兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第135回 続くオシッコ問題】
ライターのツガエマナミコさんが一緒に暮らす兄は、57才で若年性認知症を発症し、現在は63才。昨年から近隣にあるデイケアに週1回通うようになりましたが、それ以外は、ほぼ、自宅のリビングでテレビを観て過ごしています。症状が進行した兄には、排泄にまつわる問題行動が生じています。ベランダで排尿してしまうことのもその一つ。そんな中、ツガエ家のマンション全体に修繕工事が入ることになりました。リビングとベランダを行き来する兄の行動がより心配になるツガエさんなのです。
「明るく、時にシュールに」、認知症を考えます。
* * *
マンションの修繕工事が始まりました。
あれよあれよという間に足場が組まれて、2階だというのにベランダの向こうを人が歩いているシュールな光景を目にしております。
足場を固定するためにドリルを使うとのことだったので、どんな轟音かとビビッておりましたが、思ったほどの音ではなく、時間的にも1日に数回「ズーーーン」「ドンドンカンカン」と鳴る程度でございます。兄は「っるっさいな」と何度かつぶやいておりますけれども、環境の変化に動転することもなく、おとなしくテレビを観て過ごしております。
ただ、まことに残念ながら「ベランダDEオシッコ」は継続中でございます。工事人さまがうろうろしている間は迷わず家のトイレに行くのですが、人目がないと判断したときや、工事が終わる夕方にはそわそわし始め、そのモーションに入ります。
わたくしは基本、部屋で仕事をしており、扉を閉めているので兄を直接見てはおりません。でもヘッドホンを外していれば微細な音も聞こえる距離。椅子から立ち上がってうろうろしたり、カーテンから外を覗いたりしている様子はなんとなくわかります。
そしてゆっくりそ~っと窓を開けようとする怪しい気配を感じ取ったときには、「やるな」と思い部屋から出て「お兄ちゃん、オシッコだったらトイレはこっちだよ」と声を掛けます。するとビクッとして振り返り「え?そう?どっち?」といかにもトイレの場所がわからなかったような振りをしてみせます。いやはや…かなりの大根役者。みえみえすぎてムカつきます。
ただ、毎回パーフェクトにベラオシ(ベランダDEオシッコの略)を阻止できるほどわたくしも暇ではございません。相変わらず漂白剤を入れたお水で1日1回はお掃除しております。
「補助錠でベランダに出られないようにするのがいいのでは?」という御指南を読者の方々にいただきました。まことにありがとうございます。なかなか実行に至らなかったツガエでございますが、修繕工事にあたり補助錠が希望者に配られることになりまして、ついに補助錠生活が始まりそうです。
ベランダぐらい自由に出入りさせたいと思ってまいりましたけれども、今後は外壁などが上から降ってくる可能性がございます。兄がベランダに出ないようにしなければなりません。ただ、あらかじめ用意していただいた補助錠が窓のサッシの規格に合わず、ただいま適合する補助錠待ちの段階でございます。
意外で驚いたのは工事の静かさとともに、マンションに掛かるネットの透明度でございます。黒いネットが掛かるので多少暗くなると聞いておりましたのに、目を凝らしてよく見ないとあるのかないのかわからないほどの薄さ。外から見あげると確かにマンション全体が黒いネットで覆われ、いかにもうっとうしそうですけれども、中にはほとんど影響がない。優秀な技術だと感心いたしました。
そのような中で先日、新しいケアマネジャーさまが来訪されました。今のケアマネさまの定年に伴っての交代でございます。今のケアマネさまはデイケア施設と同じ建物内にいて、いつも行き来しているので、わざわざ兄の様子を聴取しにくることはございませんでしたが、新しいケアマネさまはまったくの外様なので「来月から毎月訪問させていただきます」とのこと。月に1回、ほんの30分ぐらいのことでしょうけれど、また確実に時間が取られるかと思うと気が重いことでございます。
でも熱心に情報提供してくださりそうな感じではございました。お話の流れでショートステイの話題になり、利用するのはややハードルが高いということを伺いました。まずこの辺りはショートステイを受け入れている施設が少ないこと。それゆえに予約が取りにくいこと。確実に取りたいなら3か月みたほうがいいとのことでした。範囲を広げて探せば空きはみつかるかもしれないけれど、家族が送り届ける必要があり、夜に「帰る!」と暴れ出したら遠くまで家族が迎えに行かなければならないという悲劇的なお話しでした。
コロナ禍が落ち着いたらショートステイを使って、地方の取材も、友人との旅行も~と考えておりましたが、そう簡単にはいかないようでございます。とほほ。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ