ワクチンの理屈、ステイホームのストレス、思い込みの怖さをNetflix傑作3選で解消
8月27日、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置対象地域が追加されました(緊急事態宣言は21都道府県、まん延防止等重点措置は12県に)。コロナ禍の収束が見えない日常のなか、感染の歴史やワクチン開発が学べるドキュメンタリー、ステイホームを逆手に取ってエンターテインメントにした作品、思い込みが世界の秩序が崩壊していく映画など、コロナ禍を生き抜く知恵と力を与えてくれる作品をNetflixに発見。ゲームデザイナーの米光一成さんに、3作紹介してもらいます。
『”新型コロナウイルス”をダイジェスト』:「ワクチン開発レース」のわかりやすさ
Netflixとニュースメディア「Vox」のコラボレーション作品『世界の”今”をダイジェスト』は、2019年のシーズン2で伝染病を扱った(「次なる伝染病」)。
これが、まさにコロナ禍の状況を的確に予見していたことで話題になった。
その中のショート・ドキュメンタリーシリーズの”新型コロナウイルス”編が、『”新型コロナウイルス”をダイジェスト』。専門家へのインタビューと、インフォグラフィックスで、わかりやすく短く世界の今を解説する。全部で3話。1話25分前後だ。
1話「今起きているパンデミック」
2話「ワクチン開発レース」
3話「不安と向き合う方法」
特に2話目の「ワクチン開発レース」が興味深い。協力し競争しながら世界中の叡智がワクチン開発を進める状況を、レースに見立ててわかりやすく解説していく。
・ウィルスはなぜ手強いのか。
・ワクチンがウィルスに対抗する仕組み.
・第3世代ワクチンとは何か。
・3段階の治験をどのように行い、スピードをあげたか。
・国益を超えた協力体制の問題やコストの問題はどうなのか。
2020年4月26日に配信されたドキュメンタリーなので、この時点ではまだワクチンは完成していない。だが、モデルナなどの具体名もあげながら、たくさんのワクチン候補が登場する。
「これは(ワクチン開発)候補間の競争ではなくウィルスと人類との競争なのだ」
知ることによって、わたしたちは対処できる。
『”新型コロナウイルス”をダイジェスト』
Netflixと「Vox」のコラボレーション作品
『#生きている』:ステイホームのサバイバルから見える希望
ステイホーム! ステイホーム! テレビは国民行動原則を呼びかけ続ける。外は感染症だらけで危険。噛みつかれるとゾンビ化し、感染が拡がっていく。生き残る手はないのか。
韓国映画の傑作『#生きている』は、ステイホーム・ゾンビ映画だ。
主人公オ・ジュヌはゲーム実況者。団地に住んでいる。スマホの緊急速報で、窓から外を観ると、すでにゾンビだらけの世界。ひとり取り残されてしまう。
前半は自宅待機。ゾンビが跋扈し外には出られない。ずっと部屋の中だ。
孤立した状況下でサバイブする主人公オ・ジュヌを演じるのは、ユ・アイン。村上春樹の短編小説『納屋を焼く』が原作の『バーニング 劇場版』で主役を演じた若手注目株だ。後半、向かいの団地の少女キム・ユビン(パク・シネ)と出会って、胸キュン展開も加わる。窓越しに連絡を取り合うためにドローンを飛ばす。オ・ジュヌは、ゲーム配信者で、ハイテクオタク。デジタル機器を使って危機を突破しようとする。キム・ユビンは、アウトドア派で、ロープや手斧などの登山道具を使ってガンガン行く。いいコンビなのだ。
ゾンビ映画は絶望的に終わる作品もあるが、本作は希望を描く。コロナ禍が続いてステイホームも飽きちゃったいまこそステイホームして観てほしい限定空間極限状態サバイバルホラーの傑作。
『#生きている』
監督:チョ・イルヒョン 脚本:マット・ネイラー&チョ・イルヒョン 音楽:キム・テソン 出演:ユ・アイン、パク・シネ
『ザ・ディスカバリー』:思い込みが感染して人が死んでいく世界
科学者トーマス・ハーバーが生放送でインタビューを受けている場面から始まる。科学者を演じるのは、名優ロバート・レッドフォードだ。
「あなたの発見は危険すぎませんか?」
彼が発見したのは、死後の世界。
その後、誰がどう調べても結論は変わらず。死後の世界の存在が証明されてしまうのだ。そのせいで、100万人もの自殺者が出てしまう。
インタビュアーは、科学者の責任を問い詰めるが、衝撃的な出来事のせいで(観てください)それも中断してしまう。
いやー、すごい導入。しかも、この後、コロナ禍の閉塞感と極めて似ている世界が描かれる。
死後の世界が証明されて2年がたち、自殺者数を掲示する装置が日常の中に取り込まれている。
400万人以上が自殺したことを示す装置には「自殺防止 現世の命を大切に」というスローガンが表示されている。
競技上でチアリーダーが集団自殺し、脳腫瘍が見つかった人が喜ぶ。観たことのないディストピアを舞台に、主人公の男が、科学者トーマス・ハーバーが実験を続けている島に訪れ、ねじれにねじれた展開が続く。
決して、明るく爽快なエンタテインメントではない。陰鬱で、暗い。最後に見せる一筋の希望も儚い。
ウィルスの感染ではなく、考え方が感染して人が死んでいく世界で、どうやって希望を見いだすのか。
覚悟して観てほしい。
『ザ・ディスカバリー』
監督:チャーリー・マクダウェル 脚本:ジャスティン・レーダー、チャーリー・マクダウェル 出演:ジェイソン・シーゲル、ルーニー・マーラ、ジェシー・プレモンス、ライリー・キーオ、ロバート・レッドフォード
文/米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。