認知症の人のプライド あるある4タイプとその対処法とは?
岩手に住む認知症の母を東京から遠距離での介護をしている工藤広伸さん。祖母と母のダブル介護の経験もあり、家族の立場で”気づいた””学んだ”さまざまな介護心得をブログなどで公開している。その内容は、書籍化もされ、医者や専門家ではわからない視点が、本当に役立つと話題だ。当サイトのシリーズでも、介護が始まる前にも知っておきたい、覚えておきたいアドバイス満載が満載。今回のテーマは「プライド」。人間、誰しもプライドを持っているが、認知症の人には、特徴的なプライドがあることに気づいたという。
* * *
「プライド」という言葉は、「プライドが高い」「プライドが傷つけられた」のように使われ、自分自身を保とうとする心という意味もあるようです。
認知症介護においても、この「プライド」を意識する場面がいくつかあります。今日は認知症の人と接していると感じる4つの「プライド」について、お話しします。
「わたしは認知症なんかじゃない!」というプライド
最初にプライドの高さを感じるのは、「わたしは、認知症なんかじゃない!」と家族に対して、認知症の疑いのある人が怒る場面だと思います。
家族から見れば、「同じことを何度も言う」「今日が何日なのか分からない」など、明らかな認知症の兆候があるのに、本人は全く認めようとしません。なので、病院へ連れて行こうとしてもうまくいきません。
わが家の場合は、母を無理に病院へ連れて行くことはせず、市の健康診断があると嘘をついて、病院へ連れ出しました。それでも「健康診断は必要ない」と母が言うので、プライドが高いなぁと当時は思いました。
認知症という病気に対して、ネガティブなイメージを持っている方が多いですし、まさか自分が認知症になると思ってないわけですから、そう簡単に病気を受け入れられるものではないと思って介護に臨んだ方が、家族の精神的な負担は減ると思います。
「自分はなんでもできる!」というプライド
2つ目に感じるプライドが、認知症の人が「自分はなんでもできる!」という場面です。認知症が進行すると、以前はできていたことがだんだんできなくなっていきます。しかし、本人の頭の中ではできるイメージが強く残っているために、現実とのギャップを見た家族は「プライドが高い」と思ってしまうのです。
若い頃、社員寮で料理担当だった母は、1か月間、違うメニューを出し続けることができるほど、料理のレパートリーが豊富でした。しかし認知症が進むにつれ、レパートリーは激減しました。今では、全盛期の1割程度のレパートリーしかありません。それでも、母はどんな料理でも作ることができると思っています。
「自分は若い頃、すごかった! 偉かった!」というプライド
3つ目によく見かけるプライドが、「若い頃の自慢」です。男性の場合は仕事自慢、女性の場合は、夫を支えた苦労や子育ての苦労話を、認知症の方から聞いたことがあります。認知症に限らず、高齢者の方はみんなこういったプライドを持っていると思います。
亡くなった認知症の祖母は、バリバリ働く人でした。なので、大企業に勤めていたことを最期までプライドとして持っていて、企業名をいうと喜んでいました。ナースステーションにまで行って、若かりし頃の自慢話をする祖母を見て、プライドの力はすごいなと感じたこともあります。
「自分がやってしまった事を認めない」というプライド
最後は、「自分がやってしまった事を認めない」というプライドです。認知症の症状でよくある「物盗られ妄想」。自分で物を片付けたことを忘れ、他人を泥棒扱いしてしまうというものです。
母は、自分で片付けておきながら、義弟が持っていったと大騒ぎします。物を片付けた記憶が完全にないわけですから、他の人が盗んだ、持っていったと考えることは、決して間違いではありません。しかし、その気持ちを介護者は理解できないので、「プライドが高い」とつい思ってしまいます。
「4つのプライド」は認知症の人の生きる支え
わたしは、認知症の人が「プライド」を持っているうちが華だと思っています。
認知症の母を見ていると、「プライド」が生きる原動力になっていると感じることもあります。もし、「わたしはもう若くない」、「わたしはもう死んでいくだけだ」といったプライドのない言動が増えたとしたら、わたしは心配になると思います。
実際はできないことが増えたとしても、「わたしはまだやれる」というプライドが生きる支えになっているのだと思います。
イライラしない対処法
介護する側は、何度もこの「プライド」と対峙する必要があり、面倒に感じることも多いでしょう。それでも認知症が進行して、自慢話よりも笑っている時間が増えていった祖母を見ていると、少しずつ「プライド」も消えていくのだと分かりました。
「プライドの高さ」にイライラしない方法として、わたしは言い過ぎない程度に間違いを指摘してガス抜きをしています。常に認知症の方を尊重するのが基本と言われていますが、やってみるとなかなか難しいので、この方法を採用しています。
例えば、ジャガイモが煮えてない場合には、母が食べた時に「固さはどう?」と質問します。たまに強がりを言うこともありますが、固いじゃがいもは吐き出します。焼き方の甘い焼き魚も、「しっかり焼けてる?」と聞くと生臭いのでもう一度自分で焼き直します。
こちらから強く指摘するのではなく、認知症の方に気づいてもらい、プライドをあまり傷つけないようにするという方法がベストなように思います。これは認知症介護に限った話ではなく、職場や友人同士などにも活用できると思います。
今日もしれっと、しれっと。
【工藤広伸氏講演会のお知らせ】
演目:誰かに話したくなる「認知症介護の心得」
日時:8月3日(木)18:30~20:15
場所:福島県石川町共同福祉施設 福島県石川郡石川町関根1-1(最寄駅:JR水郡線 磐城石川駅 徒歩20分)
費用:無料(申込不要です、直接会場にお越しください)
→このシリーズのバックナンバーを読む
【人気の記事】
親の介護 先行投資は本人の幸せと節約のダブルでメリット
病院や介護施設での事故、後悔しないための3つの心構え
どうやって調べてる? 情報収集能力をあげて介護をラクにするヒント
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、ものがたり診療所もりおか地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)