おじいちゃん、おばあちゃん大活躍!人生の先輩がまぶしいNetflix傑作韓国ドラマ3選
開幕したオリンピックに声援を送りながらも、コロナの禍の不安は拭い去れず、ニュースも感染拡大を伝えてくる。明るい未来がなかなか見えない現実を励ましてくれるのは、やっぱり人生の先輩たちの豊かな経験、強い言葉ではないでしょうか。動画配信サービスNetflixで今もっとも勢いのある人気の韓国ドラマから、そんなパワーをもらえる3作を、ドラマに詳しく、韓国留学体験もあるライターのむらたえりかさんが紹介します。
年長者のパワー全開!韓国ドラマ
仕事でも家庭や地域の活動でも、元気な年長者と接すると不思議と自分にもちからが湧いてきます。それだけでなく、さまざまな経験の話を聞いて人生を学んだりアドバイスをしてもらったり、ときには、まるで同世代かのように心が通じ合うことも。今回は、そんなパワーをもらえるおじいちゃん、おばあちゃんに、Netflixで配信中の韓国ドラマに出会いに行ってみました。
『ナビレラ -それでも蝶は舞う-』:定年を迎えた70歳がバレエダンサーを目指す
『ナビレラ -それでも蝶は舞う-』は、70歳になり仕事で定年を迎えたドクチュルが、こどもの頃に夢見ていたバレエダンサーを目指すドラマ。韓国で「国民の父親」として愛されている俳優、パク・イナンが主人公を演じた。
70歳で新しい挑戦、しかもそれがバレエダンサー。一般的に、バレエは幼い時期に始めたほうが良いと言われ、そしてダンサーとしての寿命も長くはない。ドクチュルは、始めは先生にも「危険だから」「無理だと思う」と指導を拒否されてしまう。しかし、若き天才ダンサー、チェロク(ソン・ガン)が出した難しいテストに見事合格し、夢への第一歩を踏み出していく。
バレエを習っていることが家族に知れると、「みっともない」「恥ずかしい」「怪我をしたらどうするんだ」と猛反対を受けるドクチュル。それでもバレエを続けたいのには、理由があった。自分がアルツハイマーを患っていると知っていたからだ。
もし、わたしの父親や祖父が定年後に危険で難しい夢を追いかけると言い出したら、素直に応援することができるだろうか。周囲の反対や心配、嘲笑を受けながらも努力を続けるドクチュルの姿を見ていると、自分にそう問いかけずにはいられない。
「やれるときにやってみたい
迷っている暇はないんだ」
人生の残り時間を悟っているからこそ、難しいチャレンジにも全力で打ち込むことができる。そして、チェロクや孫、こどもたち、パートナーに必要なものを残すことができる。アルツハイマーを恐れるドクチュルの苦しみと、だからこそ、いまできることを精一杯にやるのだという決意に胸打たれる作品だ。
『ナビレラ -それでも蝶は舞う-』
出演:パク・イナン、ソン・ガン、ナ・ムニ 原作・制作:ハン・ドンファ、イ・ウンミ
『椿の花咲く頃』:韓ドラあるある「世話焼きおばあちゃん」は理想のおばあちゃん像?
韓国ドラマに出てくるおばちゃんたちの人情やキャラクターに、笑ったり泣いたりすることはとても多い。『椿の花咲く頃』には、どんな噂も秘密も共有し合う、地域のおばちゃんたちが登場する。彼女たちをまとめるのは町内会長でもある長老のような女性、ドクスン(コ・ドゥシム)。
物語は、主人公のシングルマザー、ドンベク(コン・ヒョジン)がオンサンという田舎町に引っ越してきて居酒屋を開くところから始まる。突然やってきた子連れの美女に、彼女はどんなひとなのか? なぜここで居酒屋を開くの? と、おばちゃんたちの噂話は大盛り上がり。町の男性からの人気を集めてしまったドンベクを快く思わないひともいた。
そんな中、町内会長ドクスンの息子で警察官のヨンシク(カン・ハヌル)の赴任先が代わり、町に戻ってくる。彼は、偶然に出会ったドンベクに一目惚れして、不器用ながらも距離を縮めていこうと努力していく。
ドクスンはドンベクを自分の娘のように可愛がる。いじめられているときには周囲を一喝し、困ったときには年長者の経験や知恵を持って手助けしていた。知り合いがひとりもいない地域で、ドンベクもドクスンを慕い頼るようになっていく。
しかし、ヨンシクがドンベクに恋をしてしまい、ドクスンの心境は複雑に変化する。自分の息子が子持ちで訳のありそうな年上のシングルマザーと一緒になる。それは幸せなことだろうか。まるで娘のようなドンベクに幸せになってほしい一方で、自分の息子にも当然幸せな交際や結婚をしてほしい。苦労をかけたくない。町内会長として、そして母親として、母親代わりとして……、ドクスンは葛藤していく。
本作の主人公はドンベクとヨンシクだが、脇役であるドクスンのもどかしい気持ちが随所に描かれていく。自分の息子だけでなく、素性のわからない他人の幸せをも願える彼女の優しさと、「誰かの幸せを願う」ことの難しさ。その揺れ動きがスパイスとなって、田舎町の人情やひとと繋がることのあたたかみを引き立てる。
実は、このドラマはラブロマンスだけでなく、ある殺人事件をめぐるサスペンス作品でもある。緊張感が張り詰めるサスペンスパートのあと、日常パートでドクスンの顔を見ると、ドンベクやヨンシクでなくてもほっとする。こんな頼れるおばあちゃんがいてくれたらいいな、こんなおばあちゃんになりたいな、と思う、情にあふれた理想のおばあちゃん像かもしれない。
『椿の花咲く頃』
出演:コン・ヒョジン、カン・ハヌル、キム・ジソク 原作・制作:チャ・ヨンフン、イム・サンチュン
『Sweet Home -俺と世界の絶望-』:もう時間がない、だから強い若者へのメッセージ
最後に紹介するのは、ホラー作品『Sweet Home -俺と世界の絶望-』だ。人間が怪物になってしまう世界で生き残った、「グリーンホーム」というマンションの住人たち。引きこもりの高校生だった主人公のヒョンス(ソン・ガン)が、グリーンホームの人びとと関わり、誰かを守るために戦う成長物語。
「韓国ドラマは長い作品ばかり」というイメージがあったが、この作品は全10話。スピード感がありながらも、ヒョンスを通して多くの登場人物一人ひとりのバックグラウンドが描かれるので濃厚なドラマを感じる。また、住人たちを襲う怪物のディテールも一体一体が細かく、美術造形も見どころのひとつ。
グリーンホームには、夫婦で暮らすひと、一人暮らし、管理人など、さまざまなひとが暮らしている。始めにヒョンスを助けてくれたのは、一人で車いす生活を送っている男性、ドゥシク(キム・サンホ)だった。ドゥシクは機械の修理やものづくりが得意で、ヒョンスに電流が通る槍を与える重要な役どころ。
ヒョンスとドゥシクが出会ったのは、父親を怪物に食べられたこどもたちを救うためだった。車いすがないと移動ができず、戦うには不自由な身体でありながら、ドゥシクは自分の部屋にこどもたちをかくまう。後半では、幼いこどもを亡くしたばかりの母親、ミョンスク(イ・ボンリョン)を迎え入れ、ドゥシクの部屋に「仮の家族」のような関係性が生まれていく。
またヒョンスは、病気で余命宣告を受けながらも、怪物と戦い生き延びているおじいさん、ギルソプ(キム・ガプス)とも出会う。彼はケアワーカーのユリ(コ・ユンジョン)とともに、グリーンホームの中で密かに生き残っていた。
ギルソプは、自分の命がそう長くはないと受け入れていた。だからこそ、ヒョンスやユリ、そして他の若者やこどもたちのために自分が犠牲になっても構わない、という心意気で大胆に怪物に立ち向かっていけるのだ。
彼のような自己犠牲がそれだけで美しい、かっこいいと言われた時代もあったかもしれない。しかし、ギルソプには彼を大切に思い、生きていてほしいと願うユリがついていた。そして、こどもたちも彼を慕うようになっていく。「自分が犠牲になっても構わない」という大胆さと、「生きていてほしい」と願ってくれる存在に応えたいという思いが、ギルソプのキャラクターに厚みを持たせている。
ドゥシクとギルソプ、このふたりの年長者たちは、ヒョンスはもちろんグリーンホームの若者たちにそれぞれ違った背中を見せる。ホラー作品の極限状態だからこそ伝えられる若い世代へのメッセージを、彼らの姿から感じ取ってほしい。
『Sweet Home -俺と世界の絶望-』
出演:ソン・ガン、イ・ジヌク、イ・シヨン 原作・制作:イ・ウンボク、ホン・ソリ、チャン・ヨンウ、キム・ヒョンミン、パク・ソヒョン、パク・ソジョン
文/むらたえりか
ライター・編集者。ドラマ・映画レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。宮城県出身、1年間の韓国在住経験あり。