ゲップ、胸焼け放置ががんや死を招く 逆流性食道炎から身を守る方法
なんとなく続く胃もたれ。ただの食べすぎだと放置していたら、まさかがんを宣告されるとは──。
食生活の欧米化や加齢などが原因で若い世代から高齢者にまで驚くほど広がっているこの病、自らの手で防ぐ方法があった。
咳止めが効かず、のどに違和感がある場合は逆流性食道炎かも
「熱はないけれど、のどの違和感がずっと続いていて、ここ1か月、ずっと咳が止まりませんでした。咳止めも効かずに苦しかったんです」
主婦の高木亜希子さん(61才・仮名)は、あまりに長引く苦しい症状に不安を覚え、病院を訪れた。そこで受けた検査結果は、「逆流性食道炎 グレードA」――
高木さんのように、熱がないのにのどの違和感が長く続く場合、逆流性食道炎の可能性が。いりたに内科クリニックの入谷栄一さんが解説する。
「頑固な咳で医療機関を受診しているにもかかわらず、咳止めが効かない、鎮咳(ちんがい)薬が効かないといった場合は、逆流性食道炎のことがあります」
胸焼けは逆流性食道炎の典型的な症状
ほかにも、ゲップが出る、胃酸が上がってくる、胸焼けなどの症状が続いたら、逆流性食道炎を疑った方がいい。
「逆流性食道炎の典型的な症状は胸焼けです。油っこいものの食べすぎで一時的に胸焼けすることがありますが、そんな症状が続くのが特徴。食事のときに食べ物がつかえる感じや、みぞおちの痛みを訴える人も。胃酸がこみ上げ、口の中が酸っぱい、苦い感じがしたり、吐き気がすることもあります」(入谷さん)
そもそも逆流性食道炎はどういう病気なのか。野村消化器内科の院長・野村喜重郎さんが説明する。
「食道と胃のつなぎ目『噴門(ふんもん)』がゆるむと、胃から胃液が逆流してしまいます。その際、食道の粘膜が強力な酸性の胃酸により傷つけられ、炎症を起こします」
逆流性食道炎を長年放置するとがんになる可能性も
野村さんによると、逆流性食道炎の症状はグレードA~Dに分類されるという。
「グレードAがいちばん軽症で、Dが最も重症です。Aの人が最も多くて4人に1人ほど。CやDの人は少数です。ただし、治療しないとAからDへ少しずつ進行します。胃酸により傷ついた食道を長年放置していると、正常な細胞ががん細胞に変化することがある。つまり、20~30年後に食道がんになる可能性もあるのです」
自覚する症状と実際の病状が一致しないこともあるので、見逃さないよう注意が必要だ。
「かなり重症でも自覚症状がほとんどない人もいれば、わずかに赤くただれている程度で強い胸焼けを感じる場合もあります。おかしいと思ったら消化器内科で胃の内視鏡検査を受けてほしい」(入谷さん)
逆流性食道炎は10人に2人がなる国民病化
もともと日本人に少なかった逆流性食道炎。しかし罹患者数は、1980年代から20年間で急激に増え7倍以上に。2010年の日本消化器病学会のガイドラインによると、内視鏡検査を受けた患者の10人に1~2人に逆流性食道炎の症状がみられたという。
罹患者数が増えた大きな理由は、食生活の欧米化だ。
「高脂肪食、アルコール、チョコレート、コーヒー、炭酸飲料、みかんなどの柑橘類は症状を引き起こす可能性があるとわかっている。肥満、食べすぎや早食いの傾向がある人も要注意です」(入谷さん)
加齢とともに、逆流性食道炎になりやすくなると野村さんは言う。
「年を重ねて全身の筋力が低下してくると、胃からの逆流を防ぐ筋肉『下部食道括約筋(かぶしよくどうかつやくきん)』が弱くなり、胃液が食道へ逆流しやすくなります。加えて、腰や背中が曲がってくると姿勢が前かがみになり、お腹が圧迫されやすくなる。腹圧が高くなると胃が強く押され、より逆流しやすくなるのです」
逆流性食道炎は高齢者だけの病気ではない。
「女性は筋肉が弱く便秘になりやすい。そのためにガスや食物残渣(ざんさ)(残りかす)などが腸に増え、胃が圧迫されることも逆流性食道炎の一因です。若い人でも肥満や猫背によって腹圧が高くなる。きつめのベルトなど体を締めつける服装も腹圧を高くして、逆流性食道炎の原因になります」(野村さん)
ピロリ菌の除去が逆流性食道炎を引き起こす!?
驚くべきは、胃がんを予防する「ピロリ菌の除去」が、皮肉にも逆流性食道炎を引き起こす可能性があるということ。野村さんが続ける。
「胃がんの原因となるピロリ菌は、強力な酸性である胃酸を中和する働きを持っています。そのピロリ菌を除去すると、胃酸の中和作用が減少するうえに胃酸の過剰分泌が起こり、逆流性食道炎が起こると考えられています。とはいえ、胃がん予防のために、ピロリ菌の除去は必要。除去したうえで、逆流性食道炎にならないような生活を送ることが重要になります」
逆流性食道炎を防ぐ食生活
脂肪分の多い食品、甘すぎる食べ物は避ける
では逆流性食道炎にならないため、具体的にどんな生活を心がければいいのか。野村さんは「脂肪分の多い食品、甘すぎる食べ物は避けること」とアドバイスする。
「脂肪分の多い食事は消化しにくい。胃に停滞する時間が長いと胃酸が増えるので控えて。乳製品も同じです。脂肪分が少なくて消化にいいのは、煮込み料理や白和え、あんかけ料理です。肉を食べるときは、大きくカットしたものより、ひき肉の方が消化にいい。食べる際には少量ずつよくかんで、胃への負担を減らして」
野菜や海藻に炎症を抑える効果
野菜や海藻には、炎症を抑える効果がある。
「キャベツなどに含まれるビタミンUは、胃酸の分泌を抑え、粘膜を保護修復する効果があります。海藻に含まれるフコイダンやβ-カロテンも抗酸化作用があり、炎症を抑える効果が。ただし食物繊維が多い野菜や海藻は消化が悪いので、胃に負担をかけないように昼食に摂るといいでしょう」(野村さん)
食後30分ガムをかむ
食後は30分間ほどガムをかむといい。
「ガムをかみ続けると、唾液の分泌量が増加するので胃酸を薄める効果があります。甘みがあるものは胃によくないので、シュガーレスで刺激の少ないガムを選んでください」(野村さん)
食事の時間も気をつけてほしいと入谷さんは話す。
「消化をよくするために、夕飯はなるべく就寝3時間前にはすましておくといいです。食べすぎもよくありません。食べすぎると胃から戻ってくる胃酸も多くなるので、逆流しやすくなります」
散歩やジョギングがおすすめ
日常生活でできるだけ腹圧をかけないことも大事。
「体を締めつけすぎる服は避けましょう。下部食道括約筋の衰えを防ぐには、散歩やジョギングなど有酸素運動がおすすめです」(野村さん)
体の右側を下にして寝る
寝るときの体勢に気をつけることでも防止ができる。
「体の右側を下に。さらに下にマットや座布団を置いて、頭の位置を30㎝ほど高くします。これによって胃の内容物が腸に流れやすくなり、寝つくまでの時間に胃の内容物を減らすことができるのです。寝入ってから寝返りを打って姿勢が変わっても大丈夫です」(野村さん)
食べても逆流してしまう、もはや食事ができない──。そんな状況になる前に、気になったらまずは受診をしたい。
教えてくれた人
入谷栄一さん/いりたに内科クリニック理事長・院長。日本内科学会 認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医。
野村喜重郎さん/野村消化器内科の院長。日本消化器病学会専門医。
※女性セブン2020年3月4日号
https://josei7.com/