野菜の栄養失わない調理法|長寿ホルモンを増やす皮のむき方、ゆで方、保存法
新鮮な食材に手間暇かけて下ごしらえ。でも、そのせいで“栄養の9割”が失われているかもしれない事実をご存じだろうか。栄養は調理次第で増減し、吸収率も大きく変わる。「栄養を失わず、効果を底上げする」調理法を押さえれば、食べるだけで健康・長寿も夢ではない。
下ごしらえが“栄養ロス”を招く
「普段当たり前のようにしている“調理の基本”が『大損』につながることもあります」
と話すのは、『その調理、9割の栄養捨ててます!』シリーズ(世界文化社)を監修した、東京慈恵会医科大学附属病院の栄養部課長で、管理栄養士の濱裕宣(はまひろのぶ)さん。
「皮をむく」「水にさらす」といった下ごしらえや、「ゆでる」「焼く」といった加熱方法に加え、食材によっては冷蔵庫で保存することさえ“栄養ロス”を招くという。
枝豆は蒸し焼きに
「例えば、枝豆。ゆでるとビタミンCが5割近く流れ出てしまいますが、蒸し焼きなら残存率はゆでた時の2倍。ビタミンB群やカリウムなども残るほか、代謝を促進する酵素・モリブデンは300倍にもなります」(濱さん・以下同)
ビタミンC・B1・B2、カリウムといった栄養素は水溶性のため、水につけると流出しやすい。100gに1日分のビタミンCが含まれるというブロッコリーも「ゆで」より「蒸し」「電子レンジ加熱」などがおすすめだ。
皮ごとの調理がおすすめ
野菜の表面についた汚れや土、菌などは、流水でしっかり洗い落とさなくてはならない。しかし、残留農薬が気になるからと必要以上に水にさらしたり、皮を厚くむいたりするのも、栄養学的にはNG。野菜は皮付近に栄養素が多いからだ。
例えば、にんじんには強い抗酸化力を持つβ-カロテンが豊富だが、皮付近の量は中心部の2・5倍。ポリフェノール、カルシウム、マグネシウムは4倍、リンやビタミンKは7倍だ。
「バランスよく栄養を摂れるように、皮ごと輪切りにしたり、乱切りにした方がいい。皮を食べることに抵抗があるなら、農薬を除去できる食品専用の洗剤があるので、利用するのも一手です」
根菜は切ってから保存を
野菜を切るタイミングも重要だ。葉物野菜は切ったところから栄養素が酸化してしまうため、食べる直前に切るのがベスト。しかし、根菜類は真逆だ。
「根菜は、切断のストレスでビタミンCが増加することがわかっています。にんじんを切って常温(25℃)で2日間放置したら、ビタミンが2倍に増加したというデータも。冷蔵庫保存でも増えるので、あらかじめ切って保存しておくといいでしょう」
【1】洗いすぎるとミネラルが流出
ほうれん草は油炒めやバターソテーで
栄養の吸収率も、調理法によって大きく変わってくる。『長寿ホルモンを増やす!「長寿食材」の選び方と最高の食べ方』(宝島社)を監修した、東京慈恵会医科大学附属第三病院の栄養部課長で管理栄養士の小沼宗大(おぬまむねひろ)さんは、脂溶性の栄養素の吸収率は、油で高められると話す。
「ほうれん草に含まれる抗酸化成分・カロテノイドやルテインは、油炒めやバターソテーにすることで吸収率が高まります」(小沼さん・以下同)
2大長寿ホルモンの「アディポネクチン」と「DHEA」を食べて増やす
厚生労働省による日本人の平均寿命は女性が87・26才、男性が81・09才と、過去最高を更新している。人生100年時代が現実のものになろうとする一方、介護や人の助けを借りずに自立した生活ができる「健康寿命」は、男性72・14才、女性74・79才。その差は10才前後もあり、健康長寿をどう実現するかが課題となっている。
「いつまでも若く元気でいるためには、食事で体の中の“長寿ホルモン”を増やすことが大切です」
長寿ホルモンといわれるのは、「アディポネクチン」と「DHEA」。それぞれ、次のような特徴や働きがある。
●アディポネクチン
・血中濃度が高い人に長寿の傾向がある
・余分な糖や脂肪酸を燃焼させ、脂質異常症を予防する動きがある
・内臓脂肪が増えるほど分泌量が減る
・全身の血管をメンテナンス
・動脈硬化、高血圧、糖尿病、脂質異常症、がん、メタボリックシンドロームを予防する
●DHEA
・男性ホルモン、女性ホルモンなど50種類のホルモンのもとになる
・20才をピークに、40代で約50%、70代で約20%、85~90才で5%まで低下する
・ストレスによって増えるホルモン「コルチゾール」に対抗し、酸化から体を守る
・ストレスが緩和され、免疫力、細胞の再生力をアップ
・記憶力改善、うつ病、更年期障害の症状改善が期待される
「この2つを増やす食材は、健康長寿を目指すのに役立ちます。効率よく摂るためには、下ごしらえや調理法を選ぶ必要があります」
食材別“長寿”になる食べ方のコツ
身近な食材の“長寿になる”食べ方を見ていこう
トマト
南米が原産のトマトは、肌や血管の老化を防ぐ抗酸化成分・リコピンが豊富。「トマトが赤くなると医者が青くなる」ということわざのように、健康効果が高い夏野菜だ。
「真っ赤になって、軽く押すと適度にやわらかく感じるくらいまで追熟させること。これだけで、冷蔵庫で保存した時よりもリコピンが6割も増えます」(濱さん)
さらに、トマトにはもう1つの注目成分が含まれている。
「長寿ホルモン・アディポネクチンと同じ働きをするオスモチンと呼ばれる植物性たんぱく質です。糖や脂質の代謝を促す働きがあるものの、リコピン同様、強固な細胞壁で守られていますが、加熱や冷凍によって細胞壁を壊せば、吸収率を高められます」(小沼さん)
玉ねぎ
DHEAを作り出す副腎は酸化に弱いので、抗酸化作用が高い食材の摂取は必須。玉ねぎの抗酸化成分・ケルセチンは、皮に多く含まれる。
「汚れを気にして、茶色の皮の下を2枚以上むくと、ケルセチンもミネラルも大幅に減ってしまいます」(濱さん)
だが、皮をむき、輪切りで1週間ほど天日干しすれば、ケルセチンが4倍に増える。
「ケルセチンは水溶性なので、スープなら丸ごと摂れます」(小沼さん)
辛み成分の硫化アリルは、空気に触れると血液サラサラ効果のあるアリシンに変化する。刻んで20分放置でアリシンは活性化する。
「できるだけ細かく刻んで10~20分放置して活性化させること。水にさらすと抜け出てしまうので注意を」(濱さん)
ピーマン
トマトと同様に、長寿ホルモン・アディポネクチンと同じ動きをするオスモチンが含まれる長寿食材。緑のピーマン独特の成分・ピラジンは、苦みのもとで、わたの部分に豊富。
「皮の10倍もの血液サラサラ効果がある」と濱さん。
血液サラサラ効果を得るには、繊維を壊さないよう、繊維に沿った縦切りがおすすめだ。
オクラ
ネバネバのもと・水溶性食物繊維のペクチンと、多糖類のムチンを含み、血中コレステロール値を下げて血糖値の上昇を抑制する。
「アディポネクチンの分泌を助けるマグネシウムも多いため、ダブルで長寿に働きます。熱に弱いので、ゆでる時はへたを取らず、加熱時間は1分以内に。生のまま刻んで水を混ぜたり酢をかけたりすればネバネバが倍増します」(小沼さん)
しいたけ
アディポネクチンを増やす食物繊維や、肥満や糖尿病を予防するビタミンB群が豊富だが、洗うとせっかくの成分が流れ出てしまうので、下ごしらえは布巾などで汚れを拭く程度にとどめたい。
「干しても凍らせても旨みと栄養価がアップしますが、カサの裏側に栄養素が集まっているので、干す時はカサを下にして」(小沼さん)
調理前に2~3時間ほど干すと、ビタミンDが10倍に増える。
「軸には疲労回復のオルニチン、リラックス効果のGABAなどがカサの2倍含まれているので、できるだけ捨てずに食べて」(濱さん)
なす
なすはほとんどが水分で栄養がないと思われていたが、皮に強力な抗酸化成分・ナスニンが多く含まれる。必ず皮はむかずに食べたい。実の部分にもカリウムや水溶性食物繊維が含まれる。
水にさらすと、高い抗酸化作用を誇るナスニンだけでなく、ミネラルや水溶性食物繊維も流出する。
「切ってすぐに調理が基本。油でコーティングするのがいい」(濱さん)
アクを抜きたい場合は切り口に塩を振って数分放置し、表面に出てきた水分をペーパータオルなどで拭く。
にら
抗酸化成分のアリインとメチインは、冷凍で劇的に増えるが、切り方も工夫すればさらに高い効果が期待できる。
「根元にアリシンがたっぷり含まれるので、できるだけ細かく刻んで活性化させること。ビタミンA・C・Eは刻むほどに失われるので、これらが多い葉先は、大きくざく切りに」(濱さん)
枝豆
必須アミノ酸のメチオニン、ビタミンB1・Cがアルコールの分解を促進して肝機能の働きを助けてくれる枝豆は、栄養面でもビールのお供にピッタリ。脂肪燃焼効果のあるコリンとオルニチンも豊富だ。
「ゆでるとコリン、オルニチン、ビタミンCが流出するので、弱火で5分ほど蒸し焼きに。栄養が逃げずに残ります」(濱さん)
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栄養の吸収率は年齢を重ねるにしたがって下がる。健康長寿を目指すなら、三度の食事にこそ気を配りたい。
※女性セブン2019年8月8日号
●身近な野菜の天然毒素に注意!じゃがいも、トマト、ズッキーニ…実は危ない