認知症は予防できる?9つの認知症対策|ポジティブに受け入れる心の持ち方暮らし方
認知症は予防できる? できない? 認知症になるのが怖い、認知症が不安…。認知症に対してそんなネガティブな思いを抱えている人、必読。認知症の医療・介護を長年研究してきた医師の山口晴保さんによる講演会をレポート。
認知症予防にまつわる最新事情から、 認知症になりやすい人の性格特徴まで、今すぐできる9つの認知症対策をお届けします。
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――認知症は予防できると思いますか?
最近物忘れが激しく認知症が不安な記者は、認知症に関する講演会に参加した。講師として登壇した山口さんは、開始早々「認知症は予防できるか、予防できないか?」と、会場に詰めかけた年配の観客たちに質問を投げかけた。
認知症が不安…認知症は予防できる?
山口さんは、認知症の医療やリハビリを専門とし、著書『認知症ポジティブ!』を執筆。認知症を前向きに“ポジティブ”に捉えるための講演会や普及活動を行っている。認知症なのにポジティブ!? 誰もが「なりたくない」「不安」といったネガティブな気持ちを抱えているのでは…。認知症になったら不幸じゃないの?
認知症は“予防できるのかという問いかけに、もちろん記者はまっさきに挙手。会場の人たちもちらほらと手が挙がり、「認知症は予防できる」と思っている人は結構多い。
認知症予防とは発症を先のばしにすること
「実は、認知症にならないという意味での予防はできません。ですが、発症を“先のばし”することは可能です」(山口さん、以下同)
えっ、認知症予防って先のばしするってことなの? あの食べ物も、あの飲み物も、認知症予防にいいと記事で書いてきたような…。
現在、認知症の患者数は全国で500~600万人ともいわれる。2012年の調査では462万人で65才以上の高齢者の7人に1人が罹患していることになる。さらに、2025年には5人に1人が認知症とされる推計も 。
「認知症有症率の実態調査によると、認知症は70才を超えると急激に有症率が上がり、5才ごとに倍になるという結果が出ています。85~90才では4割。さらに、95才以上になると8割が認知症になるのです。つまり、長生きすればするほど認知症になりやすくなるというわけです。残念ながら長寿にはもれなく認知症がついてくる。長寿と認知症はセット、健康に生きていれば誰でもいつかは認知症です」
認知症は予防が難しい。認知症になりやすい性格は?
「認知症という病気は、症状がない時間がとても長いんです。早い人では、40、50代から20年くらいかけて徐々に脳がむしばまれ、やがて発症します。生活に支障が出たときが認知症の発症で、予防するなら発症の20年前からが重要です。また、遺伝的要素が非常に強く、根本的な予防策がないのが現状。ワクチンが開発中ですが、まだ実用段階ではありません。つまり、運動や食べ物、行動、考え方などのライフスタイルを見直して、発症を“先送り”するしかないんですね」
健康に注意して認知症を先送りすれば、同時に長生きする。しかし長生きすれば認知症になる確率が上がるという悩ましい現実に、妙齢の観客たちも身を乗り出して話に聞き入っている。
どうせ認知症になるとしたら、なるべく長生きして楽しく過ごしたいもの。そこで山口さんが提唱する考え方が“認知症ポジティブ”だ。
「認知症に対して不安や恐れを感じて心配して生きるほど、認知症にかかりやすくなるといえます。ネガティブな感情は脳にストレスとなって、ダメージを及ぼします。癌にならず、糖尿病にもならず、元気で長生きしたからこそ、認知症になれた。そうポジティブに考えることで、少しでも心が軽くなればいいと思うんです。認知症は長生きの“勲章”だと考えてみるのはどうでしょう?もちろん認知症になってしまったら、辛いことも悲しいことも多いのが現実ですが、認知症の当人も、介護する人も、認知症をポジティブに捉えることで、その後の人生をより幸せに生きられる。ポジティブな考え方や生き方によって認知症をなるべく先のばしにし、認知症になってしまったときは進行をゆるやかにすることもできるのです」
そこで山口さんが提唱する、9つの“ポジティブアクション”を紹介していこう。
認知症の不安に9つのポジティブアクション
以下の考え方や行動を早いうちから生活の中に取り入れることで、なるべく認知症を先のばしに!
「ライフスタイルや思考のクセを変えて脳のダメージを防ぎましょう」
【1】ネガティブな性格は認知症のリスク3倍
「ネガティブ思考の人は、ポジティブな人に比べて認知症のリスクが約3倍に上がるといわれています。『認知症になったらどうしよう…』と、心配や不安によってストレスホルモンといわれる副腎皮質ホルモンが多く分泌され、脳の神経細胞を傷つけるのです。とくに記憶に関する海馬の神経細胞が減少します。『認知症になるまで長生きしたら幸せだな、偉いな』などと、日ごろからポジティブなとらえ方をするクセをつけましょう」
【2】人との触れ合いや噂話で認知症を先のばしに
「人との触れ合いやマッサージなど、他者と接触することで、愛情ホルモンといわる“オキシトシン”が分泌されます。触れ合いは、ストレスホルモンといわれるコルチゾールを減らし、脳のダメージを防いでくれます。同時に、幸福感や安心感をもたらします。また、オキシトシンは、人に親切にする、ゴシップや噂話で盛り上がるなど井戸端会議、長電話、居酒屋で親しい人と会話するといった非接触行動でも増えます」
【3】 認知症にはリズミカルな有酸素運動を週2回
「認知症の発症や進行を遅らせるには、エアロビクスなどリズミカルな有酸素運動が有効。有酸素運動は、認知症により萎縮する脳の海馬の体積が増加します。週に2回、20~30分、やや息が切れる程度、じんわり汗をかく程度の運動がおすすめです」
【4】毎朝15分のその場ジョギング
「運動がおっくうなら、家の中で階段を使った踏み台昇降のような運動や、その場で軽くジョギングするのも有効です。つま先から着地すれば膝への負担もありません。テレビを見ながら15分程度でよいので、腕を大きく振り上げて膝を高く上げ、その場で足踏みをします。外を歩くのと運動強度はさほど変わりません」
【5】50代は肥満に注意。65才以上は痩せ型NG
「糖尿病、高血圧、高コレステロールといった生活習慣病にかかると、認知症のリスクが約6倍に跳ね上がります。また、50代では肥満がリスクとなりますが、65才以上は逆に痩せているほうが認知症のリスクが高いという調査結果があります」。
年を取ったら痩せすぎに要注意。
【6】毎日の「緑茶」で認知症発生リスク減
「毎日緑茶を飲む人は、飲まない人と比べて認知症発生のリスクが1/3に下がるという調査結果も。緑茶の認知症発生を抑制する作用は、コーヒーの3倍以上に。緑茶に含まれるカテキンの作用と考えられます。緑茶は、お湯で入れるよりも“水出し”のほうが、カテキンの中でも抗酸化作用が高いエピガロカテキンが増えるのでおすすめです」
【6】認知症が不安なら缶ビール1日1本まで
「認知症発症リスクと飲酒の関係を分析した研究では、まったく飲まない人と比べて、週にエタノール40ml(缶ビール2本)でリスクが低下。そして、缶ビール1日1本程度まではリスクが上がりません」
【8】赤ワインは他の酒より脳の異常を抑制
赤ワインに含まれるポリフェノールには認知症リスクを抑えるという研究結果が。
「赤ワインは、一般的なお酒に比べ、認知症の原因とされる脳の老人斑(βたんぱく異常蓄積)の量が大幅に抑えられるという結果が出ています」
【9】5~8時間の快眠で認知症のリスク減
「60才以上の高齢者の認知症リスクと睡眠時間を10年にわたって調査した結果によると、睡眠時間が5時間未満または10時間以上の人は、認知症のリスクが倍増していました。睡眠は少なくても、多すぎてもだめ、認知症を先送りするなら5~8時間睡眠が適切でしょう」
認知症は予防ではなく、あの手この手でなるべく先のばしに。人生100年時代、長生きしたいなら、今すぐポジティブアクションはじめなきゃ!
教えてくれた人
山口晴保(やまぐち・はるやす)/医師。群馬大学・名誉教授。現在は、認知症介護研究・研修東京センター・センター長を務める。認知症の医療やリハビリテーション医学を専門とし、認知症ケア研究に従事。『ためしてガッテン』ほかメディアにも多数出演。近著『認知症ポジティブ! 脳科学でひもとく笑顔の暮らしとケアのコツ』(協同医書出版社刊)を執筆。認知症の当事者も介護する人も幸せになるための“認知症ポジティブ“を全国に広める活動を行っている。認知症予防に関する具体的な解説を説いた『認知症予防-読めば納得!脳を守るライフスタイルの秘訣(2版)』(協同医書出版)も好評。
』取材・文/介護ポストセブン編集部
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