介護施設入居者25%のおむつを外した 話題のアプリ『ノーティス』の効果
「開発したアプリソフトを使用して1年で、施設入居者のかたのうち25%の人のおむつが外れたんです」
こう話すのは、社会福祉法人「福智会」(福岡県)で特別顧問を務める吉岡由宇さん(35才)だ。いくつもの介護施設から「うちでも導入したい」と声があがるアプリソフト『Notice』(ノーティス)の開発者として、今、業界で注目されている。
誤嚥性肺炎の防止、自力での排出などの効果に期待
介護施設では通常、介護スタッフが入居者の食事と水分補給の量やタイミング、排泄時間や回数などを記録するが、ただ記録するだけでは、データを生かすことは難しい。そこで『ノーティス』は、介護利用者のあらゆる記録を一元化し、チャートで図式化。期待できる効果は、前述したようにおむつが外れるだけでなく、たとえば、脱水症状による発熱や、誤嚥性肺炎の防止、自力での排泄などさまざまだ。
とりわけ排泄についての期待は高い。2012年には大人用紙おむつの市場規模は子供用を逆転。生産数は約34億枚(2004年)から約74億枚(2016年)となり、ユニ・チャームでは以降、毎年約5%ずつ売り上げが伸び、2016年の問い合わせ件数は4年前の約2倍になったという。
利用者の増加に伴って、悩みを抱える人も増えている。内閣府が2013年に約700人を対象に行った調査によると、「介護で苦労したこと」として排泄(おむつの交換など)が62.5%と最多だった。また、全国各地で大手メーカーなどが開催する「おむつ講座」は、開催数も参加者も急増するなど、負担を抱える人が多いことがわかる。
おむつが外れることは介護する側、される側双方にとっての“希望”。『ノーティス』はそれを実現したからこそ、注目されているのだ。
誰から順にトイレに誘導すればいいか人目でわかる
「理屈は非常にシンプルです。個人個人の介護記録をスマートフォンの端末に取り込み、職員全員で共有します。そのデータは、水分補給の多かった順、前回のトイレから時間が経っている順に並べ替えることができるので、誰から順にトイレに誘導すればいいかが、一目でわかる。適切な順番で誘導ができるので、だんだんとトイレのタイミングが整ってきて、おむつが外れるようになるんです」(吉岡さん、以下「」内同じ)
ログインやパスワード管理などアプリならではの複雑な個人情報管理を簡素化したところも特長だ。
「ノーティスでは介護利用者がつけている名札に記されたQRコード(スマートフォンなどで読み込むバーコード)を読み込むだけで、システムに入ることができるので、70代のスタッフもすぐに使えるようになりました。
データからは“Aさんは食事中にしか水分を摂っておらず、誤嚥性肺炎を防ぐためにも食事中以外でも水分摂取を促すように”“Bさんはいつも食事の後、○時間後におむつを替えているからそのタイミングでトイレに誘導するように”といったことが見えてきます」
排泄の問題は介護する側にとっても負担だが、される側にとってもプライドが傷つき、気力の落ち込みに直結する。ノーティスで実際におむつが外れた利用者からは、「寝具や洋服を汚すくらいならおむつでもいいと思っていたけど、やっぱりトイレに行けるとうれしい」という声があがり、精神面でもプラスの効果を与えている。
スタッフの負担軽減は利用者の笑顔につながる
そればかりか介護スタッフにとってもメリットがあると言う。
「以前はこうした記録を、紙にメモしてそれを清書して保存していました。その作業はかなりの手間ですし、介護をしながらメモをとること自体、難しい。記憶を遡って記録することも少なくなく正確性には疑問がついてしまうことにもなります。スタッフの負担軽減はひいては利用者の笑顔につながる。それが私の目指す“理想の介護”なんです」
※女性セブン2018年7月12日号
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