兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第138回 お尿さま問題がとまらない】
若年性認知症の兄と暮らしているライターのツガエマナミコさんを悩ませている兄の排泄問題。大きい方のトラブルも起きていますが、今回のお話は、小さい方、お尿さまについてです。
「明るく、時にシュールに」、認知症を考えます。
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ケアマネさんが新しくなりました
先ごろ、友人の母上様が亡くなったというお知らせをいただき、お香典をお送りしたら“選べるお香典返し”の分厚い冊子が届きました。ちょうどドライヤーの買い替えを検討していたので「よし!ドライヤーをいただこう」と即決したのですが、「故障したら保証はどうなるんだ?」と思いはじめたら迷走してしまって、1か月間迷いに迷ったあげく結局“煎茶詰め合わせ”という定番に落ち着いたツガエでございます。後々まで残ってしまうものよりも、お悔やみ事なので消耗品がいいような気がしたのもお茶を選んだ理由です。
選べるのは楽しいけれど優柔不断人間には一苦労でございます。この前も何かの折に、迷い過ぎて期限切れになってしまいました。でもアラ還(アラウンド還暦・60歳)の身としては、そろそろ身の回りを整理していかなければいけないお年頃。余計なものを増やさないように生きるのも大人のたしなみではないかと考えたりしております。
担当ケアマネジャーさまが定年退職となり、自動的に新ケアマネジャーさまになりました。先日2度目の来訪があり、正式に契約をしたところでございます。
兄に「これからケアマネさんがここに来るよ」というと「ケアマネさんってどういう人?何する人なの?」と訊かれてしまい、思わず言葉に詰まりました。
言われてみればよくわかないので「お兄ちゃんの介護保険の面倒な計算や手続きをやってくださる人」と答えるのが精いっぱいでございました。
理解できない兄は、その後も何度も同じ質問を繰り返します。これから毎月ケアマネさまの来訪があるたびに、「ケアマネさんて何する人?」と訊かれることは明白で、いっそ「魚屋さんだよ」と答えられたらどんなに楽かと思うこのごろです。
新ケアマネさまは、すでにデイケアに足を運び、スタッフの方に兄のデイでの様子を聞き込み調査していらっしゃいました。この日も家や外出先での兄の様子をいろいろと質問され、兄がどんな生活をし、どの程度介護が必要なのかを計っているようでございました。
ベラオシ(ベランダでオシッコ)の件をお話しすると「植木鉢は置いてみましたか?」とのご提案がありました。以前、読者の方にもそのアイデアをいただいていたので、もはや定石なのか、よほど効果があるのかもしれませんね。
でも兄は人の目を盗んで犯行に及ぶ確信犯なので、動かせるものはうまく横にずらしてなんとしてでもやると思うのです。実際、掃除道具や生ごみ用のポリ容器などでは防げませんでした。きっと花咲く植木鉢を上手に避けてベラオシを遂行するとわたくしは踏んでおります。加えてわたくし自身が植物の世話までしたくないという大前提もございます。もっとも今は修繕工事中でベランダには何も置けませんので、ひたすらに我がマンションのサッシに適応した補助錠が配られることを首を長くして待っているところでございます。
今朝の兄は、トイレから出てくるなり、無言でズボン中心にできた手のひらほどの大きさのシミをわたくしに見せて「これ冷たい」と笑っているので、「じゃ、これに履き替えましょ」と着替えを手伝い、濡れたパンツとズボンを洗濯機に放り込みました。
終わりのないお尿さま問題に「ど、う、に、も、とまらない」と口ずさみながらそろそろ紙パンツを買うべきか…と思ったツガエでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ