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朝ドラ『あんぱん』脚本家・中園ミホさんが明かす、やなせたかしさんとの“特別な絆” 10歳から始まった文通「人生でつらい時、私は2度も救われました」

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』の脚本を手がけた中園ミホさん(66歳)。『アンパンマン』の生みの親である、やなせたかしさんと妻・のぶさんをモデルにした作品だが、実は中園さん自身も、やなせさんに人生を救われたことがあるという。自著『60歳からの開運』(扶桑社)でも触れられている特別な交流をはじめ、やなせさんとの心温まるエピソードから脚本の執筆に懸ける思いまで、中園さんに話を聞いた。【全3回の第1回】

父を亡くした心の隙間を埋めてくれたやなせさんの手紙

――60歳からの開運』には、やなせたかしさんとの出会いや印象的な言葉が書かれています。中園さんにとって、やなせさんはどんな存在ですか?

中園さん:私は小学4年生、10歳の時に父を病気で亡くしています。落ち込んでいたら、母がやなせさんの『愛する歌』という詩集を買ってくれました。それを読んで、救われる思いがしたんです。その気持ちを伝えたくて、やなせさんに手紙を送ったところ、返事をいただけて文通が始まりました。

 私はふさぎ込んでいるのを友達に気づかれないように無理に明るく振舞っていて、実は一番つらい時期でした。そんな寂しい気持ちを正直に手紙に書いて、父を亡くした心の隙間をやなせさんに埋めていただきました。

――やなせさんから返信が来た時のお気持ちをお聞かせください

中園さん:あの頃のやなせさんはテレビ番組に出演されていて多忙だったにも関わらず、すぐにお返事が届きました。こんな有名人でも返事をくださるんだとびっくりしました。やなせさんの描くイラストのような、温かみのあるアートのような字でした。

 文通は私が10歳から14歳くらいまで続きました。頻繁にやり取りしていた時は週に1回手紙を書いていました。やなせさんはいつもすぐに返事くださって、私の方が筆不精でした(苦笑)。本を出版されると、必ず手紙と一緒に送ってくださいました。

人生でつらい時、2度もやなせさんに救われた

中園さん:当時、やなせさんは作曲家のいずみたくさんと音楽会を開催していました。やなせさん作詞、いずみさん作曲の『手のひらを太陽に』は有名ですよね。母と姉の分までチケットを送ってくださったので、何度か足を運びました。やなせさん作詞の曲をボニージャックスが歌っていたり、やなせさんの絵本『やさしいライオン』の影絵があったりして、とても印象的でした。

 お会いすると、「お腹は空いていませんか?」と声をかけてくださいました。「やなせさんはやさしい人だった」と周りの人たちは口をそろえますし、実際に本当にやさしい方でした。

――なぜ文通は途切れたのでしょうか?

中園さん:心の内を手紙に書きすぎたので、思春期になると急に恥ずかしくなったんです。失礼な話ですけど、私が返事を書かなくなり、疎遠になりました。

 けれども、19歳の時に道で偶然、やなせさんと再会しました。私から声をかけると、子どもの時の印象が強かったようで、「ミホちゃん、ハイヒール履くんだ」とびっくりされたのを覚えています。

 そのころ、母が重い病気を患っていて、それをやなせさんに伝えたところ、その場で母に電話をかけて励ましてくれました。人生でつらい時、私は2度もやなせさんに救われました。そのお礼の手紙を書くべきでしたが、しばらくして母が亡くなり、あまりの喪失感に2、3年の記憶がありません。やなせさんとはそれっきりになってしまいました。

やなせさんを描くということは、戦争を描くこと

――そんな交流のあったやなせさんご夫婦の物語である、連続テレビ小説『あんぱん』の脚本を中園さんが担当されるとは、不思議なご縁を感じます

中園さん:実は、2014年放送の『花子とアン』以来となる朝ドラをお引き受けした理由の1つがそこでした。「やなせさんと妻ののぶさんをモデルに描きたい」という私の思いと、プロデューサーの思いがピタリと重なったんです。

――『あんぱん』は、どんな思いを込めて書かれたのでしょうか?

中園さん:やなせさんは1919年生まれで、日中戦争から太平洋戦争にかけて約5年間の兵役を経験しています。『アンパンマン』誕生の背景には、やなせさんの壮絶な戦争体験と、大切な弟を戦争で亡くした深い悲しみがあります。やなせさんを描くということは、戦争を描くということだと考えました。

 アンパンマンのモデルは弟だとやなせさん自身がおっしゃっていましたから、弟との関係は丁寧に描きたいと思っていました。そしてなにより、妻であるのぶさんですよね。戦地で生き残った多くの人が、生きることにうしろめたさを感じていたように、やなせさんもは戦後、生きる気力が失われていたようです。そんなやなせさんの人生が、のぶさんに出会って好転するんです。激動の時代を生きた夫婦の姿をドラマではしっかり描きたいと思いました。

――もし、やなせさんが『あんぱん』を視聴したら、どんな言葉を中園さんに掛けると思いますか?

中園さん:まず「柳井嵩役の北村匠海くんは、僕よりかっこいいね」って、きっとおっしゃるだろうな。私は、「詩人・やなせたかし」の魅力をぜひ多くの方に知っていただきたくて、ドラマの全編にできるだけ、やなせさんの詩やエッセイの言葉をそのまま使わせていただいたので、そこはほめてくださるかもしれない。もしくは、冗談が好きな方だったので、「半分ぐらい僕のセリフでしょう、僕も原稿料をもらっていいよね」とおっしゃるかもしれません(笑い)。

脚本家・中園ミホ

なかぞの・みほ/1959年東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業後、広告代理店勤務などを経て、1988年に脚本家デビュー。2007年に『ハケンの品格』で放送文化基金賞・橋田賞、2013年には『はつ恋』『Doctor-X 外科医・大門未知子』で向田邦子賞を受賞。そのほかNHK連続テレビ小説『花子とアン』『あんぱん』、大河ドラマ『西郷どん』など数多くの大ヒット作を手掛ける。占い師としても活動し、エッセイの執筆や占いサイトの監修も行う。最新刊『60歳からの開運』(扶桑社)が好評発売中。

取材・文/小山内麗香

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