新しい価値観を見せてくれた『大豆田とわ子』 “誰かと生きる”意味を深く考える
2021年春、最大の注目を集めた『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ)が6月15日最終回を迎えました。第1回から解説を担当してきたライター・釣木文恵さんが、一人で生きていく道を選んだとわ子が、家族と向き合ったラストまでを振り返ります。
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男に人生をベットする娘、恋をあきらめた母
9話まででとわ子(松たか子)をめぐるさまざまなことは一旦片付いたように見えた。とわ子は4度目の結婚を選ばなかった。最終回ではいったい何を描くのだろうと思ったら、とわ子の、血の繋がった家族の話が立ち上がってきた。
娘・唄(豊嶋花)がどうもボーイフレンドの西園寺くんにいいように使われている。彼は唄に宿題を押し付け、買い物に走らせては「いい奥さんになる練習」なんて言うとんでもない少年だ。けれどもそれがおかしなことだとすべて理解した上で、「女性が医者になりづらく、なっても続けづらい」現実を知る唄は西園寺くんに人生をベットしている。「(西園寺くんは)16歳なんだよ。これから徐々に教育していけばいいことじゃん」と、それはそれで、自分が医者を目指すのとどちらが難しいかわからないことを言う。
そんな唄のために探し物をしていて見つけたとわ子の母の、渡せなかったラブレター。探し訪ねてみると、その相手・國村真は女性だった。「夫と娘の面倒を見るだけの人生なんて」と書かれたラブレターの一文に傷ついていたとわ子は、真に「大丈夫だよ、あなたのお母さんはちゃんと娘を、家族を愛してる人だった」と声をかけられ、涙を流す。彼女に「よかったんだよ、私を選ばなくて」と言わせたことをぬぐうかのように、「時々ここに遊びに来ていいですか」と話しかけるとわ子は、亡き母に代わって母の愛した人との関わりを続けようとしている。それにしても、ほんのわずかなシーンで、母の思いに説得力をもたせた風吹ジュンの存在感!
小学校で出会った母と真との、名付けえぬ関係性。それは形や思いの種類は違うかもしれないけれど、とわ子とかごめ(市川実日子)との関係にも似た部分がある。亡くなったかごめが今でもそばにいるから、「3人では恋愛にならない」から、とわ子は八作との再婚をしないのだ。
母がもたらした3人の元夫との再会
とわ子といっしょに真の元を訪れた唄は、もう一度医大を目指す決意をする。とわ子の母が巡り巡って唄の背中を押す。
思えば、とわ子も母にいざなわれていた。別れてからずっと一緒にいるように感じられていた元夫たちだが、一緒に仕事をしている慎森(岡田将生)を除いて、1話で母のPCが開かないことから久々に再会したのだった。
かつて幼いとわ子に母は問うた。
「一人でも大丈夫になりたい? それとも、誰かに大事にされたい?」
「一人でも大丈夫だけど、誰かに大事にされたい」「でも、誰も見つからなかったらどうしよう?」と答えたとわ子に「そのときはお母さんに甘えなさい」と言った母。
自分が亡くなって甘えさせられなくなった母は、とわ子の元に3人の元夫を連れてきたともいえる。
母の過去を知り、改めて父とも向き合ったとわ子。「あなたを転んでも一人で起きる子にしてしまった」と後悔する父に、「私、ちゃんといろんな人に起こしてもらってきたよ」と答える。3人の元夫や父や母、娘、かごめ、いろんな人に助けられながらも一人で生きるという人生を、とわ子は送ってきたし、これからも送っていくのだ。
「笑っててくれたら、後はもう何でもいい」
終盤、3人の元夫に取り合われている夢をみるとわ子。
「パーティーの後片付けは大変な方がいいよ」「どれも君が、愛に囲まれて生きてる証拠なんだよ」という慎森(岡田将生)。
そんな夢を見ながら眠るとわ子を見ながら、
「まあ、こういう感じってずっと続くわけじゃないでしょうし」と言い合う3人の元夫。
いつか終わるかもしれないけれど、今のところ、目を覚ましてもパーティーは消えていない。とわ子には、夢のなかと同じ言葉が与えられる。
「僕たちはみんな君のことが好きだってこと」
「大豆田とわ子は最高だってことだよ」
それに答えてとわ子は言う。
「私の好きは、その人が笑っててくれること。笑っててくれたら、後はもう何でもいい」
いつか今のように会うことがなくなっても、誰かがこの世からいなくなっても。好きな人が笑っていることだけを願って、とわ子は生きていく。大丈夫、網戸は一人で直せる。
「ひとりで生きたいわけじゃない」というキャッチコピーではじまった『大豆田とわ子と三人の元夫』は、だからといって、誰かと生きていくという方法が結婚だけとは限らないことを教えてくれた。恋愛も結婚もすべてではない。雑談しながら、失敗を繰り返しながら、人はそれぞれ、いろんな人と関わり合って、自分の人生を生きることができる。
『大豆田とわ子と三人の元夫』は、ゴールデンタイムのドラマで新しい価値観を見せてくれた革新的なドラマだった。
文/釣木文恵(つるき・ふみえ)
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。