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暮らし

介護食を安易に流動食に切り替えてはいけない理由「ミキサーにかければラク…」は介護者の都合?【管理栄養士解説】

 介護食の市場は1200億円ともいわれ、高齢化にともない需要が拡大している。一方、自分で作るには、食材を細かく刻んでとろみをつけるなど手間がかかるもの。「ミキサーで攪拌して流動食にすれば手軽」と考えるかもしれないが、その前にまだやれることはあると、管理栄養士の川鍋仁美さんは指摘する。介護食の選び方や工夫、ミキサー食に関する注意ポイントを解説いただいた。

教えてくれた人/管理栄養士・川鍋仁美さん

管理栄養士。2児の母。大学卒業後、総合病院に勤務。介護食・嚥下食などの献立作成や栄養相談など行ってきた経験を活かし、現在はデイサービスで高齢者の栄養サポートなどを行う。介護する人もされる人も笑顔になれる「介護食作り」を目指し、活動中。「管理栄養士が伝授!いちばんやさしい介護食ガイド」の運営・執筆も手がける。https://eiyousupport.com/

ミキサー食にする前に考えてほしいこと

 介護が必要となり噛む力や飲み込む機能が弱ってきた場合、固形食からミキサーなどで食べやすい形状にした流動食(以下、ミキサー食)に切り替えることがあります。

 無理なく安心して食事を楽しむために食事の形状を変えることは、安全のためにも必要なことですが、安易に食事形態を変更してしまうと、まだ残っているかもしれない食べる力が低下してしまったり、誤嚥など安全面にも影響を与えたりする可能性もあります。そこでミキサー食へ移行する適切なタイミングについて一緒に考えてみましょう。

 介護食を作る際、包丁で食材を細かく刻んだり、フードプロセッサーで食材を均一なサイズに細かくしたり、調理には手間がかかります。

 一方、ミキサー食はどうでしょうか。できあがった料理をミキサーに入れてなめらかになるまで攪拌するだけ、あっという間にできてしまいます。

 また、ミキサー食は噛む必要がないので、本人も食べやすく(飲み込みもしやすく)なり、食事介助をする側の時間的な負担も減るかもしれません。しかし手間が減るからといって、果たしてミキサー食に簡単に切り替えてよいものでしょうか。

「噛むこと」は、脳への刺激につながるので、できるだけ続けることが望ましいのですが…。ある認知症専門の介護施設で働く知人からこんな話を聞きました。

介護現場で実践されていたミキサー食の現実

「うちの介護施設では、食事時間は30分~1時間ほど設けられているけれど、利用者さんが噛むのに時間がかかって食事がなかなか進まないときは、介護スタッフが食事をミキサー食にして提供し直すことがあるんですよ。

 これってどうなんだろうと思って…。時間はかかるかもしれないけど、柔らかい食材ならそのまま食べられるのに、まだミキサー食にしなくても…。だけど食事の提供時間もスタッフの数も限られているから、仕方がないのかなぁ」

 こうしたケースは、介護施設だけでなく在宅介護でもあるかもしれません。「忙しいから」「作りやすいから」「食事介助がしやすいから」。そんな理由でミキサー食を提供しているとしたら――。

 食事形態の変更が、誤嚥予防・栄養量確保など高齢者の安全のためであればよいですが、作る側・食べさせる側の作業効率をあげることが優先されている場合は、慎重に考えなければいけません。食事形態を変更するときは、食べる人の状態をしっかりと見極め、必要性を探りながら移行していく必要があります。

ミキサー食に移行するタイミングと見極め方

 ミキサー食にする必要があるときは以下のような場合です。

・噛む力がほとんどなくなってしまった場合
・食事中のむせこみがひどい場合

 食べるのに時間がかかってしまう人の喫食時間(食べ終わるまでの時間)を短くするためであれば、ミキサー食にする前に、まずは普段の食事量を減らし、飲み込みやすい高カロリータイプのゼリーなど栄養補助食品を併用することから始めてみるのがおすすめです。

 また、刻み食など介護食作りが大変な場合は、市販の介護食品を活用してみてはいかがでしょうか。市販品なら嚥下の状態にあわせて形状を選ぶことができます。

 嚥下食にはいくつかの段階があります。市販の介護食には多くの場合「日本介護食品協議会が制定した「UDFIユニバーサルデザインフード(UDF)」の4つの段階(区分)のマークがパッケージに表示されています。この中で「かまなくてよい」がミキサー食にあたりますが、まだ「舌でつぶせる」を食べられるかもしれません。

ユニバーサルデザインフード(UDF)4段階の区分

・容易にかめる…厚焼き卵

・歯ぐきでつぶせる…だし巻き卵

・舌でつぶせる…スクランブルエッグ

・かまなくてよい…やわらかい具なしの茶碗蒸し

完全な流動食ではなく「食感を少し残して」

 介護食を作る際、完全にペースト状にしてしまうのではなく「舌でつぶせる」と「かまなくてよい」の中間くらいにする方法もあります。

 少しだけ食材の形を残した状態にしたり、ざらざら、つぶつぶした食感を残したものを食べて、口腔内で食材の刺激を感じられる食事の形状を残しておけると理想的です。

 よくつぶした果物のピューレやスクランブルエッグでも細かくつぶしてとろみをつけるなど、少しだけ食感が残るようにしてみるといいでしょう。

ミキサー食にする場合の注意ポイント

 噛む力がいらないミキサー食ですが、ミキサーする際に水分を加えることで味がぼやけておいしくなくなってしまう、ボリュームだけ増えて1食分の栄養を摂るのにかなりの量が必要になることも。結果的にあまり食べられなくなって低栄養につながることもあります。ミキサー食を作るときは、水分量は最低限にとどめておく必要があります。

 また、ミキサー食の場合はとろみをつける場合も多くなります。とろみが強すぎるとかえって喉にはりついた感じがして飲み込みいにくくなってしまう高齢者のかたも多いため、注意が必要です。とろみ具合も様子をみながら決めましょう。

 高齢者の食事をミキサー食に移行するべきか、否か。とろみの具合はどれくらいか。我々管理栄養士でも現場ではかなり慎重になるものです。ご本人の食事の様子をよく観察し、食事内容を確認してその都度悩みながら判断しているので、なかなか介護者だけで決めるのは難しいことだと思います。

 不安があるときは、かならずかかりつけの医師や管理栄養士に相談してみましょう。介護者の都合だけでミキサー食の選択をせずに、「噛む」ことを継続できる方法も検討しながら食事の形状を選んでいけるとよいですね。

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