年をとると涙もろくなるワケ|認知機能の低下や目の病気の可能性も
子供の些細な言動、夫の何気ない態度、たまたま見たテレビドラマ…毎日の生活の中で、うっかり涙が出てしまうことはないだろうか。「昔より涙もろくなった」と自覚があるあなたは要注意。できる大人は涙のON・OFFをコントロールするのが最新の健康術です。
約3万人の観衆が集まる中、皇居前広場で開催された天皇陛下の即位をお祝いする「国民祭典」(11月9日)で、嵐が奉祝曲を披露すると、演奏終了後に皇后雅子さま(55才)はそっと目頭を押さえられた。
さらに翌日のパレード「祝賀御列の儀」で、沿道に集まった約11万9000人の国民から祝福を受けると、こらえきれなくなった様子でハンカチで頰を拭われた。
2日連続の涙という異例のお姿を目撃した国民も、思わずもらい泣きをした──
これまで、伝統を重んじる皇室では、いかなる場でも私的な感情を表に出さず、常に冷静でいることが美徳とされてきた。実際、美智子上皇后(85才)は“公務は等しくなされるもの”という姿勢を貫き、徹底して涙をこらえてきたといわれる。
時代が令和へと移り、涙にまつわる皇室の流儀が変化しているように、年齢を重ねるごとに「涙もろくなった」と自覚している人も多いだろう。
涙が頰を伝う時、あふれそうな涙をぐっとこらえた時、私たちの体にはどんな違いがあるのだろうか。
涙の仕組み
まず、涙の仕組みを覚えておきたい。
もととなるのは血液で、上まぶたにある「涙腺(るいせん)」の毛細血管から分泌される。血液中の赤血球が取り除かれた液体で、9割が水分でできている。何もしていなくても、1分間に1マイクロリットルほど目の表面を流れ、眼球が乾燥しないように表面を潤した後、「涙点(るいてん)」という上下のまぶたの目頭の際にある穴に流れ込む。その後、鼻の奥にある「鼻涙管(びるいかん)」を通過する間に粘膜に吸収される。涙点に流れ込む許容量を超えた液体が「涙」となり、鼻涙管での吸収が間に合わなかった液体が「鼻水」となるのだ。
涙の役割3つ
東邦大学医学部名誉教授の有田秀穂さんは、涙には3つの役割があると言う。
「1つめは眼球が乾かないようにするため。2つめは『防御反射』といって、目にゴミが入ったり、玉ねぎを切った時などの刺激から角膜や結膜を守っている。この2つは誰もに同様に備わっている機能です。そして3つめは、心が動かされたことによる“情動性の涙”。感動したり、ストレスを感じることで生じる涙で、個人差があります」
情動性の涙は、脳の前頭葉にある「前頭前野」という部分が活性化することで起こる。その作用から、前頭前野は別名「共感脳」とも呼ばれる。
「“共感”は、映画を見たり、歌を聴いたりしたことによる外部からの刺激と、自分の“記憶”が共鳴することで起こります。自分の経験がもとになるので、年を重ねて人生経験が多いほど共鳴する回数も増え、琴線に触れやすくなるのです」(有田さん)
昔より涙もろい人は前頭前野の機能低下の可能性も
しかし、共感だけが涙もろくなる理由ではない。東北大学特任教授の村田裕之さんは、前頭前野には「情動を抑制する」機能もあると話す。
「円滑なコミュニケーションをとることや、思考する能力、意思決定する能力、そして喜怒哀楽の感情表現、これらはいずれも前頭前野が司っています。前頭前野が鍛えられている人は、“泣く”や“笑う”などの感情をコントロールすることが可能です。昔より涙もろくなったと感じるならば、前頭前野の機能が低下している証拠です」(村田さん)
つまり、「すぐ泣く人」よりも「涙を抑えられる人」の方が、前頭前野の機能が高く、認知機能も高いということだ。
「涙もろいだけでなく、怒りっぽくなった、キレやすくなった、なども前頭前野の機能低下が原因です。涙もろい人は怒りっぽいと言っても過言ではない。泣かない相手に対して、“冷淡”“無表情”などと捉える人もいますが、それは間違い。本当の無表情とは、前頭前野の機能低下が進んだ状態で、たとえば重度の認知症のかたに見られます」(村田さん)
脳の老化は、涙をコントロールできなくなったら危険信号。感情が抑制できなくなれば、他人に迷惑をかける「暴走老人」になりかねない。
「ここ一番」で泣いて健康に
ただし、涙もろいのは悪いことばかりではない。有田さんが解説する。
「涙が流れるまでの脳の動きには、予兆があることがわかりました。泣きそうだと感じ、胸が締めつけられるなどの現象が30秒~1分ほどある。この間は、自律神経の1つである『交感神経』の緊張が高まっている状態で、緊張の限界を超えると涙があふれます。しかし涙が出ると『副交感神経』に切り替わるため、ストレスが緩和されるのです」
泣くとスッキリするのは、涙によって脳がリフレッシュするおかげだ。
しかし、涙をがまんすると、解消されなかったストレスが蓄積されることになる。そのストレスが体や精神にダメージを与える可能性は大きい。
ストレス対策には週1で涙活を
ストレスを和らげる「副交感神経」は主に寝ている時に優位になるが、スマホやパソコンによって脳が疲弊している現代人は、睡眠不足に陥りやすいという。そこで有効なのが、意図的に涙を流す「涙活(るいかつ)」だと有田さんが続ける。
「『涙活』では、昼間に複数人で集まって映像を見たり、話し合いをしてわざわざ泣く状況をつくります。週に1回程度、意識して泣くことで、疲れやストレスを解消できます」
泣く時は思いっきり泣くことが健康の秘訣。だからといって、なんでもかんでも泣いていいわけではない。村田さんは「大人こそ、涙を安売りすべきでない」と語る。
「涙は、ここ一番の時に取っておく。“この程度のことで”ということで泣く人は、鍛錬不足です。脳トレを生活習慣にして脳を鍛えていれば、涙をコントロールすることは可能です」
大きな声で文章を朗読する、文字を書く、簡単な計算を素早く解く、など簡単なことで効果は充分だ。
1つだけ注意したいのは、涙もろさの原因が目の病気かもしれない可能性だ。
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科医の田聖花(でんせいか)さんが説明する。
「肌の水分と同様、涙も加齢とともに減少するのが普通です。ですが、涙が通過する『鼻涙管』が狭くなったり、閉塞する病気になると涙がたまりやすくなり、涙嚢炎(るいのうえん)や鼻涙管炎になる恐れもあります。また、白目の結膜がたるむ『結膜弛緩症』は、結膜のひだの間に涙がたまる。悪化すると結膜下出血を繰り返すといった症状が起こる可能性があります。どちらも根本的な治療は手術しかないので、目に不調を感じた場合は早めの受診を心がけてください」
涙が出るたびに自分の心と体を見つめ直し、その涙の理由をしっかり見極めることが大切だ。
※女性セブン2019年12月19日号
●即位で見せられた笑顔の陰で…雅子さまが心配なさるご実家の「老老介護