介護の始まりに備える7つのチェックと知っておきたい8つの行動「介護の予兆を早めに捉えることが大切」【介護相談のプロ・川上由里子さん】
親の介護に漠然とした不安を感じているが、何をどう準備しておけばいいのだろうか。これまで1000件以上の介護相談を受けてきたケアコンサルタントの川上由里子さんは、介護の兆候を早めにつかむことが大切だという。介護の始まりに抑えておきたいポイントを聞いた。
教えてくれた人
ケアコンサルタント・川上由里子さん/看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー
静岡県出身。大学病院や高齢者住宅などで長年看護師として勤務した経験や、父親の遠距離介護経験をふまえ、介護相談や仕事と介護の両立に関するコンサルティングなどを行う。民間企業に所属し、社員の介護相談事業を担当するほか、UR都市機構・ウェルフェア統括アドバイザーとして、UR賃貸住宅にお住まいの高齢者やそのご家族を支援する人材の育成なども行っている。著書『介護のゴングが鳴ったら1週間でやる8つのこと』(ART NEXT)、『介護生活これで安心』(小学館)など。
介護の予兆「小さなゴング」を逃さないで
「介護はいきなり始まるケースもありますが、たいていは小さな予兆が起きているはずなので、それを見逃さないことが大切です」
こう話すのは、看護師や介護相談員として働いた経験をいかし、現在はケアコンサルタントとして介護相談やサポートをしている川上由里子さんだ。近著で川上さんは、介護の始まりを告げることを「ゴングが鳴る」と表現している。
「ゴングにも色々あるのですが、例えば大きなゴングは『脳梗塞を患って入院』『大腿骨を骨折して歩けなくなった』など、いきなり介護が始まるパターンです。
一方で、認知症などじわじわと進行する場合は、小さなゴングが鳴っているケースが多い。小さなゴング、つまり介護の予兆に早く気づいて行動することで、その後の介護がしやすくなります。介護の始まりに備え、親の様子や暮らし行動を観察しておくとよいでしょう」(以下、川上さん)
川上さんは現在、企業の社員向けに介護と仕事の両立をするための相談やサポート、セミナー講師などを担当しているが、そこで活用しているのがこれまでの介護相談をふまえて作成した「介護に備える親が元気なうちから把握しておくべきこと」チェックリストだ。
「近年は企業でも介護離職を防ぐため介護相談窓口を設置しているところも増えてきていますので、積極的に活用して欲しいと思います。リストには、突然介護に直面しても困らないために把握しておいたほうがいいことをまとめています。目安として、ご自身が40才、または親が65才、75才になったタイミングでチェックしておくのがおすすめです。
7つのチェック項目について、普段の何気ない会話の中で『最近困っていることはない?』と、心配している気持ちを伝え、コミュニケーションをとっておけるといいですね」
介護に備える親が元気なうちから把握しておくべきこと
【1】健康・医療/健康状態、通院状況、服薬内容を把握している
かかりつけ医、医療機関、現病歴、既往歴を確認し記録。継続治療、緊急対応が適切にできるようにしておく
【2】認知症/物忘れや意欲低下など、認知機能や精神状態に変化はないか
見守り体制を整え、判断能力の低下に備える。必要に応じ成年後見制度や家族信託などの活用も検討する。
【3】暮らし/日常生活の自立度・ 困りごと・楽しみ・大切にしていること・生きがいを把握している
食事・入浴・買い物・金銭管理などで支援が必要になった場合に備え、家族の役割や利用できるサービスを確認しておく。
【4】介護の希望/将来どのような介護を受けたいか、本人の意思を確認している
介護を受ける場所や希望する介護、終末医療や延命治療について、元気なうちに共有する。介護の相談場所についても確認する。
【5】住環境/住まいが現在の身体状況に適しているか、転倒しやすいなど危険ゾーンがあるか、地域の高齢者施設、住宅について把握している
段差や転倒リスクを確認し、手すり設置など安全な住環境整備を整える。高齢者住宅住み替え、施設入居の選択肢も確認。
【6】交流/地域や友人との交流が維持できている
友人や趣味、ボランティアなど、交流の機会を確保し孤立を防ぐ。近隣や地域見守りネットワークも確認する。
【7】お金/家計や資産の状況を把握している
年金・預貯金 保険、重要書類の管理状況を把握し、介護費用に備える。重要書類、データーや貴重品保管場所も共有しておく。
介護が始まったらどう動く?「ルートを知っておこう」
介護のゴングが鳴ったら、まず「介護が進行するルートを知っておくと安心です」と、川上さんは続ける。
「私自身、認知症を患った父親の遠距離介護を6年経験しましたが、『もっと早く行動できていれば』と、今でも後悔していることがあります。
介護には、制度やお金の知識や、情報収集力や判断力、実行するための行動力も必要になります。早い段階で、介護で必要となる行動マップを知っておくことで、不安を減らし、いざというときにも落ち着いて行動できると思います」
介護のゴングが鳴ったら始める8つの行動ルート
【1】地域包括支援センターに相談する
まずはここから!介護の相談窓口「地域包括支援センター」と早めにつながっておくことが肝心。ゴングが鳴る前でも相談できる。
【2】プロジェクトチームをつくる
主介護者(キーパーソン)を決め、親族やきょうだいなど関われる人と役割をまとめる。
【3】親の希望や意思を聴く、家族で話し合う
どんな介護を受けたいか?どんな暮らしを希望するのか、家族はどんなサポートができるのかを話し合う場を作ろう。
【4】介護保険制度を理解し、要介護認定を申請する
要介護認定を受け、ケアマネジャー(ケアマネ)を決定するところから介護生活は本格的にスタートする。
【5】ケアマネとの良好関係づくりを
ケアマネが立てたプランに従って介護サービスを活用するため、連絡は密に取る必要がある。
【6】住まい、住まい方を検討する
在宅、施設、病院、住み替え、呼び寄せなど、本人の状態に適した住まい、住まい方を検討する。ケアマネを通じて福祉用具専門相談員等に相談し、心身の状態や家屋の状況にあった福祉用具などを選定。
【7】お金の話をチームで共有する
いつまで続くかわからない介護には、お金の問題は常に重要でライフプラン全体に大きな影響を与えかねないので、チームでお金の話を共有し、介護の方向性を決める。親の資産状況を早めに知っておきプランしたい。
【8】職場に相談する
早めに職場に相談し、使える制度を確認しておこう。仕事と介護の両立には、育児・介護休業法に基づく介護休業制度を上手に活用することが必須となる。
「介護が始まると、さまざまなことを急ピッチで進めることになりますので、少しでも不安を感じているなら、地域包括センターに相談するところから始めておきましょう。
ご家族や親族、親が住んでいる地域のご近所さん、専門家に相談・連携できる環境を早めに構築しておくことをおすすめします」
介護の相談は「渦中」から「介護が始まる前」へ
介護保険サービスが施行されたのが2000年だが、川上さんはそれ以前から高齢者や家族の相談を受けてきた。介護を取り巻く社会背景も制度も刻々と変わってきているという。
「この20年で介護の相談内容も変化してきました。かつては介護の発生直後や、介護真っ最中で困っていることを相談されるケースが多かったのですが、最近はその手前、『介護が始まりそうなので備えたい』というかたも増えてきています」
川上さんご自身、父親の遠距離介護をする中で「もっと早く行動していれば」と後悔していることがあるそうだ。
「静岡で開業医をしていた父親が認知症を患い、6年間遠距離介護を経験しました。父は地元の開業医として地域住民からの信頼も熱く、社交的で明るい人でしたが、今思い返すと70代後半あたりから、『怒りっぽくなっているな』『物忘れが増えているかも』と、小さな予兆はありました。父が80代にさしかかった頃、帰省時に自宅の住所が書けなくなっていた父の姿を見て唖然としました。
認知症と判明してから、父は次第にふさぎ込んでしまいました。『あんなに快活で明るかった父が…』と東京に帰る新幹線の中では涙がとまらないことも…。父は医者でしたし、私も看護師として人の命に向き合い、認知症ケアの経験もしてきましたが、いくら専門家とはいえ、自分のこととなると冷静になれいこともあるんですね。
誰しもが親の介護には戸惑いや不安を感じるものですが、早い段階から親や家族とよく話し合い、情報共有をしておくことが大切です。それから、がんばりぎないこと。親や家族を引き戻そうとするのではなく、共に外出し四季を感じたり、自然の恵を食したり、歩調を合わせ寄り添うことも、がんばること以上にとても大切なことです」
取材・文・撮影/本上夕貴
