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認知症介護のストレスを減らすケア|本人も介護者も幸せになる5つの秘策

 認知症の介護は辛い、認知症介護に疲れた…。そんな人に、認知症の医療や介護を長年研究し、『認知症ポジティブ!』の著書をもつ山口晴保さんが提唱する認知症ケアを伝授。

 前回に続き、認知症ケアの最新事情をレポートします。認知症には、ポジティブに向き合うことで、介護のストレスやイライラをグンと減らせるらしい。認知症の本人も、介護する人も、幸せに生きるための5つの秘策とは…。

 * * *

認知症とは。妄想や暴言が介護のストレスに

「認知症とは、アルツハイマー病などの疾患によって脳のネットワークが壊れ、記憶などの認知機能が低下した結果、物忘れ、金銭や服薬などの管理ができなくなるなどの生活に支障が出る病気です。妄想や暴言、暴力といった症状があらわれる場合もあります。これが介護者の相当な負担やストレスになりますが、これは予防・低減することが可能です」と、山口さん。

 妄想や暴言など認知症の行動・心理症状のことを総称して“BPSD”(Behavioral and psychological symptoms of dementia)という。このBPSDの背景には、認知症の患者さんが感じている不安や不快感が大きくかかわっていることが多いそうだ。

「BPSDは、介護している人にとってストレスがかかる症状です。介護している人はついイライラしてネガティブな言葉を返してしまうことで、認知症当人の不安を煽り、症状を悪化させてしまうことも…。認知症の介護では、なるべくネガティブな言葉や否定的な返答を減らして叱らないこと。ポジティブな言葉を増やして褒めることで、BPSDの症状が落ち着いてくることが多いんですよ」

 早速、下記で具体的なポジティブケアの方法を見ていこう。

認知症介護が辛い人へ、ポジティブケア5選

【1】認知症の介護で多い物盗られ妄想の対処法

●認知症の父との会話-ネガティブ編

<1>認知症の父「おまえ、俺の財布を盗っただろう?」
<2>介護する娘「何言ってるの! 盗ってません!!」→否定
<3>認知症の父「絶対おまえが盗ったんだ!」→怒りが増幅
<4>介護する娘「私じゃありませんよ、お父さんが忘れただけでしょ、ボケちゃってもう本当に困ったわね」→ネガティブな発言

「これは、認知症の症状のひとつ、いわゆる“物盗られ妄想”でよくある会話です。<2>で「盗ってません!!」と否定したり、<4>ネガティブな言葉をかけることで、認知症のお父さんは娘に「強く否定された」と思い込み、ますます怒りが増幅します。

●認知症の父との会話-ポジティブ編

<1>認知症の父「おまえ、俺の財布を盗っただろう?」
<2>介護する娘「あら、財布盗られたと思ってるの?」→オウム返し
<3>認知症の父「財布が見つからないんだよ」
<4>「見つけたら1割もらえる? 何かおいしい物を食べにいこうか」→ポジティブな提案

「いきなり否定せず、まずは相手の言葉をオウム返しすることで、受け止めたことを伝える。そして共感し、ポジティブな言葉をかけてあげます。こういったポジティブな表現を繰り返すことでBPSDが落ち着いてくるのです。ついカッとして失敗を責めたり、否定したりせず、肯定的な切り返しを心がけましょう」

【2】認知症介護では失敗は叱らず「褒める」

「認知症の人が何か失敗をしたとき、『違うでしょ!』『ダメじゃない!』と、叱ってしまうと本人は失敗したとは思っていないので、なぜ叱られるのかわからず、不安や不満が蓄積します。なるべく褒める、肯定することを心がけることで、会話によるストレスが減っていきます。また、寝る前には『お母さんがいてくれて嬉しいよ』など、存在そのものを褒めてあげてください。ぐっすり眠ってくれるようになり、介護の負担が減るケースも」

【3】認知症は介護だけでなく役割を与える

「認知症を患っていても、仕事ができなくなるわけではありません。最近では、花壇の手入れをしたり、車の掃除をしたりして報酬を得るなど、認知症の人が地域に出て仕事として受けている施設もあります。防犯の腕章をつけて、徘徊ではなくパトロールとして歩いてもらうという取り組みもあります。お茶を入れてもらったり、配膳を手伝ってもらったり、役割を与えることで活動的になる人が多いんです。昔得意だったことをお願いしてみるなど、“頼られる”ことで意識がしっかりし、介護がラクになることも」

【4】認知症介護の注意点 決定権を持たせる

「親切な施設では、手取り足取りやってあげることで、本人がまだできる行動がだんだんできなくなってしまうことも…。何でもしてあげずに自分でさせる、メニューを選んでもらうなど、自己決定を多くしましょう。朝食は、スクランブルエッグか目玉焼きかを前の晩に自分で決めるなど、自己決定を伴う行動が多い施設で暮らす人は、何もかもすべて決められて選択肢がない施設に暮らす人に比べて死亡率が半減し、長生きするという研究結果があります」

【5】3つのいいこと日記で認知症介護を幸せに

「認知症の家族を介護する人10名に、1日の最後に、その日にあったよいこと3つとその理由、自分を褒める言葉を書くポジティブ日記を4週間続けてもらったところ、介護の負担感をあらわす数値が低下し、認知症本人のBPSD重症度もグンと低下していました」

 人生100年時代、誰でもなりえる認知症。介護する人も、される人も、ハッピーに暮らせるように“ポジティブ”な介護を心がけたい。

教えてくれた人

山口晴保(やまぐち・はるやす)/医師。群馬大学・名誉教授。現在は、認知症介護研究・研修東京センター・センター長を務める。認知症の医療やリハビリテーション医学を専門とし、認知症ケア研究に従事。『ためしてガッテン』ほかメディアにも多数出演。近著『認知症ポジティブ! 脳科学でひもとく笑顔の暮らしとケアのコツ』(協同医書出版社刊)を執筆。認知症の当事者も介護する人も幸せになるための“認知症ポジティブ“を全国に広める活動を行っている。認知症予防に関する具体的な解説を説いた『認知症予防-読めば納得!脳を守るライフスタイルの秘訣(2版)』(協同医書出版)も好評。

取材・文/介護ポストセブン編集部

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