《人生がうまくいくノウハウ》映画監督・飯塚健さんが実践する「言いたいことは本人に直接言う」大切なのは事実だけを伝えること
「最近どう? 忙しい?」「いやいや、そんなことないですよ」「またまたあ」「いやいやいや」──。
こんな社交辞令のやりとりに、モヤモヤする人もいるだろう。映画監督として22年間、数々の作品を手がけてきた飯塚健さんは、時間は有限だと言う。忙しいなら「忙しい」、暇なら「暇」と素直に答えればいい。本心は必ず相手に透けるのだから、正直に言ったほうが物事はうまく回る、と。
さらに飯塚さんは、言いたいことがあれば「本人に直接言う」ことを実践している。陰口ではなく、事実だけを本人に伝える。その具体的なエピソードとは? 飯塚さんが仕事にも人生にも効く41のヒントをまとめた『晴れのシーンを撮る日に、雨が降ったら?』(サンマーク出版)から、2つのパートを抜粋、再構成してお届けする。
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「正直」なほうが、結局うまくいく
どんな仕事の現場でも、こういう人たちの、こんな会話があるだろう。
「最近どう? 忙しい?」「いやいや、そんなことないですよ」「またまたあ、忙しいんでしょ、売れっ子なんだから」「そちらこそでしょ、それは」「いやいやいや」……。
こんなくだりを聞くと、ここは地獄かと思ってしまう。この会話、いるのかと。
逆もある。謎に強がり、自分を大きく見せてくる人、である。
どこそこのお偉いだれかと知り合いだの、会ったことがあるだの、デカい仕事のオファーがあるだの、あのオーディションは実は最終までは残ってただの、来年末までスケジュールが埋まってるだの……。
正直、どちらも相手をするのは面倒だ。
無意味なやりとりに時間を奪われ、仕事の妨げにしかならないからである。
時間は有限だ。
全人類、平等に1日は24時間。これはもう絶対だ。
よけいな社交辞令に時間を割くほど、人生は長くない。
ある程度の年齢になったら、思ったことは思った通り、素直に言ったほうがいい。
そのほうが物事はうまく回る。
「忙しい?」と聞かれたら、「はい、そこそこ忙しいです」と素直に答えればいい。
忙しくなければ「ばっちり暇です」と言えばいいだけだ。
くだらない見栄や世間体を気にして、謙遜したり、強がったりしたところで、本心は必ず相手に透けるので、ネガティブな印象しか残らない。この人と一緒に仕事をしようという気にならないのではないか。
似たケースで、「我慢」をはき違えてしまう人もいる。
無理なのに、無理と言えず、ぐっと吞み込み我慢してしまう。あるいは、言いたいことがあるのに言わず、我慢する。
それが高じると、心を病んでしまう。最悪、壊れる。
タイミングが難しいかもしれないが、「このままだと無理かもしれません」とか、「ちょっと大変です」と、しっかり伝えたほうがいい。
映画監督の仕事は、ほぼ十割、「決断」することだ。
企画、脚本、配役、ロケ地、服装、髪型、編集、その他もろもろ。数ある選択肢=可能性から、たったひとつを選ぶ。すべてを決める。それが、監督の仕事。
「はっきり言うこと」が仕事だ。
「これがいい」と決断する。決断し続ける。
だから、言いたいことは、包み隠さず言うのが身についている。
人にネガティブなことを言うときは愛情をこめて、改善策も一緒に伝える。
そして、褒めるときは思い切り褒めるし、怒るときはしっかり怒る。ただし感情をぶちまけるような言い方はしない。
大切なのは、「愛情」を持つこと。
それを心がけている。
言いたいことは「本人」に直接言う
私は「悪口」と「陰口」は別物だと捉えている。悪口は、だれかの悪い点を言うことで、当人にも言えること。事実の指摘にすぎない。
反対に、当の本人に言えないのは「陰口」になる。
コソコソコソコソ、その人がいないところで言っていると、本人の心がすさむだけで、自分で自分をどんどん小さな人間におとしめるだけだ。
インターネットで匿名で人を叩く行為は、その典型だ。本人には言えないから、ネットを使う。
陰口ばかり言っていると、当然類は友を呼び、そういう人間ばかりが集まってくる。
気付けば悪意が渦巻いて、言っている本人も「陰」に飲み込まれる。仕事を一緒にしたい人間とはかけ離れた空気をまとうことになるのだ。
だから私は、言いたいことがあれば、本人に言うようにしている。それも「事実」だけを伝える。
シビアなことを言うときもあるが、内容はすべて「事実」だ。「事実」だから、ちゃんと伝えれば、ひとつ高みに向かうことも多い。
いつだったか、後輩が駐車をめぐって、ちょっとしたトラブルに巻きこまれた。
住んでいたマンションの駐車場は機械式で、車を上下させるタイプだった。
彼の下のスペースに車を入れる住人が、機械をいつも上にあげっぱなしにしたまま、元に戻さないのだという。そのため彼は毎回機械を操作し、自分の車をおろしてから出車するという手間を余儀なくされた。
急いでいるときは、その時間がたまらなくイラつくらしい。そりゃそうだ。ルールを守らない人間に奪われる時間ほど不毛なものはない。
「絶対、確信犯でやってるんですよね」そうこぼす彼に、私は言った。
「コソコソ言ってないで、本人に直接言おうぜ」
一緒に駐車場で待ち伏せし、またも上にあげっぱなしにしたのを確認した後で、当人をつかまえ、事実をぶつけた。看板にも注意書きが明確に並んでいる。
最初は相手も強気でケンカになりそうだったが、こちらが並べる事実のみにやがて態度を軟化させ、以後やらないことを約束した。
結果、あげっぱなしはなくなり、今ではエレベーターで会ったときなど、ふつうに挨拶を交わすようになったらしい。
今挙げたのは日常生活のささいなことだが、仕事でもプライベートでも、どんな場面でも同じだと思っている。
思い切って、本人に言うのがいい。
というわけで私は、「陰口」は一切言わないようにしている。「悪口」は言うけども。
教えてくれた人
飯塚健さん
1979年、群馬県生まれ。映画監督、脚本家。2003年、『Summer Nude』で劇場デビュー。撮影時22歳、公開時24歳という若さが反響を呼ぶ。以降、『荒川アンダー ザ ブリッジ』(原作:中村光)、『虹色デイズ』(原作:水野美波)、『野球部に花束を』(原作:クロマツテツロウ)といった漫画の映像化から、『笑う招き猫』(原作:山本幸久)、『噂の女』(原作:奥田英朗)、『ステップ』(原作:重松清)、『ある閉ざされた雪の山荘で』(原作:東野圭吾)といった小説の映像化に加え、『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』『宇宙人のあいつ』『FUNNY BUNNY』『REPLAY & DESTROY』『榎田貿易堂』といったオリジナル作品まで、多岐に渡るジャンルの作品を手がける。ASIAN KUNG-FU GENERATION、OKAMOTO’S、秦基博などMV監督作も多数。東京・丸の内コットンクラブを会場とするライヴショウ「コントと音楽」プロジェクトはライフワークとなっている。著書に『ピンポンダッシュ 飯塚健冒険記』(サンクチュアリ出版)、『さよならズック』(復刊ドットコム)、『FUNNY BUNNY』(朝日新聞出版)など。
