実は高血圧より多い【低血圧】強い疲労感、めまいで転倒…パーキンソン病など重病が原因のことも
低血圧患者は全国に1700万人。実は、高血圧患者より多いという調査も。お酒や塩分を控え、処方された降圧剤を欠かさずのむ…。“本物の高血圧”ならいいけれど、もしも“隠れ低血圧”だったら、ゾッと血の気の気の引くような危険があるかもしれない。実は怖い低血圧について、専門医を取材した。
低血圧患者は高血圧患者の1.2倍
生活習慣病の1つである高血圧は、脳卒中や心筋梗塞などの重病をもたらす。国が高血圧予防の減塩キャンペーンを呼びかけることもあり、血圧を下げようと、日々努力している人は多いはずだ。
しかし、千代田国際クリニック院長の永田勝太郎(かつたろう)さんは、
「血圧は、“低ければすべてよし”とはいえない」と指摘する。
そもそも血圧とは、心臓のポンプ機能によって体内を循環する血液が、血管の壁を押し広げる力のこと。血圧が高いと、血管の壁が厚くなって弾力性が失われる。その結果、動脈硬化が進行し、脳卒中や心筋梗塞などが引き起こされる。
一方の低血圧は、体のすみずみまで血流がいき届きづらくなることにより、心身に不調が出やすくなる。
「高血圧が重病をもたらすのは事実ですが、血圧が低い人は、むくみ、頭痛、朝起きられない、強い疲労感、肩凝りや食欲不振など、さまざまな体調不良に悩まされます。また、目まいや立ちくらみで転倒し、骨折や寝たきりになるケースもある。それだけでなく、放置すると、高血圧と同様にさまざまな重病を引き起こす原因にもなります」(永田さん・以下同)
永田さんによれば、高血圧の人が全国に1400万人いるのに対し、低血圧の人はなんと1700万人。高血圧に悩む人の約1.2倍もの人数が“低血圧患者”なのだ。
低血圧は夏に注意、女性ホルモンと関係も…
「長引いた梅雨による低気圧のせいで体調が悪い」という人は多い。気圧が低いと末梢血管が拡張し、血圧が下がりやすくなる。
さらに今後、本格的な台風シーズンが到来すると、低気圧が続き、低血圧を引き起こす人が増えると考えられる。実は女性は、ただでさえ血管拡張効果がある女性ホルモンの影響で、低血圧になりやすい。
「夏は低血圧になりやすく、また、低血圧の人にとって厳しい季節です。低血圧だと、広がった末梢血管のすみずみまで血液をいきわたらせるために、暑い夏は特に心臓に負担がかかりやすく、体温調節がうまくいかない。
脳への血流も悪くなるため、熱中症にもなりやすいのです。今年の夏は新型コロナウイルスの感染対策のため、交通機関や飲食店などは窓や扉を開放する。外の熱気が入ってくるので、より強く冷房を入れるようになるはずです。血圧が低い人は冷房によって体力を奪われやすいので、特に注意してほしい」
正しい血圧の測り方とは
屋外との温度差で血圧の急上昇や急降下による脳卒中などのリスクも上がるため、自分の正しい血圧を知っておきたい。病院で測るといつも血圧が高めに出るという人も、油断は禁物だ。
「医師や看護師の前で血圧を測定すると、緊張して数値が上がる『白衣性高血圧』の人が非常に多い。血圧はわずかな体の動きや緊張で変わるため、自宅で起床時、昼食前後、夕食前後、就寝前の4回は測るのが理想です。
目まいや立ちくらみ、疲れやすさなどの身体的症状が生じたら、“疲れがたまっているのだろう”と放置するのではなく、血圧の変動を疑ってみてほしい」
一般的に、収縮期血圧(上限)が100mmHg以下だと、低血圧とみなされる。通常、年を取るほど血圧は上がるもの。だからこそ、中高年になってから急に血圧が下がったら、危険な病気のサインだと思った方がいい。
低血圧が引き起こす怖い病気
目黒西口クリニック院長の南雲久美子さんが低血圧による危険な病気や症状について解説する。
糖尿病やパーキンソン病などで血圧低下
「糖尿病や甲状腺の機能低下、パーキンソン病などの病気にかかって、その結果として血圧が下がっている可能性があります。また、低血圧よりも先に、ほかの重い症状が出ることの方が多いのですが、がんが進行すると、全身の機能低下や体重減少により、血圧が低下傾向になります」
線維筋痛症
低血圧は、さまざまな疾患の「サイン」にもなる。その代表的なものが、「線維筋痛症」だ。
「全身に痛みとひどい倦怠感があるのに、検査をしても原因がわからないときは、たいていが線維筋痛症です。
40代から発症することが多く、全国に約200万人いる患者の多くが女性で、進行するとさらに重い『筋痛性脳症/慢性疲労症候群』(ME/CFS)という疾患になり、疼痛、睡眠障害などさまざまな症状が生じます。
私は40年間、原因不明の線維筋痛症の研究をしてきました。その結果、罹患するのは圧倒的に低血圧の人が多いことがわかってきました」(永田さん・以下同)
脳梗塞や心筋梗塞
特に注意すべきは、心機能の低下を示す低血圧だ。
「心臓のポンプ機能が低下することで生じる低血圧は、放置したままだと脳梗塞や心筋梗塞など、重篤な疾患を引き起こす可能性が高い」
低血圧になりやすいのはどんな人?
これほどのリスクがあるのに、低血圧は「誤診」されやすい病気でもある。
「低血圧になると、気分の落ち込みなどの症状も出ます。それで心療内科などを受診すると、うつ病と診断されて抗うつ薬などの向精神薬を処方されることが多い。向精神薬には血圧を下げる副作用があるため、症状はさらに悪化。最悪の場合、本当にうつ病を発症することさえ少なくありません」
実際に永田さんが診察した20代の患者の中には、心療内科で処方された薬が原因でうつ病のような症状が出て、大学休学に追い込まれた人もいるという。
抗うつ薬の服用をやめて血圧を上げる薬をのむことで、症状は改善した。また、目まいや立ちくらみの症状も多いことから、貧血とも間違われやすい。
「貧血のような症状があったら、『あっかんベー』をして、下まぶたの裏側の結膜の色を確かめてください。白っぽい場合は、貧血の可能性が高い。一方で、結膜がちゃんと赤ければ、貧血ではなく低血圧を疑った方がいい」
では、低血圧になりやすいのはどんな人だろうか。
「体質的な面が強く、低血圧の母親からは低血圧の子供が生まれやすい。虚弱で無理がきかず、暑さ寒さ、早起きなどが苦手で、強いストレスに見舞われると体調が悪化しやすい体質です。自動車でいえば、馬力の低い軽自動車のようなものです」(南雲さん)
一方で、前述の通り、病気や気圧でも低血圧になる。誰でもなり得るだけに、「隠れ低血圧」を見抜くのが重要だ。
原因や症状別・低血圧のタイプ
病気や気圧に限らず、生活習慣も低血圧を引き起こす。原因や症状によって、さまざまなタイプがある。
食後性低血圧
食後に生じる「食後性低血圧」は、自律神経のバランスが乱れがちな高齢者に多く、食後に限って目まいやふらつきなどが生じる。食後に消化吸収のために血液が腸付近に集まり、それによって急激に血圧が下がる。
食後過血糖
また、「食後過血糖」という現象もある。「世に言う『血糖値スパイク』と同じで、ドカ食いや早食いで一気に上昇した血糖値が急激に落ちることで起こります。耐えられないほどの強烈な眠気やだるさなどに襲われます」(永田さん・以下同)
起立性低血圧
「起立性低血圧」では、寝ている状態では正常値なのに、立った状態になると途端に血圧が低くなる。
「重力によって体の下方に流れる血液を体の上方まで循環させられないために生じる低血圧です。脳への血流が滞るため、貧血に近い症状が出ます。電車で気分が悪くなってうずくまるようなケースは、このタイプの低血圧の可能性が高い」
食後性低血圧や起立性低血圧になって突然ガクッと意識を失うと、骨折などのけがをしたり、事故に巻き込まれたりする恐れがあり、最悪の場合は命を落とすことさえある。
入浴時低血圧
冬場に暖かい浴室と寒い脱衣所の温度差で血圧が急降下する「入浴時低血圧」も、同様に命の危険がある。生まれつきの“低血圧体質”でなくとも、誰でもふとしたことで“低血圧患者”になってしまうのだ。
女性に多く、夏場特に怖い低血圧――次回は具体的な対策についてお届けする予定だ。
教えてくれた人
千代田国際クリニック院長・永田勝太郎さん、目黒西口クリニック院長・南雲久美子さん
※女性セブン2020年8月20日・27日号
https://josei7.com/
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