総合)の最終回。「しつこい目のぼやけ 気づいて!本当の原因解明SP」と題して『サギングアイ症候群』が取り上げられたことがきっかけだった。
“サギングアイ症候群”とはどのような病気なのか?
岡田さんのように同番組がきっかけで眼科への受診に至った人は少なくなく、SNSには最終回を惜しむ声とともに<全然知らない病気だったけれど、症状が全部当てはまる。最終回を見てよかった> <初めて聞いた病名。眼科に行って聞いてみよう>といった投稿が相次いだ。このように多くの人にとって初耳の病名であるが、いったいどんな症状が出るのか。
サギングアイ症候群の患者を多数診療している梶田眼科院長の梶田雅義さんが解説する。
「主な症状は、突然視界がぼやけ、ものが二重に見えるようになることです。やっかいなのは、それが長時間続くことなく正常な見え方に戻ったり、見る方向によっては症状が出なかったりすること。そのため“疲れ目”だと判断して放置してしまう患者が多い。しかし、症状が進行すると、二重にものが見えるうえ、どちらが本物かわからなくなってしまうケースもある。
運転中に症状が出て、急に対向車が自分に向かってくるように見えたと話す患者もいます。直線道路なのになぜか歩行者の列に突っ込んでしまうという類型の交通事故が多発していますが、一部はサギングアイが原因で急ハンドルを切ってしまったからではないかと推測しています」
梶田さんによれば、症状が出ると、運転中に前を走る車が2台並走しているかのように見える場合もあるのだという。
たしかに近年、不可解な交通事故のニュースを多く聞くようになった。実際、警視庁の発表によれば今年1月の交通事故の発生件数および負傷者数は前年と比較して増加している。注目すべきは死者の多くが65才以上であることだ。
サギングアイ症候群、別名「加齢性斜視」は年齢も原因のひとつ
北部眼科・小児眼科院長の渡邉亜希さんはサギングアイ症候群の原因は加齢だと指摘する。
「サギングアイは、別名『加齢性斜視』といわれています。そもそも、左右の眼球が別の方向を向いている状態を指す斜視の原因は3つ。
1つ目は、目を動かす『外眼筋』と呼ばれる筋肉の働きが悪くなることで起きる『共同性斜視』。
2つ目は、脳の病気や頭部外傷などで外眼筋を司る神経が麻痺(まひ)して起こる『麻痺性斜視』。
そして3つ目が眼球を支える『プリー』と呼ばれるコラーゲンが加齢によって萎縮して起きるサギングアイです」
★サギングアイの原因は、眼球をぴったりと覆う「プリー」と呼ばれるコラーゲン組織が萎縮すること。
技術の発達によりサギングアイのメカニズムが判明!
加齢によって斜視が起きること自体は以前から知られていたが、その原因は近年まで未解明のままだった。
「そもそも眼球が頭蓋骨の中でどういったメカニズムで宙吊りになり、自由に動いているのか、医学界でも長い間明らかになっていませんでした。遺体を解剖しても構造がわからなかったのです。
ところが、MRIの技術が発達した結果頭部の中の様子がはっきりと目視できるように。それによって、眼球がコラーゲン組織のプリーに包まれて眼窩(がんか)にぴったりとはまっていることが判明しました。このプリーが加齢によって萎縮すると、眼球の位置がずれる。その結果起きるのがサギングアイです。サギングとは英語で『垂れ下がる』という意味があります」(梶田さん)