《芸能界から介護の世界へ》岩佐真悠子「推しのおばあちゃんから“大好き”をもらえる」理不尽さも吹き飛ぶ“やりがい”、介護の現場は「愛おしい」
タレント、俳優として活躍後、芸能界を引退して介護業界へと飛び込んだ岩佐真悠子さん(39歳)。知識ゼロからスタートし、特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、有料老人ホームなど5つの施設を経験したという。国家資格である介護福祉士を取得し、現在は育児と両立しながらデイサービスで働いている。そんな岩佐さんが感じている、介護職のリアルと魅力について話を聞いた。【全3回の第2回】
「こんにちは」が通じない。知識ゼロから直面した認知症ケアの壁
――介護施設で働き始めて、最初にぶつかった壁や戸惑いはどのようなものでしたか?
岩佐さん:最初に行った特養で「コミュニケーションをとってください」と言われたのですが、難しかったですね。利用者さんのほとんどが認知症の方なのですが、当時の私はまったく知識がなくて、どう関わっていいのか分からない。「こんにちは」と話しかけても無言。目も合いませんし、耳が遠い方も多いので、聞こえているのかどうかも分からない。
また、ご自身がしゃべりたいことを延々と話し続ける方もいますし、それに対して相づちを打ったり返事をしたりすると、突然怒り出すこともあって。そうなると、どうしても普通に会話ができる、話しやすい方のところばかりに行ってしまうんですよね。それじゃダメだと頭では分かりつつも、そこが最初の壁でした。
――現在までに5つほどの施設を経験されているそうですが、どのような理由で職場を変えてきたのでしょうか?
岩佐さん:1つ目の施設は妊娠がきっかけで退職したのですが、その後はデイサービスと訪問介護をダブルワークでやっていました。私は介護の仕事をずっと続けようと決めていたので、色々な施設形態を見て勉強したかったんです。
特養は3、4か月と短い期間だったのですが、30代で体力があるうちに、身体介護をしっかり経験できるところに行きたいと思い、老健に移りました。ただ、老健は利用者さんの出入りが本当に激しくて。リハビリがメインの短期入所の方が多いので、退所したその日のうちに別の方が入所してくるといった具合で、常にバタバタしていました。そこからまた、他の形態も見てみたいと有料老人ホームに移りました。同じ入居型でも、介護保険内でのサービスとそうでない部分の違いなど、学ぶことが多かったです。
一通り経験できたかなと思ったタイミングで、今はデイサービスに戻りました。ハードな現場だと帰宅後に子どもと一緒に寝落ちしてしまうなど、家事もままならず、家族に負担をかけていたんですよね。だから今は、家庭を大事にするために週4~5日のペースで働いています。
理不尽な思いをしても辞めない理由。「推し」のおばあちゃんからもらう愛おしい時間
――介護職をされる中で、一番つらかったことや理不尽だと感じたことはありますか?
岩佐さん:つらいというより理不尽だと思ったのは、床に落ちている薬を見つけただけなのに、なぜか私が事故報告書を書かなきゃいけなかったことです。落としたのも私じゃないのに、「原因なんて知りませんよ。書きようがないです」って言いたくなりました。介護士あるあるですね(笑い)。
――逆に、介護の仕事をしていて一番うれしかったのはどんなときですか?
岩佐さん:けがをして車椅子だった方が、歩行器、杖と段階を経て、自分の足で歩けるようになった姿を見ると本当にうれしいですね。あとは、重度の認知症で普段は会話がままならないような方が、突然会話の糸がつながって、すごくたくさんお話をしてくれたときもうれしい瞬間です。
――体力的な大変さや失敗で、辞めたいと思ったことはないのでしょうか?
岩佐さん:辞めたいと思ったことはないですね。仕事を始めたばかりのころ、私のミスで事故を起こしてしまったときはすごく落ち込みましたけど、辞めようとは思いませんでした。もっと知識と経験を増やして、しっかりやらなくちゃと泣きながら決意しました。芸能界でメンタルを鍛えられたので、ちょっとやそっとのことではへこたれません。
今、主に関わっているのは高齢者の方々ですが、この仕事の魅力は、いろんな顔を見せていただけることです。友達のようにお話ししたり、家族のように関わったり。ときにはワガママを言って子どもっぽくなることもあります。家族には我慢して迷惑をかけないようにしている方も、私たちには甘えてくれる。そういう姿を見られるのがすごくおもしろいし、愛おしいんです。
私には、推しのおばあちゃんがいるんですよ。認知症が進んでいる方なんですけど、手をなでながら「大好きや、よしよし」ってやってくれて。その「大好き」をもらえる人ともらえない人がいるんですけど、私は高確率でもらえるんです。そういう触れ合いがあるから、この仕事は有意義だと思えます。
隙間時間で介護福祉士を一発合格。特別なスキルがなくても誰かの助けになれる
――家事や育児、仕事をこなしながら介護福祉士の資格を取得されましたが、勉強は大変だったのではないでしょうか。
岩佐さん:もともと、この業界に入ったときから介護福祉士は取るつもりでした。どうせやるなら、きちんと資格を持ってやろうと。でも、参考書を開いて机に向かう時間はなかなか取れないので、アプリを使いました。鍋のお湯が沸くまでの間とか、ちょっとした隙間時間を使って、スマホでポチポチと。家族も協力してくれましたし、無事に一発合格したときはホッとしました。一番褒めてくれたのは義母で、「仕事も育児もして、義祖母のことまで看てくれているのに、さらに勉強するなんてすごい」と全肯定してくれました。
――2年ほど前から、介護タレントの西田美歩さんと「介護士★西田岩佐」というユニット活動も始められましたね。
岩佐さん:西田さんから「ひとりじゃ大変だから手伝って」と声をかけられたのがきっかけです。表に出ることに少し抵抗があったのですが、「面倒なことは全部引き受ける」と言ってくれたので。
この活動を通して伝えたいのは、現在介護をしているご家族には「周りをもっと見て、頼れるところには頼ってほしい」ということ。そして、これから介護を控えている方には「少しの知識があるだけで選択肢が広がる」ということです。同時に、人材不足と言われている介護業界に対しては、「介護の仕事っていいよ、もっとみんな来てよ」と伝えたいです。
特別なことができなくてもいいんです。自分にとってはちょっとした行動でも、困っている高齢者の方にとっては天からの助けのように感じてもらえる。いなければ普通の生活すらままならない方々がたくさんいますから。
それに、働き方の自由度が高いのも魅力です。短時間のパートさんも多く、10時から15時までとか、夜勤だけ週3回とか、自分の生活に合わせて働けます。訪問介護なら直行直帰もできますしね。週1回、1日1時間からでも歓迎してくれる業界なんです。人が足りていないからこそ、フレキシブルな働き方が受け入れられやすい。それが介護職のよさだと思います。
◆元俳優、介護福祉士・岩佐真悠子
いわさ・まゆこ/1987年2月24日、東京都生まれ。2003年、16歳で『ミスマガジン』に選出され、タレント・俳優としてドラマや映画、舞台で活躍。2020年に芸能界を引退し、未経験から介護の世界へ転身。2026年、介護福祉士の国家資格を取得。介護タレントの西田美歩とともに「介護士★西田岩佐」として介護の魅力や情報を発信する活動も行っている。
撮影/黒石あみ 取材・文/小山内麗香
