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『鎌倉殿の13人』2話 八重と義時の先が思いやられる「その場しのぎのウソ」「おまえだけに話す」

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』2話。源頼朝(大泉洋)が北条義時(小栗旬)に思惑を吐露、義時の姉、政子(小池栄子)とも仲を深め、早くも登場人物の輪郭がはっきりしてきた「佐殿の腹」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが振り返りながら解説します。

三浦義村(山本耕史)の危機対処能力の高さ

『鎌倉殿の13人』では前回、伊豆の豪族・伊東祐親(浅野和之)が、自分のもとで監視していた流人の源頼朝(大泉洋)が娘の八重(新垣結衣)と関係を持ち、子供まで儲けたことに激怒、頼朝を殺すと息巻き、彼を匿った北条時政(坂東彌十郎)に引き渡しを求めて兵を向けた。当の頼朝は、時政の息子の義時(小栗旬)とひそかに館を脱出する。

 続く第2回の冒頭では、伊東と北条を仲裁するため相模の豪族・大庭景親(國村隼)が現れた。景親は、この際、頼朝は北条の預かりとして、八重には頼朝と完全に手を切らせることで手を打ってはどうかと提案。これに対し祐親は、頼朝を平清盛(松平健)から預かった以上、北条に渡すわけにはいかないと抗弁したものの、預かっている以上は勝手に殺すわけにもいかないだろうと諭され、ようやく承服する。景親は清盛と強いつながりを持つだけに、これ以上つっぱねるわけにもいかなかったのだろう。おかげで頼朝は命拾いした。

 大庭景親が仲裁役を買って出たのは、同じく相模を拠点とする三浦義澄(佐藤B作)の働きかけによる。もっとも、これは息子の三浦義村(山本耕史)が義澄に入れ知恵したものだった。義村は前回、義時から頼朝を匿ったと打ち明けられ、このままでは祐親が黙ってはいないと察すると、何やら思いついて父に「いい手があります」と言っていたが、その「いい手」がこれだったのだ。こうした義村の危機対処能力の高さは、今後、義時を盟友としてフォローするなかでさらに発揮されるに違いない。

その場しのぎのウソから始まることの多い三谷作品

 景親を演じる國村隼は、風貌からしていかにも“地元の顔役”という雰囲気が漂う。主演の小栗旬とは昨年放送のドラマ『日本沈没―希望のひと―』での共演も記憶に新しい。三谷幸喜の作品では、もう20年以上前になるが、ドラマ『合い言葉は勇気』(2000年)での産廃処理会社の社長役が印象に残る。

『合い言葉は勇気』では、ある小さな村に産廃処理場を建設しようとする國村と戦うべく、その村に住む香取慎吾演じる主人公たちが、役所広司演じる売れない俳優を弁護士に偽装する。これは、村側の弁護士のなり手がいなかったがゆえの苦肉の策であったが、思えば、三谷幸喜にはこの手のその場しのぎのウソから物語が展開する作品が多い。

『鎌倉殿』の第2回でも、祐親が八重から息子の千鶴丸はどうしたのかと訊かれると、自分の命令で殺したにもかかわらず、「出家させた」とウソをついた。それも「本当ですね?」と念を押す八重に対し「娘にウソはつかん」と二重に。

 祐親が千鶴丸を殺した理由を、筆者は前回のレビューで北条を脅すためと書いたが、よく考えてみれば、監視対象の頼朝が自分の娘と子供をつくったことが清盛に知れたら何をされるかわからない。祐親としては、千鶴丸殺害は家を守るための苦渋の決断だったのだろう。かといって八重に事実を話せば、どれだけ悲しませ、責められることか。そこでウソをつかざるをえなかったわけだが、いずれはバレてしまうはず。そのときのことを想像すると切なくなる。

小栗旬より新垣結衣のほうが年上に見える不思議

 義時もまた八重にウソをついた。それは、祐親の命令で家人(けにん)と結婚することになった八重をせめてもう一度だけ頼朝と会わせようと、彼女の兄の祐清(竹財輝之助)と義時の兄・宗時(片岡愛之助)が席を設けたときのこと。面会の場となった武蔵の比企氏――頼朝の乳母で後見人である比企尼(草笛光子)とその息子夫婦の比企能員(佐藤二朗)と道(堀内敬子)――の館まで、義時が頼朝を連れて行くよう命じられるも、当人からあっさり断られる。仕方がないので一人で館に赴くと、八重には、頼朝の言葉をでっちあげて、「思いのほか、北条の守りが厳しく、とても館を抜け出せそうにありません。必ずまた会える日が来ることを祈っています」と伝えたのだが、「もっとまともなウソをつきなさい!」とすぐに見破られてしまった。

 義時としては八重を傷つけまいとしてついたウソだったが、彼女はそこに白々しさを感じたのだろう、「私は命懸けでここに来ている。父に咎められれば自害する覚悟もあった。なぜ、あなたも命懸けでウソをつかない。そんなことで私がだませると思ったか」と責め立てた(しかし、この口ぶりからすると、八重は祐親のウソにも気づいているようにも思えるが……)。

 このときの義時と八重のやりとりからは、両者の関係も垣間見えた。親戚とはいえ、家の力関係でいえば八重が上であり、年齢もおそらく彼女が上なのではないか。演じる小栗旬と新垣結衣の実年齢は逆だが、不思議と劇中では新垣のほうがお姉さんに見える。八重が義時に石を投げる演出も効いていた。

 ちなみに当時(1175年)の義時は、満年齢でいえば12歳である。いまなら小学6年生に相当するが、この時代の平均寿命からすればそろそろ一人前の大人として認められようかという年頃であっただろう。

「鯵がお嫌いなのではなくて小骨がお嫌いなんでしょう」

 義時に対し、兄の宗時は生年不詳のため年齢はわからないが、姉の政子(小池栄子)は6つ上で当時まだ18歳。それでも前回、頼朝や義時から“嫁に行き遅れた”という扱いをされていたあたり、やはりこの時代のライフサイクルの早さがうかがえる。その政子が今回、頼朝と急接近した。

 先に惚れたのは政子だが、頼朝もしだいに彼女に惹かれていく。きっかけは政子が彼の食事に鯵の干物を出したことだった。頼朝は事前に小骨の多い魚は苦手だと、側近の安達盛長(野添義弘)を介して伝えていただけに不機嫌になる。しかし政子は「小骨は抜いておきましたよ。佐殿(すけどの=頼朝のこと)は鯵がお嫌いなのではなくて小骨がお嫌いなんでしょう。脂が乗っていておいしゅうございますよ」と笑顔で返した。相手の言うまま従うのではなく、かといって無理強いするのでもない。さりげない言葉でやる気を引き出す政子に、頼朝も何か感じた様子であった。

 ただ、政子に惹かれながらも、八重には自分の子供を産ませたことで苦しみを負わせてしまったとあって、同じ過ちは繰り返したくない。頼朝はそのことを政子に直接伝え、どうにか思いを断ち切ろうとしたのだが、これがかえって彼女の心に火をつけた。「あの方の代わりはできません。でも、私なりに佐殿をお支えしとうございます」と迫ると、頼朝も「政子殿……。生きていたからこそ、いま私はここにいる。政子殿と知り合うことはなかった。生き長らえてよかったと、これほど深く感じたことはないぞ」と応じるのだった。

 このあと、政子が頼朝と湯河原へ出かけたと、武蔵から戻ったばかりの義時が聞きつけ、慌てて追いかける。しかし、湯河原の温泉場にいたのは頼朝だけ。訊けば、政子には「まだ早い」と断られたという。じつはこのとき、彼女は伊東の館へ赴き、八重に頼朝への思いを断ち切らせるため会っていた。本人の言うように「出過ぎた真似」ではあったが、政子なりに筋を通したといえる。先の食事の件とあわせ、のちに尼将軍と呼ばれる彼女の政治手腕の片鱗をうかがわせる場面であった。

「おまえだけには話しておく」

 義時はそんなことはつゆ知らず、頼朝が姉に近づくことが許せない。そのため当人と一緒に温泉に入りながら「出て行ってください、北条から」と率直に訴えたのだが、頼朝はここで思いがけない告白をする。いわく流人である自分には、いざというときに力になってくれる後ろ盾がいない。伊東の者たちがそうなってくれるよう望んだものの(八重と関係を持ったのもそのためだったのだ)、失敗してしまった。「そこに北条が現れた。もう失敗は許されない。わしには時がない。わしは北条の婿になり、北条を後ろ盾として悲願を成就させる。それゆえ、政子殿に近づいたのだ」――彼の言う悲願とは何か? それは挙兵して宿敵・平清盛を倒すことであった。

 頼朝はこれより前、義時に八重との面会を断った際、この際だから兄に伝えておけと、挙兵するつもりはないと言い切っていたが、じつは真っ赤なウソだったのだ。しかしそれは、祐親や義時が八重についたようなその場しのぎのウソではなく、実行するまで挙兵の意志を隠しておくための計算ずくのウソであった。それゆえ、頼朝は義時に心中を打ち明けてもなお、「事は慎重に運ばねばならん。このことは兄にも話すな」と釘を刺した。

 義時としても、武蔵に向かう途中で、清盛の威光を笠に着た地元の実力者・堤信遠(吉見一豊)に無理やりひざまずかされた直後でもあり、平家には思うところはあったのだろう。そこへ来て頼朝から「おまえだけには話しておく」と挙兵の意向を明かされたあげく、肩に手を置かれて「小四郎(義時の通称)、おまえはわしの頼りになる弟じゃ」とまで言われては、「ははっ!」と答えるしかない。

 こうして頼朝は、北条家からまず政子と義時を取り込むことに成功した。とはいえ、彼が義時に言った「おまえだけには話しておく」とは、詐欺師が相手をそそのかす常套句でもある。そう考えると、義時が頼朝からどんなふうに使われるのか、先が思いやられるところではある。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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