オダギリジョーに癒やされたと思いきやまさかの展開に唖然とする「大豆田」7話
『大豆田とわ子と三人の元夫』7話は、親友・かごめを亡くして1年後の日々。平穏な毎日が戻ってきたように見えても、やはりつらさを抱えていたとわ子。仕事での災難も降りかかる中の新たな出会いは思いがけないもので……。ドラマ大好きライター・釣木文恵さんが振り返ります。
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変化するとわ子の暮らし
人間の感情にさみしささえなければ、生きていく苦しさはかなり減るだろう。けれど現実はそうもいかない。そんなとき、さみしさを誰かに伝えられるだけで、その人から
「人は時々寂しくなるけど、人生を楽しめる。楽しんでいいに決まってる」
と声をかけられるだけで、ずいぶん楽になるに違いない。
6話でとわ子(松たか子)の親友・かごめ(市川実日子)が急死してしまい、視聴者があっけにとられているうちに1年後に飛んで始まった7話。娘・唄(豊嶋花)は高校通学のため祖父の家に住むことになり、とわ子は久々の一人暮らしをすることになる。一方、オーナーが外資に株を売ることを検討していて、とわ子が社長を務めるしろくまハウジングが買収されてしまう危機が訪れる。6話では描かれなかったが、パワハラ社長とのアートプロジェクト案件での損失は、だいぶ大きな痛手だったらしい。
かごめの不在が際立つ
7話前半では娘の巣立ちがあり、会社の危機があり、新しい出会いの予感があり、そしていつものようにとわ子を気にかける元夫たちがいて、バタバタと時間が過ぎていく。しかしかごめのことをずっと好きだった八作(松田龍平)がふらりと北海道のお土産を手にやってきて、とわ子と食事をするそのとき、軽口をたたきながらも二人は互いをしずかにいたわりあっているようで、ここに来てかごめの不在が際立つ。八作がとわ子の家から帰るときのお互いの「ごめんね」は何に対してだったのだろう。慎森(岡田将生)と鹿太郎(角田晃広)の会話から、かごめを亡くして以降、とわ子がとにかく夫たちに元気かと問うていたこともわかる。もう周りの人に急にいなくなってほしくないのだ。
丁寧な暮らし、粗末な扱い
ソファで寝るのは、本人にそんな意識はなくとも、自分を少し粗末にしているということなのかもしれない。
唄が家を出たあと、とわ子は「丁寧な暮らし」を目指して料理を載せるSNSもはじめたりする。けれどそれもすぐに飽きて、卵かけご飯のベストなタイミングを見つけ、ソファで眠る日が続く。
離婚によって幼い唄と離れた経験をもつ八作は、そんなとわ子に
「落ち込むね」
「あれだよ、もう慣れたかなって思った時にまた来るよ。自分史上最高のカレーができたなっていうときとかさ」
と語る。唄のことを言っているようで、かごめのこともちらつく。唄は生きているし、二人にとって娘であって友達でも好きな人でもない。でも今ここにいないという心もとなさが共通している。やはり人はさみしさにただただ耐えるしかないのだろうか。
「話せる」相手、小鳥遊との出会い
そんな中で、とわ子が出会ったのが小鳥遊(オダギリジョー)だ。正確には名も知らぬ、とわ子の日課のラジオ体操仲間。彼はとわ子がバスに忘れたパンを全力疾走で(おそらく次の停留所でたどり着いて)取り戻すような人。ラジオ体操の動きが人とずれていて、バスの中で乗客のクセを数式化して計算してみたりするような人。とわ子も同じようにラジオ体操の動きがずれているから、彼ととわ子とはピッタリ合っている。とわ子も眠れない夜は数式を解いてみたりする。
とわ子は会ったばかりの彼と話すうちにかごめのことを思い出し、かごめを亡くしたつらさについてぽろぽろと話しはじめる。
慎森や鹿太郎には話せない。八作はいちばん分かち合える相手かもしれないけれど、やはり八作の思いを考えると話せない。話せる人はだれもいない。このつらさとさみしさ、孤独は、もしかごめが生きていたら話せたのだろう。もしかしたら関係ない話をしてきて話を奪うかもしれないけど、自分勝手に聞かなくなったりもするかもしれないけど。そういう人を、とわ子は失ったのだ。
生きている人は幸せを目指さなければならない
出会ったばかりの、けれど自分と共通点のある、朝にラジオ体操をやって、数学のことになると没頭してしまって、突然亡くした友人の話を始めても「好きな人の話をしてくれてるんですよね」と真剣に聞いてくれるこの人には話すことができた。しかも、
「今からだっていつだって気持ちを伝えることができる。人生って小説や映画じゃないもん。幸せな結末も悲しい結末も、やり残したこともない。あるのはその人がどういう人だったかってことだけです」
「だから人生には2つルールがある。亡くなった人を不幸だと思ってはならない。生きている人は幸せを目指さなければならない」
という言葉をくれた。そのことで、とわ子は久しぶりにベッドで寝ることができた。
そばにいないけど一緒に生きているという意味では、亡くなった親友も、別れた夫も、自立心旺盛な娘も同じなのかもしれない。
2週連続であっけにとられたまま
で、その人と新しい恋が始まるのだったらこんないいことはないのだけれど、小鳥遊はとわ子の会社を買収し、とわ子にパワハラによる社長退任を迫る外資の部長だった。しかも翌日、またふつうの顔をしてとわ子に話しかけ、「あれはビジネス、これはプライベート」と言い放つ。人生は小説や映画じゃないと言ったその人がいちばんドラマチックなことをしてくれるな……と2週連続で視聴者があっけにとられたまま、7話は幕を閉じた。果たして、私達は8話で小鳥遊のこの割り切りに納得できたりするのだろうか。
文/釣木文恵(つるき・ふみえ)
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。