薄毛に克つ|食事、睡眠、運動、ホームケア…医師が教える正しい対策
髪の分け目が薄くなった、抜け毛が増えた、頭頂部がぺちゃんこに…。社会参加する女性が増えた今、40代を境に、髪の老化を意識し始める女性は8割以上もいるという。紫外線が頭皮や毛髪の大敵となる夏だからこそ実践したい、お金をかけずに薄毛とサヨナラできる、美髪を育むための最終結論。
夏の強い日差しは、髪や頭皮にとっては大敵。髪の分け目が日焼けして毛根が傷み、汗や皮脂で毛穴に汚れがたまりやすくなると、抜け毛の原因になる。
かつて薄毛は男性の悩みとされていた。髪の悩みで頭髪専門外来を訪れる女性は年々増加し、40~50代が約8割を占めるともいわれる。
前頭部や頭頂部など部分的に薄くなる男性と違い、女性は全体的に毛がまばらになったり、左右の生え際が白髪になりやすいなどの傾向があるという。
原因は何か。東京大学医学部卒で、松倉クリニックの医師・田路めぐみさんが話す。
「最近は、男性同様に働く女性が増え、ストレスやホルモンバランスの乱れなどから、薄毛の女性が増えたのが要因の1つと考えられます。また、年代によっても原因は変わり、20~30代は妊娠や出産、授乳による鉄分、たんぱく質の不足、育児によるストレスが原因で薄毛になる人が多い。また、30代後半からは、女性ホルモンの1つ、『プロゲステロン』が減少し、髪が細く短くなり抜けやすくなります。40代に入ると、同じく女性ホルモンの『エストロゲン』も少なくなって髪の質感が低下。50代で閉経すると、女性ホルモンの量が男性のそれよりも少なくなり、細胞の勢いが落ち、ますます髪が弱くなっていきます」
このように原因が異なるにもかかわらず、間違った解釈で効果の薄いケアをしている人も多い。
「髪によさそうだからと、高級育毛剤を使ってみたり、高価なシャンプーやトリートメントに変える人も多いですが、それだけでは髪は生えません。また、『代々薄毛の家系だから』と遺伝のせいにして諦めてしまう人もいますが、遺伝による薄毛は、2~3割にすぎません」(田路さん・以下同)
では、いったいどうすれば髪は生えてくるのか。
「荒れた畑でいい野菜は育ちません。髪もそれと同じで、土台となる体が健康でなければ、何をしても髪は生えません。まずは、体と心の状態を見つめ直し、日頃の習慣を改めることから始めて」
豊かな髪を取り戻すために、生活の何を変えるべきか。一つずつ見ていこう。
食事編:「悪玉コレステロール」をカットしすぎると逆効果
女性の薄毛の大きな要因として挙げられるのが、実は食事だ。毎日のことだからこそ、それがまさか育毛を阻んでいるとはなかなか気づかないだろう。
「髪に特に必要な栄養素は、たんぱく質、鉄分や亜鉛などのミネラル、ビタミンB群・Cの3つ。これらが足りていないと、真っ先に髪や爪にダメージが出ます」
ダイエット中の女性にありがちなのが、脂を極力カットした食事だが、頭髪に与えるダメージは計り知れない。
「肉や卵黄など、脂やコレステロールを過度に避けていると、女性ホルモンの分泌が低下し、髪や肌にハリがなくなります。そればかりか、元気が出なくなったり、ストレスにも弱くなるのです。一般的に、心筋梗塞などを発症するとされる『悪玉コレステロール』も、必要な栄養素の1つです。悪いイメージが先行しますが、こうした脂を摂らないせいで、女性ホルモンを体内で作れなくなっている人は多いのです」
たんぱく質を摂るには、適度な脂と鉄分が摂れる赤身肉がおすすめだ。鉄分は野菜からも摂れるが、植物性は体への吸収が弱いため、肉や貝類などの動物性の食材から摂るとよいという。ほかにも、栄養素の役割や髪にいい食材を下表にまとめたので、参考にしてほしい。では逆に、髪に悪い食べ物は何か。
糖化に注意。ラーメンとお酒の組み合わせはNG
「ずばり、白米や麺、パンなど高糖質な食べ物です。糖質を摂りすぎると、体に余った糖が体内のたんぱく質と結合します。これが俗にいう『糖化』で、糖化は体のあちこちで細胞の働きを鈍らせ老化させるのです」
特に最悪なのが、「ラーメン」だ。
「ラーメンは、麺は糖質、スープには脂質と塩分がたっぷり含まれ、チャーシューやねぎがトッピングされているだけ。たんぱく質やビタミンはほとんど摂れません。間違いなく髪に悪影響なので、できるだけ食べる頻度を減らしてほしいところ」
また、ビールや日本酒などの酒も糖質なので適量に控えたい。
「お酒を飲むと、アルコールの代謝のためにビタミンB群を消耗し、髪や肌が弱くなります」
酒を飲みながらのラーメンは、薄毛になる条件がこんなにそろっているのだ。
睡眠編:蛍光灯やスマホの光で薄毛になりやすい
髪の成長にかかわるホルモンには、「成長ホルモン」「甲状腺ホルモン」「女性ホルモン」「メラトニン」の4つがある(下図参照)。どのホルモンも、髪の成長には不可欠だが、このうち、成長ホルモンとメラトニンは、睡眠と深くかかわっている。
「髪にとって最も影響が大きいのが成長ホルモンです。髪の成長期に、太く長い毛が育つようサポートする働きをします。成長ホルモンは、深い睡眠で放出され、眠り始めてから最初の3時間に特に多く分泌されます。そのため、3時間以上の良質な深い睡眠が続かないと、うまく成長ホルモンを分泌できず、睡眠不足で体調が悪いだけでなく、薄毛まで進行させるのです」
それを防ぐには、睡眠時間の確保が重要と思いがちだが、田路さんは「睡眠の『質』を高めることの方が重要」と話す。
「睡眠の質を高めるために必要なのが、メラトニンを正常に分泌させること。メラトニンは、体内時計を調整したり、覚醒と睡眠の切り替えを行ったりして、眠りを誘発する働きをしてくれます。夜眠くなるのは、このメラトニンのお陰なのです。逆に、メラトニンが正常に作用しないと、睡眠の質が大きく下がります。そうなれば、充分な睡眠が取れなくなり、成長ホルモンが分泌されず、結果的には薄毛が進行してしまうのです」
だが、多くの人が、知らぬ間にメラトニンを減少させる行動を行っているという。
「夕食は、就寝の4時間前までに済ませるのが理想ですが、多くの仕事を抱える現代人にとって、難しいことでしょう。また、夕食に糖質を減らした方がいい理由は、睡眠の質を上げるためでもあります。お風呂はシャワーで済ませずに、ぬるめのお湯でゆったり浸かってリラックスしましょう。寝る直前のお酒も、気持ちよく寝落ちしているようで、実は眠りが浅くなっています。また、最も気をつけたいのが、スマホやパソコンの明かり。これらの強い光は不眠や寝つきの悪さに直結します。できれば、何気なくつけている部屋の明かりも、寝る前だけは蛍光灯ではなく、白熱灯などリラックスできる明かりにした方がいいでしょう」
睡眠の質を上げる6か条
●就寝の4時間前までに夕食を済ませる
●夕食はたんぱく質を多めに摂り、糖質を控える
●お風呂はぬるめのお湯にゆっくり浸かる
●寝る直前に酒を飲まない
●寝る前にスマホやパソコンの画面を見ない
●就寝前は、部屋の照明を白熱灯などの暖色に変える
運動編:ジョギングやウォーキングだけでは髪は育たない
適度な運動も、薄毛に効果的という。
「運動すると、筋肉を増やすために成長ホルモンが分泌されるため、大きな育毛効果が期待できます。筋肉がついて基礎代謝が上がり、新陳代謝も活発になって頭皮の健康も保てるのです」
運動も、ジョギングやウオーキングなどの有酸素運動だけでなく、筋トレを組み合わせると効果が上がる。
「成長ホルモンは筋トレで分泌されるため、有酸素運動の前に行います。その後、有酸素運動で効率よく脂肪を燃焼することで、内臓の働きがよくなり、健康な髪が生えやすくなるのです」
では、具体的にどれくらいの運動を行えばいいのか。
「週2~3回、筋トレ20分+有酸素運動20~30分が理想です。運動が苦手な人は、歩幅を小さくして早めに歩いてもいい」
女性の中には、“万年ダイエッター”という人も少なくない。しかし、常に何かを我慢し続けるダイエットは栄養が偏るだけでなく、ストレスも多分にかかる。
「ストレスは女性ホルモンを減らすため、我慢し続けると薄毛にもつながります。反対に、運動はストレス解消になり、健康になって薄毛対策もできます。やらない理由がありません」
ホームケア編:濡れたままの髪は大ダメージにつながる
日々の習慣の中で、気にも留めていなかったことが、薄毛につながることもある。1つはシャンプーだ。
「『育毛』や『発毛』を謳(うた)っていても、安すぎるシャンプーは効果を期待できません。髪や頭皮に負担が少なく、充分に汚れを落とせる成分は、やはり安くは製造できないからです。また、強力な洗浄成分が含まれるシャンプーは、髪や頭皮に負担が大きすぎます。成分表記を確認して、『ラウレス硫酸塩』『ラウリル硫酸塩』などの石油系のものを避け、アミノ酸系シャンプーを選んで」
髪の洗い方も注意が必要。
「爪を立てて洗うと頭皮を傷つけます。また、シャンプーを直接頭皮につけるのもNG。髪同士が摩擦で傷つかないよう、手で軽く泡立ててから、頭皮を動かして毛穴の汚れを浮かせるように洗って」
お風呂から出たら、なるべく早くドライヤーで髪を乾かすこと。昔は「ドライヤーは髪を傷める」といわれていたが、実は違った。
「自然乾燥だと、乾くまでずっと頭が蒸れていることになり、毛根にも負担がかかるばかりか、細菌が繁殖しフケ、かゆみの原因にもなります」
乾かす時は、髪から15cmほど離して、毛先よりも毛根から先に乾かすように意識すること。 また、洗髪時の頭皮マッサージと、乾かす時のブラシマッサージも行うとよい。髪に栄養やホルモンが届きやすくなるだけでなく、頭のコリも取れて、質のよい睡眠につながる。
食事から睡眠、入浴時など、日常の中で何気なくしていたことが、これほど薄毛を助長していた。 今日から早速、正しい薄毛対策を行ってほしい。
頭皮マッサージの方法
【1】手のひらをこめかみより少し上に当て、ぐるぐると押し回しながら頭の上までほぐしていく。
↓
【2】両手の指の腹で、生え際から後頭部をゆっくりもみほぐしていく。
ブラシマッサージの方法
【1】耳の真上から頭頂部に向かって、頭皮を持ち上げるように心地よい圧をかけながら、ジグザグに大きくほぐしていく。
↓
【2】頭頂部に小さな「の」の字を押しながら描き、少しずつずらして頭全体をマッサージする。
イラスト/naggy
※女性セブン2019年8月22・29日号
●薄毛対策|頭頂、前髪の悩み・パサつき・コシなし髪の悩み|自分でできるヘアケアのコツ