香港を世界一の長寿国にした高い医療レベルと格安治療費事情
平均寿命は男性81.32才、女性87.34才──。厚生労働省が7月に発表した平均寿命ランキングで、昨年に続き男女とも世界の国・地域のトップに立った香港。平均寿命が高い理由は医療事情にも関係するようだ。
香港の公立病院は医療費が格段に安い
「昔は医者の評判もよくなかったから、すぐに病院に行かず、ちょっとした不調はなんとか自分で整えようとしていた。だけどここ数年は医者の腕もいいから病院に行くよ」
香港のシニアと話していると、このような声がよく聞かれる。
近年の香港の健康長寿を支える1つの要因は「医療」である。香港の医療は公立病院と私立病院の二本柱が支える。私立病院は患者が快適に治療できるようサービスが充実しているが、治療費や入院費は高額になる。一方、公立病院は医療費が格段に安い。香港で医療コンサルタントを営む堀眞さんは、こう語る。
「香港在住者であることを証明する政府発行のIDさえあれば、1日入院しても治療費は100香港ドル(約1500円)という驚きの医療費です。どんな先端医療を受ける場合もこの額は変わらず、以前には生体肝移植の費用が3万円というケースもありました」(堀さん)
高齢者には1年で1000香港ドル(約1万5000円)分の医療チケットを支給するサービスもあり、シニアには至れり尽くせりだ。
香港の医師は臨床経験が豊富で、高水準
公立病院でも医療レベルは高水準だと堀さんが続ける。
「公立病院は待ち時間こそ長いものの、私立病院と比べて遜色のない医療レベルになっています。香港は患者1人に対する医師の数が少ないので臨床経験が豊富になります。
また、医療が標準化されていて、最も合理的な治療を医師が判断するため、診療の予約日は病院側が一方的に決めます。
アメリカの基準に従って新薬を承認できるので、日本では許可が下りていない薬による治療も可能です」
香港の面積の小ささは医療面でもアドバンテージとなる。
「香港ではどんな郊外でも車を30分も走らせれば大病院に到着します。狭く交通網が発達したメリットは大きい」(堀さん)
医食同源の考えに西洋医学が融合。香港人の健康意識に変化が
香港の公立医療が整備されたのはイギリス統治下の1991年。以降の医療充実は平均寿命の押し上げに貢献した。
「香港人が伝統的に持つ医食同源の考えや漢方の知識と西洋医学が融合して、高齢者の寿命を延ばした。平均寿命に大きく関連する新生児や乳幼児の死亡率が低下したことも大きな要因です」(堀さん)
医療の充実と経済発展は香港人の健康意識を変えた。
「香港人は1990年代初めまで健康意識が低く、日系企業で働く香港人スタッフに健康診断を受けるよう提案すると“健康診断するくらいならその分の現金をよこせ”と言われましたが、1990年代の終わり頃から健康診断を要求するようになった。経済的に豊かになると、脂や糖分の多い欧米流の食生活が主流になる国も多いが、食文化の根底に医食同源がある香港は、何とか踏みとどまりました。それにひきかえ、日本には欧米並みの高カロリー食が蔓延し、最近は米食まで否定するようになりました」(堀さん)
※女性セブン2017年9月14日号
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