倉田真由美さん「中村うさぎさんの言葉に感じた希望」くらたまね~&らいふVol.3
漫画家の倉田真由美さんと作家の中村うさぎさんは長い付き合いになる。2年前に旅立った夫の叶井俊太郎さんとの縁をつないだのもうさぎさんだった。お互いの近況報告をする中で「人生の迷い」にうさぎさんがズバッと放った言葉とは――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。新たな描きおろし漫画も収録した最新の書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
中村うさぎさんと会って考えたこと
作家の中村うさぎさんとは、もう25年くらいの友だち付き合いになります。
私より一回りほど年上の彼女は、現在パートナーのコウくんと二人暮らしです。
「これからもずっと家賃を払い続けるの、もったいないですよ。僕が物件探すの手伝いますよ」
という仲のいい不動産好きの医師の勧めで、60代半ばで千葉ののどかな土地に中古の一戸建てを購入したうさぎさん。そしてリフォームが終わったちょうど一年ほど前、都心の賃貸マンションから古いけど意匠を凝らしたその日本家屋に引っ越していきました。
「いやー、ウーバーがないのよ。まいったわ」
基本、自炊をしないうさぎさんは、都心ではしょっちゅうウーバーなど宅配料理を利用していました。でもそれができなくなり、かといって料理はやはり目玉焼きくらいしか作らないので、日々スーパーのお弁当などを食べているそうです。
でも時々都会に出たり海外に行った時は、思い切り贅沢に好きなものを食べていて、「韓国でカニ食べた」とか「大分で人生一番のフグ食べた」という話を聞きます。
「恋愛もファッションも全然興味がなくなっちゃったからね。今は食べることが一番の楽しみ」
うさぎさんは最近よくこう口にします。「ショッピングの女王」と呼ばれ全身ブランドもので身を固めていたり、イケメンのホストにハマってホストクラブに通っていた頃を知っている私からすると、とんでもない変化です。25年という年月の長さを感じます。
「◯◯(全国展開のカジュアルファッション店)って安いねー。びっくりしたよ」
引っ越して初めて行ったらしく、「シャネルの何分の一かな」と驚いていました。私は以前からよく利用しているので、「そうでしょ。サイズ展開も豊富だし、下着も上着も雑貨まで何でも揃うしね」と自分の手柄でもないのに自慢したものです。
そんなうさぎさんと、「久しぶりに贅沢なランチをしよう」ということになり、広尾にあるフレンチレストランにお昼を食べにいきました。
「最近、どう?」
席に着き、まずはそれぞれの近況報告。
「私は何にも変わらないよ」
「私も、特に新しく伝える話はないかな」
昔は互いの色恋事情など報告しあったものですが、もうとっくにそういう時期を過ぎ、最近は共通の知り合いの面白話が多くなりました。
「この、ホタテを縮れキャベツで包んだやつ、おいしいね」
口コミでも高評価のお店だけあって、出てくる料理皆おいしく、「たまには贅沢するものだなあ」と感動しきりでした。
人生の本質的な悩み
「最近、人生を迷っててさ。何を楽しみに生きたものかと…」
私は近年のちょっとした悩みを口にしました。「ちょっとした」とはいえかなり本質的な悩みでもあり、日々の生活に困っているというのとは違う、厄介で解決し難い問題です。
「今更、恋愛にも戻れないしね…」
「うん。くらたまも、もう難しいよ。私は遥か昔に諦めたよ」
断言するうさぎさん。こんなことをはっきり言ってくれるのは、うさぎさんだけです。
「ちょっと前、ミステリ漫画描いてたじゃん。あれよかったよ。ああいうの、もっと描いたら?」
数年前に「凶母(まがはは)」という人生初のミステリ漫画を出し、それをうさぎさんは気に入ってくれていました。私も、自分に合っているとは思っています。
「そうだね。実は、まだ温めている話があるんだ」
ミステリか…創作に注力するというのも、アリかもしれません。
「あんたはもう、叶井さん以上に合う人と出会うことは出来ないんだからさ」
うさぎさんは、私が心の底で思っていることを言いました。「だからまあ、何か新しい夢中になれること、見つけられるといいよね。私は、今は食べることだよ!」
明るく笑ううさぎさん。オブラートに包まない、こういう言葉を聞きたかったんです。
「食べることって奥が深いよね。うん、何か私も探すよ」
おしゃれや恋など、好きだったことを手放してもうさぎさんの今が楽しそうであることに、希望を感じました。何かがなくなっても、新しく何かを手に入れることは出来ます。
デザートの、ものすごくおいしいパリパリのりんごタルトをあっという間に平らげた私たちは、もっと話すために2軒目のカフェに向かいました。
