「一日中テレビを見て過ごす父に母が愛想を尽かし離婚しそう」と心配する娘にマムシさんがかけた言葉
長年連れ添った夫婦には、それぞれのつながり方があり、周囲からはうかがい知れない「独自の世界」を構築している。仕事をリタイアして「抜け殻」になった70歳の父親と、元気ハツラツな67歳の母親の最近の様子を見て、心配を募らせる43歳の娘。父親と母親、両方の気持ちを慮りながら、マムシさんが親思いの娘を励ます。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「母が『抜け殻』になった父に愛想を尽かしている」
コロナの野郎も、やっとおとなしくなったみたいだな。もちろん、まだまだ油断は禁物だけど、いつまでも縮こまっていたら、それこそ健康によくない。元気な高齢者は基本的な感染対策をした上で、いろんなところに出かけて、ご無沙汰していた人とも顔を合わせて、なまった体と心にカツを入れようじゃないか。
そして懐に余裕があったら、外食したり映画を観たりして世の中にお金を回してくれ。それが健全な社会であり、張り合いのある人生ってやつだ。映画と言えば……ま、みなまで言わなくていいか。大いに笑って元気になるあの映画も、引き続き絶賛公開中だ!
今回は、両親を心配する43歳の娘さんからの相談だな。
「70歳の父と67歳の母がいます。私はひとり娘です。父は70歳になったのを機に、再就職して働いていた会社を辞めて無職になり、その途端に『抜け殻』になってしまいました。一日じゅうボーッとテレビを見ているだけで、散歩や買い物にも出かけようとしません。母は元気で、毎日あちこち飛び回っています。
母は最近では、いくら言っても変わろうとしない父にすっかり愛想を尽かしていて、冗談っぽい口調で『もう離婚しちゃおうかしら』と言っています。本当にそうなるかもしれません。どうすればいいでしょうか?」
回答:「夫婦のことは当人同士しかわからない。さりげなく見守ってあげよう」
これはね、ボーッとさせてあげてほしいな。お父さんは70歳になるまで家族のためにせっせと働いてきて、やっとのんびりできる身分になったわけだ。ほら、バリバリ働いている世代の人が、将来の夢を聞かれて「リタイアしたらのんびり暮らしたい」なんてよく言ってるじゃない。お父さんは、ようやくその夢を手に入れたわけだよ。
さっき「どんどん出かけよう」なんてハッパをかけたばっかりだけど、出かける気になれない人に無理強いするつもりはない。今はボーッとしたいんだったら、ボーッとしてていんだよ。そのうちボーッとするのにも飽きて、なんかやりたくなるんじゃないかな。
お母さんも、もちろん本気で離婚する気があるわけじゃない。ただ、お父さんの相手をしてても疲れるだけだから、自分で行きたいところに行ってるんだろう。歳を取った夫婦の場合はなおさらだけど、相手に無理に合わせようとしないで、それぞれが自分のペースを守ったほうがいい。それが夫婦円満の秘訣だよ。
娘であるあなたとしては、お母さんがお父さんの相手をしないんだったら、代わりに話し相手になってあげるのがいいんじゃないかな。お母さんがいないあいだも、ちゃんと栄養のあるご飯食べさせたりとか、健康も気遣ってあげるといいね。娘が誘えば、きっと買い物ぐらいはいっしょに行く気になるよ。
あくまであなたにできる範囲でだけど、お母さんにも「お父さんは私が見てるから、心配しないで出かけてきて」と言って、どんどん離してあげてもいいと思う。お母さんは本当は友達と旅行に行きたいのに、お父さんがいるからって我慢してたりすると、八つ当たりで冷たい態度をとっちゃうかもしれない。それはお互いにかわいそうだ。
夫婦っていうのは、十組いれば十通りの形がある。とくに長年連れ添った夫婦は、本人たちにしかわからない阿吽の呼吸みたいなのがあって、はたから見ると理解できない部分も多いからね。もし、あなたの中に「夫婦は本来こうあるべきだ」というイメージがあって、両親がそれに当てはまらないことを気にしているんだとしたら、まったく心配ない。お父さんとお母さんは、自分たちにとって居心地がいい「夫婦の形」をやってるんだよ。
そうはいっても、どちらにもお互いへの不満はあるだろう。それを聞いてあげられるのは、娘のあなただけだ。聞いたからって、わざわざ相手に伝えちゃダメだよ。そんなことしたら仲が悪くなるだけだ。アドバイスもたいていの場合は必要ない。深刻な問題じゃなくて相手への不満程度のことは、黙って聞いてあげるのが何よりの親孝行だと思うね。
あなたの心配はわかるし、そうやって心配してあげているあなたは、とてもいい娘さんだよ。どうしても気にはなるけど、夫婦の問題には子どもでさえも入り込めない部分がある。両親が楽しい老後を過ごせるように、これからもさりげなく見守って、さりげなく手を差し伸べてあげてくれ。いい娘さんを持って、あなたのご両親は幸せ者だよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。このほど、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。公開中の映画『老後の資金がありません!』では、元警察官の頑固ジジイ役で名演技を見せている。
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取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。