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「もし、目の前に500円が落ちていたら?」映画監督・飯塚健さんが説く“想像力”の大切さ「あなたは500円玉を想像したのでは?」

 何かが起こったときに、おのずと「これしかない」と考える。気づかないうちに、そうなってしまっている人がいる。

 映画監督として22年間、撮影現場で「想像力」を試され続けてきた飯塚健さんは、想像力とは「可能性をたくさん挙げられる力」だと言う。目の前に500円が落ちていたら? 飯塚さんはこの問いから、想像力について語る。

 可能性を数多く考えられれば、その中から最適なものを選べる。それは仕事でも人生でも同じだ。飯塚さんが仕事にも人生にも効く41のヒントをまとめた『晴れのシーンを撮る日に、雨が降ったら?』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。

 * * * 

事前に「可能性」を挙げておく

 仕事でも人生でも、大切なのは「想像力」だと思っている。

 ふり返ってみると、これまで出会ったすばらしいカメラマンや美術プランナー、作曲家やスタイリスト、俳優や芸人、漫画家や落語家の方々に共通するのは、「突き抜けた想像力」だ。

 私が考える「想像力」は世間一般で思われている、いわゆる「イメージする力」とは少し違う。

 たとえば、目の前に「500円」が落ちていたとする。

 考えられるのは、まず2つ。「拾わない」か「拾うか」だ。

 仮に「拾わない」を選んだとする。すると、その500円はどうなるのか、可能性は広がっていく。

「拾わなかった500円をだれが拾うのか」「拾った人はどうするのか」「交番に届けるのか」「募金するのか」「ネコババか」……。

「拾う」を選んだとしても、自分は500円をどうするのか。何かに使ってしまうのか、あるいは……。

 可能性は、無数にある。ほうっておいても、無限に広がる。

 このように「可能性を数多く挙げられる力」が、私にとっての「想像力」だ。

 つまり、私が「想像力を大切にしてください」と言うのは、「可能性をたくさん考えてください」と言っているのと同じである。

 考えようとしなければ、その無限の可能性に、意外と気づけない。

 たとえば、先ほど挙げた例、「500円が落ちていたとする」を聞いたとき、あなたは、「500円玉」を想像したのではないだろうか?

 だが、「100円玉が5枚」という可能性だってあるわけだ。

 もし、「50円玉が10枚」だったなら、ちょっと気になってくる。

 そして、「10円玉が50枚」だったら、もはや嫌な予感しかしない。

 さらには、500円がただバラバラと落ちているのではなく、「←(矢印)」の形になっていたらどうだろう? 透けている作為に、何かしらの物語が始まる予感がしてくる。いや、既に始まっているのかもしれない。

 もっと言うと、どこかに「向かう」道すがらなのか、どこかから「帰ってきた」それなのかでも、変わってくる。

 映画の撮影現場では、そういった「想像力」が常に試される。

 たとえば、「小さい子どもが、自分の母を事故で亡くした場面」を撮るとする。

 どんなシーンにするかは、まさに「想像力」の勝負だ。

 子どもが号泣するカットを撮ってもいいし、無表情で顔色ひとつ変えない芝居もありえる。

 子どもの背中しか映さない可能性もある。どんな背中なのか。肩は震えるのか、拳は握るのか。

 背中だけを映すにしても、やり方はたくさんあり、唯一の正解はない。

 だが、たくさんの可能性を挙げられれば、精査し、絞り込むことができる。

 それはきっと、最適に近いものになる。

教えてくれた人

飯塚健さん

1979年、群馬県生まれ。映画監督、脚本家。2003年、『Summer Nude』で劇場デビュー。撮影時22歳、公開時24歳という若さが反響を呼ぶ。以降、『荒川アンダー ザ ブリッジ』(原作:中村光)、『虹色デイズ』(原作:水野美波)、『野球部に花束を』(原作:クロマツテツロウ)といった漫画の映像化から、『笑う招き猫』(原作:山本幸久)、『噂の女』(原作:奥田英朗)、『ステップ』(原作:重松清)、『ある閉ざされた雪の山荘で』(原作:東野圭吾)といった小説の映像化に加え、『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』『宇宙人のあいつ』『FUNNY BUNNY』『REPLAY & DESTROY』『榎田貿易堂』といったオリジナル作品まで、多岐に渡るジャンルの作品を手がける。ASIAN KUNG-FU GENERATION、OKAMOTO’S、秦基博などMV監督作も多数。東京・丸の内コットンクラブを会場とするライヴショウ「コントと音楽」プロジェクトはライフワークとなっている。著書に『ピンポンダッシュ 飯塚健冒険記』(サンクチュアリ出版)、『さよならズック』(復刊ドットコム)、『FUNNY BUNNY』(朝日新聞出版)など。

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