兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第61回 兄が治ったら…という妄想をしてみた」
もしも……。人はいろんな想像や妄想をするもの。若年性認知症を患う兄と暮らすツガエマナミコさんも、兄と自分の未来について、ちょっと妄想してみた、というお話。さて、ツガエさんが描く兄妹のベストな未来とは?
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
* * *
認知症が盲腸ぐらいのレベルで治る病気になる日が来る!?
この夏、リビングのエアコンの冷気をふすまの隙間からいただきながら、自室にこもって仕事をしていると、じんわり汗ばんできたので「エアコン止めたか、鬼兄」と思い、そっと見ると、エアコンの送風口は開いておりました。「?」と思ってリモコンを見てみると「暖房 23℃」という表示。外は32℃の猛暑なのに「暖房」て……。エアコンもお口あんぐりで動かなかったわけでございます。そんな兄と二人暮らしのツガエでございます。
それはそうと先日、また新聞で気になる記事を見つけました。
「神経再接続しマウス回復」…
アルツハイマー病などの神経疾患を患ったマウスの神経回路を「人工シナプスコネクター」なるもので「橋渡し」し、回復させることができた――という内容でございます。マウス実験ではありますが、記憶や運動機能が復活できたのであれば、当然、将来的にはヒトへの応用が期待されます。「症状の進行を抑える」とか「現状維持」ではなく、「回復した」という点がなんとも夢のある話しではありませんか。もしかすると認知症も盲腸(虫垂炎)ぐらいのレベルで治る病気になるかもしれません。
でも、この記事を読みながらふと頭に浮かんだのは、昔読んだ『アルジャーノンに花束を』でございます。知的障がいのある青年が、開発されたばかりの知能を高める手術で頭が良くなり、天才レベルに達した後、急速に元の知能に戻ってしまうという物語です。あまりにも有名で、映画化され、日本でも確かドラマ化された小説ですので、ご存じの方も多いと思いますが、アルジャーノンは青年よりも前に同様の手術をされたハツカネズミの名前で、青年はアルジャーノンの様子から自分の将来に気づいてしまうという悲しい後半が忘れられない一冊でございます。
30年以上も前に読んだときには、完全なるファンタジーでしたが、人類はSF小説に近づくものなのですね。「人工シナプスコネクター」も“持ち上げて落とす”ような一時的な回復で終わらなければいいな~と思いながら淡い期待を持ちました。
もしも今、兄がすっかり正常な昔の兄に戻ったら……。
それは“もしも今、わたくしが石原さとみさまの顔になれたら……”ぐらい現実的ではないことでございますが、もしも叶うなら、兄とはセパレートで暮らしたいものでございます。もちろん、わたくしがこのマンションをいただいて、兄にはどこかで一人暮らしをしていただきましょうか(あくまで妄想ですから鬼とかおっしゃらないで…)。そうしてお互いに良きパートナーを見つけて余生を過ごせたら、わたくしの中ではベストでございます。
でも、現実的には1人暮らしの老人が増えるだけだと思うので、世の為人の為には二人で地味に生きていくのがベストなのでしょうね。悲しいかな、アルツハイマー上がりの兄に職が見つかるとは思えず、経済的にもやはり2人暮らしをする老兄妹の哀れな姿しか妄想できません。妄想ですら最後は落ちる…。これはニュートンの林檎のような自然の摂理でしょうか…。
とりとめのないことをクドクド書いております。つれづれなるままに、日暮らし、パソコンに向かいて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやうしこそものぐるほしけれ―――。
わたくしツガエマナミコ、吉田兼好さまを今ほど身近に感じたことはございません。
つづく…(次回は10月8日公開予定)
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
●「親が認知症になったら…」毒蝮三太夫がズバリ!アドバイス【連載 第27回】