肺炎を起こす誤嚥、1日600回も危険が。みそ汁やミカンは要注意
肺炎で亡くなる高齢者の約7割が患っているという誤嚥性肺炎。誤嚥(ごえん)とは、食べ物や液体が、本来流れ込むはずの食道ではなく、気管内に侵入すること。肺の中に異物が入っても、元気な人なら咳込んで外に出すことができるので問題ないが、高齢者や、体力や免疫力が落ちている人は、食べ物や唾液が肺に侵入し、細菌が繁殖して炎症を起こし、肺炎になってしまうのだ。
1日に600回、誤嚥の危険性がある
総合病院衣笠病院の摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士・木村麻美子さんは、食べる際の注意点をこう語る。
「成人は1日に約600回、のみ込む作業をしているため、健康な人なら問題ありませんが、誤嚥しやすい人の場合、600回も誤嚥の危険性があることになります。そのため、少ない量でも栄養がしっかり摂れる食事が理想です」
食べる時に特に注意すべきなのがみそ汁だという。サラサラの液体と具材が一緒になった食べ物ほど、液体だけ先に気管にサッと流れ込んでしまうため危険が増す。
特にみそ汁は、食事のいちばん初めに飲む人が多く、のどのウオーミングアップがまだできていない状態で急にのみ込んでしまうのでムセやすい。
さらに、煮汁をたっぷり含んだがんもどきや、果汁たっぷりのみかんなど、噛んだ瞬間に汁がブシュッと出るものも、気管を閉じる反射が間に合わず誤嚥しやすいので、注意すべき食材だ。
とろみ、ネバネバのある食材は誤嚥しにくい
逆に、プリンや中華のあんかけ料理など、とろみのある食べ物は誤嚥しにくい。納豆、山芋、おくらなど、ネバネバしている食材もとろみがあるのでのどをゆっくりと流れるため誤嚥しにくく、栄養価も高いのでおすすめだ。
麺はすするとムセやすいので、短く切ってあんかけにしたり、ハンバーグもソースにとろみをつけたりするとのみ込みやすくなる。肉や魚は焼くと硬くなりやすいので、軟らかく調理できる煮物や蒸し物にするといいという。
また、お粥は食べやすいと思いがちだが、実は水分と米が離水しやすく誤嚥が多い。むしろパンの耳を取って、牛乳で軟らかく煮て粥状にしたほうが、米の粥ほど離水しない。
好みでバターやチーズ、砂糖などを入れると栄養価もアップ。少量でもおいしく食べられる。
上向きで食べると誤嚥のリスクが高まる
日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士の桑原昌巳さんは、食べ方も重要だと話す。
「あごを上げた、上向きの状態で食べると、水分がのどの奥にふいに流れ込んでしまい、誤嚥が起こりやすい」
あごを引き、軽くおじぎをするような姿勢をとると、のど幅が狭くなるので、気管よりも食道に食べ物が流れやすくなる。もし介助する時は、小さめのスプーンで水平に食べさせる。その際、床に両足を付け、下半身をしっかり安定させると、のどの周りの筋肉の緊張が解けて、のみ込みやすくなる。
さらに、テーブルに肘をつくのは、マナー上はよくないとされているが、肘で体を支えると体が安定し、グッとのみ込みやすくなる。
誤嚥予防には、のどを鍛えることが大切
話題のベストセラー『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)の著者であり、耳鼻咽喉科専門医の西山耕一郎さんは、よく噛んで、しっかり口から食べていると、脳や体の機能も活発になるというが、最後まで自分の口で食べるためにも、のどを鍛えることが何よりも大切だ。
また、誤嚥予防に、おしゃべりがのどのトレーニングにもなるとも。
のみ込む力を衰えさせないことが、長寿の鍵といえそうだ。
イラスト/MARI MARI MARCH
※女性セブン2017年7月20日号