兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第130回 なとみ画伯との対談を終えて】
好評連載中の「兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし」でタッグを組んでいる執筆者のツガエマナミコさんとイラストレーターのなとみみわさん。そのお2人の初顔合わせで対談企画が実施されました。その記事はもうご覧にいただきましたか?普段はライターとして、数多くの取材を行うツガエさんが、このたび取材される側になったら、思いの外、緊張したとのことでした。しかし実際は、「そのように緊張されていたとはわからぬほど、ディープなお話で盛り上がりましたよ」(担当記者談)。今回は、ツガエさんの対談後記です。
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自分にライトが当たる現実に頭が追いつかず…
長年愛用してきた兄のコーヒーメーカーが寿命を迎えました。会社勤めを辞め、隠居してからもしばらくは唯一の仕事のように毎朝コーヒーを淹れてくれた兄でしたが、いつしか手順を忘れ、コーヒーを淹れられなくなり、わたくしが代理を務めるようになると、コーヒーメーカーが徐々に弱り、ついに通電しなくなりました。主なきコーヒーメーカーが見守る中、格安インスタント粉コーヒーを飲むツガエでございます。
先日、このイラストを担当してくださっている「なとみ画伯さま」と対談という形で初対面させていただきました。お見かけした限り、たぶん同世代(違ったらすみません)。偶然にも洋服の色合いが奇跡的にかぶってしまい申し訳なかったのですが、センスの違いは明らかで、段違いに垢ぬけたお姿でいらしゃいました。
わたくしのつたないギャグをわかってくださり、信じられないシンクロ性を以ってわたくしの脳内イメージを具現化してくださる天才イラストレーターさまにお目にかかれたあの日のことは、なんだか夢の中の記憶のようでございます。
「こちらへどうぞ」と小学館さまの広く美しい応接室に案内されたときには、すでにライターさまとカメラマンさまが準備中でございました。なんというか精神的にまぶしい空間。カメラ用のライトが立ち、白い床に黒いケーブルが這っている光景は、よく見るものですのに、自分がライトを当てられる側になるという現実に頭が追いついてこない感覚でした。
そこへ遠目からでもわかるクリエイティブな世界で生きる人ならではのオーラをまとった画伯がいらっしゃり、舞い上がったわたくしはお花摘みに(お手洗い)逃げ込み、そこからは気持ちも体もふわふわして定かではございませんでした。
なとみさまと並び、立派な先生のように丁重に扱われる心地よさと、「ちゃんと気の利いた答えをしなければ」というプレッシャーがぐちゃっとなった状態で対談は始まりました。
いつもならわたくしに向くはずのないカメラが、わたくしとなとみさまをとらえている。生意気にも「顔出しNG」という条件で、ツガエの顔は画伯のイラスト処理をされるとわかっていても、一瞬「芸能人みたい」と浮かれてしまいました。そして最後まで地上から1センチほど浮いたような感覚で、気づいたらなんとなく終わっていたのがあの日の真相です。
日常の介護のあれこれを語るだけでありますのにリアルタイムでQ&Aすることは本当に難しく、「ろくなこと言えなかった」と帰りの電車では一人反省会でございました。お話しを広げようとしてくださるなとみさまやライターさまの絶妙なフォローや笑顔が次々と思い出され、気が付けば20分間も反対方向の電車に乗っておりました。往復40分のロスに溜め息し、お夕飯にお弁当を買って帰ったゲスト・ツガエでございます。
そして翌朝、いつもならワイドショーのコメンテーターに「そんなの誰にでも言えるやんけ」と突っ込んでいたわたくしがクルっと手のひらを返し、テレビに出ているすべての方をご尊敬申し上げるようになりました。
こうして文章を書くときには、世に出す前にいくらでも修正ができますけれど、生放送で話すというのはかなりのハイリスクでございます。口から出てしまったものは訂正しても、聞いた人がいる限り消えない性質を持っております。問題発言の多くはそういう「ポロリ」が本音として世に出回り、大きな波紋となるのでございましょう。
生放送とは比べ物になりませんが、インタビューを受けることの難しさを改めて思い知ったライター・ツガエでございます。
→スペシャル対談第1回:兄ボケSpecial「お兄さんはポール・マッカートニー似!?」涙と笑いの介護対談
→スペシャル対談第2回:兄のシモ問題に悩む女性と介護経験をもつイラストレーターが本音トーク「涙が出るときがありますね」
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ