「スポーツクラブを地域の健康拠点に」ルネサンス代表取締役社長・望月美佐緒さん、父から学んだ経営哲学とハンドボールで培った現場を幸せにするリーダーシップ
スポーツクラブを全国展開するルネサンスはフィットネス事業と並行し、介護予防などヘルスケア事業にも力を入れている。新たな挑戦を続ける同社の経営トップは、2024年から代表取締役社長に就任した望月美佐緒さんだ。彼女は現場のインストラクター経験を持つ元アスリート、そのキャリアを支える原動力とは?【前後編の後編】
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ルネサンス 代表取締役社長 望月美佐緒さん
大阪体育大学卒業。学生時代はハンドボール部で活躍。1989年ルネサンスに入社。現場のインストラクター・トレーナーからキャリアをスタートし、商品開発やサービス品質管理を長年担当。2011年より執行役員 ソフト開発部長として『シナプソロジー』の開発・普及を主導。常務執行役員、取締役副社長を経て、2024年に代表取締役社長執行役員に就任。企業や大学での講演活動や、現場の声を聴くため、全国を飛び回る行動派リーダー。
103才のお客様が「今日はお風呂だけよ」
「私がインストラクターをしていたときから通ってくださっている103才のお客様とは、今でも顔を合わせるとお喋りするんですよ」
ルネサンスの代表取締役・望月美佐緒さんは、現場のインストラクターからトップに上り詰めた人物だ。
「そのかたは、40年前に私のプログラムに出てくさっていたお客様。103才になった今もひとり暮らしを続けられていて、週3回はグループレッスンに出て運動を楽しまれています。『毎日頑張ってすごいですね』とお声がけしたら、『今日はお風呂だけ入りに来たのよ、お風呂掃除って本当に大変なんだから』とおっしゃるんですね。
ひとり暮らしの高齢者にとって、お風呂掃除はリスクが高いと思います。床が濡れていて滑るし、浴槽をまたぐ動作も転倒のリスクを伴います。だからこそ『お風呂掃除をしないでいいように、ルネサンスに来る』というのは、言ってみれば転倒予防につながるんじゃないかと。
フロントで支配人と笑顔で挨拶を交わし、お風呂場で顔なじみの仲間とたわいもないお喋りをする。そこには温かいコミュニティがあって、身体も脳も刺激される。ただ『運動プログラム』を売るのではなく、人と人が繋がり、最後までその人らしく生きていける居場所を作っているんだと、そのお客様から改めて教えられました」
アスリートでありながら勝つことには興味がない
「スポーツクラブは元気で健康な人だけが来る場所ではなく、誰もが笑い会える温かい空間にしたい」と穏やかに語る望月さん。
ルネサンスではフィットネス事業と並行し、近年は介護予防などヘルスケア事業の拡大にも力を注いでいる。経営トップとして新たな事業を推進する手腕を発揮する一方で、「元アスリートでありながら、競争心は低め」と自己分析する。
父親はハンドボールのオリンピック選手を育成した指導者・教育者。母親もまた学生・社会人時代にハンドボールで数度の全国優勝の経験を持つ。望月さん自身も、大学のハンドボール部でインカレ準優勝を達成した一線級のアスリートだった。
「ある有名な自己分析ツールの診断結果では、34の強みの中で、最下位が『競争性』でした。確かに考えてみれば、人に勝つことには興味がないんですよ。学生時代から、過去の自分よりは成長できるようにと頑張るタイプではあったけれど、本質的には誰かを蹴落として勝ちたいという気持ちはなかったんですね。
振り返ってみるとハンドボールという競技を通じて私が一番学んだのは、『ひとりでは絶対に勝てない』ということなんです。どんなにひとりの優秀なスター選手がいても、チームが連動し、お互いの力を融合させなければビジネスもスポーツも絶対に勝てない。それが、私のリーダーシップの原点になっています」
亡き父から教わった「4年間の学び」
若き日の望月さんが、大学進学時にハンドボールを続けるか迷っていたとき、父親から授けられた言葉が、現在の彼女の「組織マネジメント」の礎になっている。
「高校時代があまりに過酷だったので、あと4年も続けられるか不安で、最初は短大に進学しようかと父に相談したんです。すると父は『オリンピック選手になる実力がない人間は、ハンドボールをしに行っちゃだめだ。ハンドボールを通して人生を学ぶために、4年生の大学に行きなさい』と。なぜかというと、4年間は人生の縮図だと言うんですね。
1年生は、とにかく言われたことを素直にやり、基本をこなすことを学ぶ。これは、社会人の20代と一緒。
2年生は、自分自身を鍛錬しながら、後輩の面倒を見る。これは、自分の仕事もやりながら、部下の面倒も見る30代に通じます。
そして3年生は、それまで本気でやってきた実力をもとに、責任を持って最高の成果を出す。社会人として40代にあたりますよね。
そして4年生は、自分のことよりもチーム全体が、そして次の世代がどう良くなるかを考えて行動する。50代以降のキャリアに必要なことです。
この4年間を経験できるからこそ、大学スポーツは人生を学ぶ最高の場であると。父から言われたことは、社会人になってからも本当にその通りだと思っています。『努力は必ず報われるわけではない。しかし努力をしていない人には勝利はない』。父から学んだことはビジネスの現場でも生きていると思います」
「できない」と素直に言えることが大切
社内で代表取締役社長の打診を受けたとき、望月さんは思い悩んだという。ルネサンスを起業し、当時も代表取締役会長として経営の最善指揮にあたっていた斎藤敏一さん(現・特別顧問)は、企業内ベンチャーから会社を上場まで導き、コロナ禍の危機を圧倒的な力で突破してきたカリスマ経営者だ。
「誰がやっても、斎藤と同じことはできない。もちろん私にもできない。じゃあ私にできることは何かと考えたとき、私は『これが苦手だ、できない、困っている』と、周囲に素直に口に出せることだと思ったんです。
社長ひとりが全能である必要はなくて、みんなの意見を議論し合い、各取締役が能動的に動ける『チーム経営の仕組み』を整えることこそが、現場出身の私の役割なんだと。そう思えたから、社長をお引き受けしました。
実際、社長を就任してから、私が『これ、どうしたらいい?』と言うと、周囲の優秀な取締役やスタッフたちが『しょうがないな、これは俺がやるしかないな』って、ものすごいスピードで自分の持ち場を強化して動いてくれています」
現場の声を大切にし、共にウェルビーイングを創る
望月さんが経営において大切にしているのは、「本社と現場の距離感」だという。
「現場のインストラクターやスタッフは、お客様との最前線に立っている一番大事なポジションです。ですから、現場出身の私自身、全国のクラブを回ってよく話を聴くようにしています。
『これどう思いますか?』とスタッフから話しかけられることもありますし、『社長、聞いてくださいよ~』って、愚痴を言われたりすることもあります。そうした声が届くのはある意味健全な組織だと思うんです。
本部長たちにも『能動的に現場の声を聞きに行きなさい』とよく言っています。現場のスタッフたちの本音、お客様の生々しい困りごとにこそ、私たちが成長・進化するための宝が眠っているからです」
ルネサンスが掲げる長期ビジョンは、「人生100年時代のWell-being共創カンパニー」。
「私たちが運営する介護予防教室では、参加者ができない動きをしてケラケラ笑い合っている。あの空間にこそ、本当の温かさと幸せ、ウェルビーイングがあると思います。
今、スポーツクラブに来られる健康で元気な人たちは、そもそも運動が好きですし、もっとうまくなりたいと思っているかたも多いですよね。だけど最初にお話した103才のお客様のように、お風呂掃除をしたくないから、誰かと話したいとか、お風呂に入りに来るだけでもいいと思うんです。そこに来ることが楽しいと思ってもらいたい。
スポーツクラブは誰もが集える健康拠点として、もっと地域に開かれていて、いろんな方々に活用していただける場所にしていきたいと思っています」
取材/斉藤俊明 構成/介護ポストセブン編集部 撮影/柴田和衣子
