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映画『老後の資金がありません!』に出演の毒蝮三太夫「老後ど真ん中の高齢者にこそ観てほしい」

「老後の資金」と聞くと、誰もが反射的に「ギクッ」とする。しかも「ありません!」と言って天海祐希さんが頭を抱えていたら、その顛末が激しく気になってしまう。10月30日に公開される話題の映画『老後の資金がありません!』に出演し、重要なシーンでさすがのインパクトをはなっているマムシさんに、映画の撮影秘話を聞いた。(聞き手・石原壮一郎)

草笛さんに「ババア」と言ったのは気持ちよかった

 あの天下の草笛光子さんに「ババア」って言っちゃったよ。役の上とはいえ、気持ちよかったなあ。アハハハ。お互い、昭和20年代から映画の世界で生きてきた。草笛さんは大スターで大先輩。共演したのは初めて。この歳まで頑張ってて“同志”みたいな気持ちもある。だからこそ言えたわけだし、いろんな思いを込めた「ババア」だったな。

 10月30日に公開される映画『老後の資金がありません!』は、これから老後を迎える中年世代はもちろんだけど、老後ど真ん中の高齢者にこそ観てほしいね。今をどう楽しく生きるかのヒントがいっぱいあるし、何より観ると元気になる。観るワクチンだよ。

 本筋じゃない部分だから言っても大丈夫だけど、俺は大泉健三という元警察官の頑固ジジイの役をやってる。主人公(天海祐希)の友達(柴田理恵)の父親だ。その家ですったもんだがあって、主人公のお姑さん役の草笛光子さんが、なぜかジジイの格好をしてる。これがまた、迫真のメイクなんだ。

 撮影の時は、ジジイに扮した状態の草笛さんしか見てない。セットに入って「きたねージジイがいるな」と思ったら、よく見ると草笛さんなんだよ。しかも、ちょうど前歯が抜けちゃって、歯抜けの状態だったらしい。でも「もういいわ、これで」って言って、そのまま撮らせた。さすがの女優魂だし、度胸があるよね。

 俺が草笛さんに向かって「なんだババアじゃねえか」って言うんだけど、そのセリフはもともと台本にはなかった。かといって、アドリブで言ったわけじゃない。映画やドラマでは撮影とは別の日に、あらためて「アフレコ」っていうセリフを入れる作業をやる。とくにあのシーンはスローモーションの演出だから、当日に録った分だけだと音が足りない。

人生100年時代、楽しく長生きできないと長生きの価値がない

 その時、草笛さんの映像を見ながら、前田哲監督に「ここで『ババアか』って言いたいよね」と言ったの。そしたら監督が「そうなんですよ! それが足りなかったんですよ」ってうなずいて、「いいですね、入れましょう」ということになった。今回は生真面目なジジイの役なんだけど、俺が出てきたら「どっかでババアって言うんじゃないか」と思うよね。そのシーンをホメてくれる人もけっこういて、「ババア」を入れられてよかったよ。

 映画の中では面と向かって言ってるみたいだけど、あとから付け足してるから俺の背中越しのセリフなんだよね。草笛さんは完成した映画を見て、初めて自分が「ババア」って言われてるのを知ったわけだけど、もちろん怒ったりなんかしない。そういえば撮影の時に、草笛さんが「私もババアになったけど、あなたもジジイになったわね」って言ってた。そういうサバサバした人なんだよ。

 ほかの女優さんだったら、いくら80代だからって「ババア」とは言えない。監督も言わせないだろう。言う側だって、ラジオの「ミュージックプレゼント」で50年以上も「ジジイ」「ババア」と言い続けてきて、しかも同年代の俺だから許される。若手の俳優や芸人が言ったら、リアリティーがなくて単に「失礼だな」って印象になるかもしれない。

「あのシーン、面白かったです」「マムシさんにしかできない役ですね」なんて言ってもらうと、やっぱり嬉しいよ。ラジオの生中継や、もともとふざけた役をしている時とは違って、面白いことは言わないし愛嬌があるわけでもない。頑固な役を真面目に演じたら、それをたくさんの人が喜んでくれた。役者冥利に尽きるとはこのことだ。

 草笛さんご本人もそうだけど、彼女が演じたお姑さんの役は、ああいうふうに歳を取っていこうという理想形ですよ。戦争を知っている年代の人間は、さりげなく気をつかいながらもワガママに生きる大事さを知っている。人生100年時代になったわけだけど、楽しく長生きできないと長生きする価値がない。そのためには、チャーミングな愛されるワガママをやりなさいと教えてくれるわけだ。軽い話に見えるけど、ひじょうに深い内容だよ。

 映画館はご無沙汰って高齢者も、久しぶりに足を運ぶときっといい刺激になる。昔の映画館と違って、ごみごみした中で立って観るなんてことはない。椅子もふかふかだし館内は清潔だし、念入りに換気されてて空気もきれいだ。シニア割引があるから1000円ちょっとで観られるしね。「老後の資金」の映画をきっかけに、老後の新しい楽しみを見つけるのもいいんじゃないかな。

毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評! 10月30日公開の映画『老後の資金がありません!』では、元警察官の頑固ジジイ役で名演技を見せている。
YouTubeでスタートした「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、たちまち絶好調! 毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

超実用 好感度UPの言い方・伝え方

●「親の無駄遣いが目に余る」と悩む48歳・男性に毒蝮三太夫がズバリ!アドバイス【連載 第3回】

●「施設入居者の暴言、暴力が辛い」女性の悲痛な叫びに毒蝮三太夫は「介護職は神に近い仕事である」【連載 9回】

●「親が認知症になったら…」毒蝮三太夫がズバリ!アドバイス

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