介護施設訪問レポート|医療依存度の高い高齢者が最期まで過ごす医療連携型の有料老人ホーム<前編>
高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、東京都世田谷区にある住宅型有料老人ホーム「成城ガーデン」だ。
成城ガーデン
長期入院ができなくなっている日本の医療制度。少しずつこの現実を知る人が増えてきてはいるが、急な病気やケガの治療で病院に入院した高齢者の退院後の行き先に悩むケースはまだまだ多い。医療依存度の高い高齢者の生活を自宅で支える体制を作ることや、条件に合う介護施設をすぐに見つけることはなかなか難しい。介護はまだまだ先の話だと思っていた場合はなおさらだ。この社会問題に真っ向から挑み、悩みを解消している有料老人ホームが東京都世田谷区成城にあるという。
病院にいられなくなり、在宅で対応するのも難しい人向けの施設
株式会社ケアギバー・ジャパンが運営する「成城ガーデン」が目指しているのは、“医療連携型”有料老人ホーム。ここには看護師が24時間常駐し、一人ひとりの心身の状況に合わせた医療処置が行われている。自宅や一般的な介護施設では対応が難しい、医療依存度が高い高齢者のみを受け入れ、専門的な研修を経た看護師、介護士がその対応にあたっているという。
「病院にいられなくなり、在宅で対応するのも難しい方のためにここを作りました。入居されているのは、医療依存度が高く、本当に困っている方だけです。看護師の処置を優先しながら、入浴や排泄介助をしていきます。病院の一線で活躍できるレベルのスキルがあって、一人ひとりに最期まできちんと寄り添いたいという志のある看護師が集まっています。医療連携型有料老人ホームと自分たちでは呼んでいます」(株式会社ケアギバー・ジャパン有料ホーム事業部本部長の橘達也さん 以下「」は同)
成城ガーデンが受け入れているのは、医療依存度の高い終末期の高齢者で、ホスピスのような役割を担っている。看護処置が24時間可能なので、様々な状況の人を受け入れ可能だという。少し長くなるが、あえて列挙してみたい。胃ろう、鼻腔・経管栄養、人工肛門・ストーマ、在宅酸素療法、人工呼吸器、褥瘡・床ずれ、たん吸引、脳卒中・脳梗塞・クモ膜下出血、心臓病・心筋梗塞・狭心症、がん・末期がん、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症・ピック病。この他にも対応可能な疾病や医療処置が多くあるという。
「病院から退院しても、行き先がない方も多くいらっしゃるのが現実です。がん難民、介護難民と呼ばれている方の中には、医療処置が必要な方もいらっしゃいます。褥瘡がひどく緊急でこちらにいらした方や、今にも呼吸が止まりそうだった方もいましたが、今では話ができるようになっています。褥瘡の処置など、看護師の医療スキルは高いと自負しています」
最期の時を過ごすための場所なので、病院のように積極的な治療やリハビリをして回復を目指すわけではない。しかし、結果的に病院にいた時よりも元気になることがあり、家族がビックリすることもあるそうだ。
人生の最期に自己実現を目指す「ナラティブケア」
介護の目的として自立支援を謳うところは多いが、成城ガーデンが目指していることは自立支援ではないという。では、彼らが目指していることは何なのだろうか。
「自己実現を目指しています。ここで最期を過ごしてもらう時に、ご入居された方に何を実現してもらうかに注力しています。『落語を聞きに行きたい』ということであれば、在宅酸素で看護師をつけて、家族と一緒に演芸場に見に行きます。そういうことを実現するのが、成城ガーデンの存在意義です。そのために看護師、介護士がいます。自己表現ができない方の場合は、最期に何をしたいかを考えるためにご家族とお話をします」
成城ガーデンでは、このような入居者の自己実現のための取り組みを「ナラティブケア」と呼んでいる。ナラティブとは物語という意味。スタッフが一丸となり、人生の最期にどのような物語が演出できるかを考えているそうだ。富士山を見たいということであれば、医師の意見を聞き、家族からの同意も得て、それを実現させていくのだという。
このような姿勢の表れの一つがナラティブブック。入居者の日々の様子を写した写真やスタッフからのメッセージで構成された冊子を手作りしているそうだ。亡くなった後、家族にそれを渡すところまでが成城ガーデンのナラティブケアだという。
「入居されてからはご家族と会えない日もありますし、外に出られない人も多いので、日々の表情をナラティブブックでお伝えしています。これが亡くなった後の最後の仕事です。ここで過ごす時間が短い方も多いですが、毎日を一緒に過ごしているスタッフは家族のような気持ちになるので、どうしても感情移入します。お看取りをして、ナラティブブックをご家族にお渡しして、有料老人ホームとしての仕事が終わります。この事業をしている以上、避けられない辛さではありますが、同時に取り組む価値を感じています」
いかがだったろうか。医療依存度が高い状態で病院を退院しなくてはならなくなり、行き先に悩んでいる高齢者を専門的に受け入れている成城ガーデン。今後も退院後の行き先で困っている人の最後の砦となっていきそうだ。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
【データ】
施設名:成城ガーデン
公式WEBサイト:http://caregiver.co.jp/facility/seijou.php
所在地:東京都世田谷区成城9-10-8
最寄駅:小田急小田原線「成城学園前」徒歩16分、「祖師ヶ谷大蔵」徒歩14分
類型:住宅型有料老人ホーム
事業主体:株式会社ケアギバー・ジャパン
敷地面積:2675.66平方メートル
延床面積:1037.73平方メートル
室数:58室
入居要件: 要介護度・要介護4、要介護5、年齢・要相談
構造:地上2階建て、鉄骨造
開設年月日:2019年7月1日
料金:入居保証金+月額施設利用料(家賃、管理費、生活サポート費、食費)
(1)入居保証金:Sタイプ24万円(非課税))、Aタイプ18万円(非課税)、 Bタイプ14万円(非課税)
(2)月額施設利用料
家賃:Sタイプ12万円(非課税)、 Aタイプ9万円(非課税)、 Bタイプ7万円(非課税)
管理費:2万7000円(非課税)。共用施設等の維持・管理、保険料及び一般事務、備品・消耗品使途等。室内清掃費、水道光熱費(水道代、電気代等)
生活サポート費:2万5300円(税込)。緊急対応、ナースコール設備・管理費用、生活相談、各種サービス案内
食費(1ヶ月30日で試算):朝・昼・夜 6万3180円~(税込)
※料金改定ルール:家賃、食費、管理費は物価の変動等に基づき、運営懇談会で意見を聞いた上で、屋内掲示した後改定償却:解約時の返還保証金。保証金の内の原状回復費・その他の債務費用は、退居時の居室の原状回復費、その他の債務に対して充当し、その残額を返還するものとする。
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
●おむつゼロ!自立支援介護に取り組む特別養護老人ホーム<前編>