夫が更年期障害になりました【体験談】|男性更年期に気づく方法を医師が解説
漫画家・赤星たみこさんの夫は元々はとても温厚な性格。それが40代半ばごろから妙にイライラしたりと、別人のように人が変わってしまったという。その原因は更年期障害だった。コロナも影響して、年々増え続けている男性の更年期障害。放置すると本人がつらいだけでなく、大きな病気を引き起こす場合や、家庭内のDVにつながったり、パワハラで会社を解雇される可能性も。家の夫は大丈夫なのか? 妻が夫の更年期障害に気づく方法を医師が解説する。
穏やかな人だったのに… 妻が語る夫の更年期障害
漫画家の赤星たみこさん(63才)は、妻の立場から男性更年期のつらさを語る。彼女が異変を感じたのは、夫が40代半ばになった頃だった。
「若い頃は声を荒らげたことがないほど温厚な人だったのですが、妙にイライラするようになって。蕎麦屋で注文を聞かれたときに『もり蕎麦ッ!』とはき捨てるように言ったんです。その後も、女性の店員さんがちょっと手間取っただけで眉をしかめ、お会計の際には不機嫌そうにポイっとお札を投げたんです」
知人の言葉にも衝撃を受けた。
「40代を超えてから夫と知り合った人が、夫のことを『怒りっぽくて、いつもイライラしているよね』と評し、『あんな言われ方をしてけんかにならないの?』と言ったんです。若い頃は穏やかで、“私はいい人と結婚したなあ”と思っていたのでショックでした」(赤星さん、以下同)
変化は内面だけではなかった。
「もともと肥満だった夫の体重がさらに増えて、手の小指がしびれるなど体に異変も出てきました。自分が更年期を経験したときに、男性の更年期は体重が増えると聞いていたので、“もしかして”と思い、病院に行くことをすすめました」
病院に行くのを嫌がる男性が多い中、彼女の夫は、妻の更年期障害が薬で落ち着くのを見ており、スムーズに受診したという。診察の結果、夫のテストステロンの血中濃度は基準値を大きく下回っており、定期的にホルモン注射を打つことになった。
「ホルモン注射の効果は劇的で、病院に向かう車中で『バーカ!』と毒づいていた夫が、帰りは『たまには映画でも見て帰る?』などとご機嫌になるんです。あまりの変わりように、心配になったくらいです(笑い)」(赤星さん)
放置すると深刻な病気になることも
赤星さんの夫は治療で症状を落ち着かせることができたが、放置すると命を落とすこともあるという。
「たかが更年期障害でしょ、と放っておくと、気力がますます減退してうつ病になったり、肥満や筋力低下から生活習慣病が進行し、心血管疾患や脳血管疾患を引き起こすリスクがあります」(順天堂大学附属病院泌尿器科教授・堀江重郎さん・以下同)
パワハラ、DVにもつながる可能性が…
テストステロンの減少で集中力の低下やイライラが続くと、交通事故や職場でのパワハラ、家庭内でのDVにもつながる。男性の更年期障害は生活に大きく影響する可能性があるのだ。
夫が更年期障害の可能性は?
重篤な結果を招きかねない男性の更年期障害だが、まだ知名度が低く、症状が出ても気づきにくい。
「心の変化だけでなく、妻が気づける見た目の変化もあります。最初に起こりやすいのは体重の増加です。急激に増えるのではなく、ゆるやかに3~5kgほど増える人が多い。ほかには笑顔が減ってため息をつくようになり、イライラするなどの精神的な症状や、筋力の低下、勃起不全、異常な発汗、めまいや動悸もおもな症状です」(堀江さん)
下記のチェックリストを見て、あなたの周囲の男性が4つ以上当てはまる場合は注意してほしい。
★男性更年期かもしれない夫の特徴 チェックリスト
4つ以上当てはまる人は、男性更年期障害の可能性あり。 (チェックリストは医師の監修のもと、編集部で作成)
□ 体重が2、3kg増えた
□ バラエティー番組を見ていても笑っていない
□ 夜中に何度もトイレに行く
□ 寝ても疲れがとれない
□ 仕事へのやる気がない
□ 歩くスピードがゆっくりになった
□ 突然のほてりや発汗がある
□ ヒゲがのびるのが遅くなった
□ 最近、食欲がない
□ 下痢や便秘に悩まされている
□ 頭痛、めまい、耳鳴りなどの不調がある
□ さっき言ったことを覚えていない
□ 注意力が散漫で、運転が下手になった
□ 性欲がない
「誰でも落ち込む日やイライラする日はありますが、その状態が2週間以上続いたら受診してください」(堀江さん)
嫌がる夫をスムーズに病院に連れていくには?
症状があるのに、「更年期なんてカッコ悪い」と受診を拒む男性も多い。赤星さんが、「夫をスムーズに病院に行かせるための受診のすすめ方」を紹介する。
「ほとんどの男性は『あなたは更年期だよ』と言われても、反発したり、無視したりするでしょう。『もともと、男性ホルモンが多くて“男らしい”人ほど、少し減っただけで影響が出るんだってさ』などと言って持ち上げてから、受診をすすめると効果的だと思います。また、論理的に説明すると納得する人も多いので、『男と女、どちらにも思春期があるのだから、更年期もあって当たり前だ』と説明するのもいいでしょう」
具体的な治療法と注意点
治療は投薬や生活習慣の改善が中心となる。
「軽症なら漢方薬やビタミン剤、睡眠薬の処方で半数以上が改善します。テストステロンがかなり減っていると診断されたら、男性ホルモンを補充する注射を打ち、医療機関によってはテストステロンの塗り薬も処方できます。価格は注射だと保険診療で1回数百円、塗り薬は自費で月1万円ほど。治療期間は人によりますが、早い人だと3か月以内で効果が出ます」(堀江さん)
生活習慣は、まず食生活に気をつけたい。獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科教授の井手久満さんはこう解説する。
「テストステロンを増やすには、ナッツ類やうなぎ、魚介類、アボカドなどに多く含まれるビタミンEを積極的に摂取しましょう。アンチエイジング作用のあるステロイドホルモンの合成もサポートします。また、ブロッコリーやほうれん草、レバーなどに含まれるグルタチオンは精巣の精細管付近の細胞の老化防止に効果的。かきなどの貝類に多く含まれる亜鉛は生殖機能や免疫機能の維持に役立ちます」
運動も効果的だが、やみくもに体を動かせばいいわけではないという。
「フルマラソンや激しい筋トレなど、次の日に疲れが残るほどの運動は、かえってテストステロンを減少させてしまう。少し休めば回復できる程度にとどめましょう。また、点数を競ったり、目標を設定することも効果的です。ウオーキングなら、いつもと違う道を通るのもいいと思います」(井手さん)
何より大切なのは、目標を持って、「いま」を生きること。
「目標を達成したり、周囲から『よくやったね』『すごいね』と評価されると、テストステロンの分泌が増えて健康が促進されます。このホルモンは、いくつになっても楽しんで生きている人は維持できるのです。だから仕事や趣味、日課でも何でもいいので日々の暮らしに目標を持ち、楽しんで生きることがとても大切です」(堀江さん)
傾きかけている夫の健康状態に気づくことができるのは、あなただけかもしれない。
教えてくれた人
堀江重郎さん/順天堂大学附属病院泌尿器科・教授、井手久満さん/獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科・教授
※女性セブン2021年4月29日号