透明でくもらない“顔がみえる”マスク誕生秘話|開発のきっかけになった社員の一言
日常生活で必要不可欠な存在になって早1年半。公の場でのマスク着用はいまや常識だ。そんな中、ユニ・チャームでは、ある社員の一声から『顔がみえマスク』の開発が始まった。大手マスクメーカーの経営陣に衝撃を与え、即座に開発に至らしめた、そのひと言とは──
聴覚障がいを持つ社員の訴えが開発のきっかけに
ユニ・チャームでは、その日誕生日の社員に社長からダイレクトメールが届くそうだ。1万人以上もの社員を抱える企業のため、毎日が誰かの誕生日ということになるが、メールは“送りっぱなし”ではなく、その後、数度のやりとりがなされることがほとんどだという。
昨年7月、このメールのやりとりで、ある社員が「マスク生活による不便さ」を訴えた。それが『顔がみえマスク』誕生のきっかけとなった。
その社員は聴覚障がいをもっていて、ふだんから相手の口元の動きを見て、話している内容を認識していた。しかし、マスク生活が一般に定着して以降、人々の口元が常に覆われているため、「何を話しているのかわからず、仕事にならなくなった」という。
とはいえ、「マスクを外して話してください」とは言いにくい。そこで、マスクの中心を切り取り、代わりに透明のクリアファイルを貼り付けたマスクを自作し、職場のメンバーに配っていた。が、口元がくもってしまうなど欠点もあった。そうしたことをメールに綴ったのだ。
「このエピソードに経営陣は衝撃を受けました。ユーザーの些細な声をしっかり拾い上げて企画開発にあたっていたつもりでしたが、見落としていた点があったことに気づかされたのです。そして、口元が見えないことに不便・不満を感じている人が聴覚障がい者以外にもいるのではないかと思い至りました」と、広報担当の渡邊仁志さんは話す。
4万人もの顔のデータを活かして装着性を追求
例えば、介護士や接客業の人は、口元や表情が隠れることによって相手に不安な気持ちを抱かせてしまうことがあるかもしれない。保育士や塾講師など、幼児や子供を相手にした職種に就く人も同様だ。フェイスシールドを使えば口元は隠れないが、顔とシールドのすき間が広いため不安感が残る、といった声も各所で聞かれた。
それらの不便・不満を払拭すべく、開発が急ピッチで進められることになった。口元に透明なフィルムを使うことは決まったものの、同社ではそうした商品を扱ったことはほとんどなく、くもらない・ムレない工夫をするのは至難の業だった。
この課題に挑戦する一方、装着性にも工夫を施した。これまで4万人もの顔のデータを集めてマスクを作ってきたユニ・チャームの技術力を集結させ、耳が痛くならない仕様を探り、顔にフィットさせる方法を練った。
通常、新商品開発には2~3年はかかるものだが、いち早く届けるため、『顔がみえマスク』はわずか5か月という驚異のスピードで完成に至った。発売後もさらなる改善に奮闘している。
商品は透明部がとても広く、顔の80%がはっきり見え(目の真ん中から下を100とした場合)、鼻から頰まわりまで布部がしっかりフィットしているのでウイルス飛沫の心配も激減した。
消費者の反応も早く、この4月にオンラインショップ限定で発売されると、約7時間で完売。「顔が見える状態で働きたい」という人の潜在的なニーズをつかみ、現在も予約販売状態が続いている。少数でも困っている人がいるならば何とかしなければならない──本商品の開発に、マスク製作のトップメーカーである同社が掲げる「ソーシャルインクルージョン」(※)の一面を垣間見た。
※ 「ソーシャルインクルージョン」とは、すべての人が健康で文化的な生活を送れるよう、一人ひとりを社会の一員として取り込み、互いに支え合う考え方のこと。
【データ】
透明部にはくもり止め加工が施され、長時間使用しても顔が見える仕様。耳かけ部は布製で顔にフィットし、ムレない。『顔がみえマスク』1枚入り、1480円。電話:0120-011-529(ユニ・チャームお客様相談センター)
※女性セブン2021年7月15日
https://josei7.com/
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