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暮らし

親を介護施設に入れるのはかわいそう?入居者の「幸福度」を高めるのに必要な3つの原則【社会福祉士解説】

 親を「施設に入れるなんてかわいそう」という声も聞かれるが、実際に施設で暮らす本人はどんな想いなのか。幸福度や満足度は低いのだろうか。介護施設を訪れ現場の声を聞く機会も多く、親の介護経験もある社会福祉士の渋澤和世さんが、実例をもとに施設入居者の「幸福度」に大切なことを考察する。

この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん

在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。

施設で暮らす入居者の「幸福度」とは?

 介護施設で暮らしている入居者の「幸福度」は低いのではないかと感じることがあります。入居者の中には、「ここには自由がない」と言いうかたもいらっしゃいます。

 ほとんどの施設は食事のメニューや就寝・起床時間が決まっていますし、外に出るにも届け出が必要など、施設が決めたルールに従った生活をしなければなりません。

 また、介護職員数も限られた中で多くの利用者の介助をするため、ケガや事故を起こさないことが優先されます。利用者に自由に行動されてしまうと、そのリスクが高まるので集団行動を求めてしまうのは仕方のないことかもしれません。

 そんな中でも、「満足しているわよ、職員さんが良くしてくれるから安心して暮らせているわ」と、施設に入居してよかったと言うかたもいらっしゃいます。不満を抱えている入居者との違いはどこにあるのでしょうか。筆者が訪問した施設の中で、幸福度が高いと感じた入居者さんのエピソードを紹介します。

有料老人ホームで暮らす80代女性「家族が熱心に面会に訪れる」

 都内の有料老人ホームで入居者の様子を見学する機会があり、山田明子さん(仮名・80代、要介護3)の部屋を訪問しました。

「こんにちは、失礼します」と声をかけてから個室に入ると、動かしていた鉛筆の手を止めて「いらっしゃい」とニコニコと笑って迎えてくれます。明るい黄色のカーディガンと同じカラーの髪留めで前髪をおさえています。

 手元を見ると、そこには塗り絵帳が広がっていました。重ね塗りもうまく使って色に深みが出てクオリティが高いその作品に驚きました。

「塗り絵はね、ここに来てから覚えたの」

 壁には10枚以上の作品がきれいに貼られていて、その空間だけは花畑のような鮮やかさが広がっています。

「娘がね、塗り絵帳を選んで買ってきてくれるの。もう楽しくて、楽しくて」と笑います。

 部屋にはベッドとコート掛けがあり、タンスの上にはたくさんの家族写真や生花が飾られ、整理整頓された部屋は居心地のよい空間でした。明子さんの部屋には他の利用者からの絵手紙も飾られていて施設内の関係も良さそうで、彼女はどうやらムードメーカーのようです。

 職員さんが、「山田さんはね、ご家族が熱心なんです。面会は2日に1回は必ずいらっしゃるし、土日のどちらかはご家族と一緒に外出も楽しまれています。外出した日は、買い物をしたり好きなものを食べたりして、ご機嫌で帰ってこられます」と、教えてくれました。

 施設に入居すると面会の頻度は、ご家族の意思に委ねられています。面会の継続は、距離がネックになることが多いものです。山田さんのご家族は、最初から定期的な面会や外出に連れ出すことを想定して、通いやすい場所の施設を選択したのでしょう。施設での暮らしではご家族と会えることが幸福度を高める一つの要因だと感じました。

 施設によっては面会や外出に制限があるケースもあるため、民間の有料老人ホームはその点、自由度が高いといえそうです。

 また、施設に入居は、自分の意思ではなく家族の都合が優先されることも多いのが現状です。本人よりもケアができなくなった家族のための場所という意味合いが強いかもしれません。

 家族の中には、「施設に入居させるなんてかわいそう」「申し訳ない」と、後ろめたい気持ちを抱く人も少なくありません。しかし、山田さんの場合、日中も夜間も見守りのある施設の体制に心強さを感じ、衣食住も整った環境に安心感を持っているようでした。

 家族は介護のために自分たちの生活リズムを変えることなく、できる範囲で面会に来られている。それが後ろめたさからの罪滅ぼしであったとしても、お互いが納得してバランスがとれているのであれば、結果的に良かったといえるでしょう。

グループホームで暮らす認知症の男性「趣味を継続」

 あるグループホームに訪問すると、かわいい手編みの雑貨がたくさん並んでいる部屋がありました。まるで雑貨屋さんのようなその部屋では、入居者の男性、田中一郎さん(仮名・70代)が編み物をしていました。

 認知症と診断されている田中さんとは、少し話がかみ合いにくいところはありつつも、「編み物なんてお恥ずかしい…」と本で顔を隠され、照れています。編み物の本を何冊かお持ちで、本の中から「『今度はこれを編みんでみたい』とリクエストすると、息子が材料の毛糸を買ってきてくれるんですよ」と、嬉しそうに言います。

 編みたいものを自ら選ぶことで創作意欲もさらに上がるようです。編んだ作品は部屋に飾るほか、スタッフやほかの入居者にプレゼントし、喜んでもらったこともあるそうです。

「幸福度」のポイントは自己選択と自己決定

 幸福度が世界トップクラスのデンマークでは、高齢者福祉の「三原則」として「自己決定」「生活の継続性」「自己能力の活用」が定められています。施設を訪問する中で、この三原則について深く考えさせられました。

 前述の山田さんは、ご本人は暮らしの拠点が自宅から「施設」に変わりましたが、自宅に近い快適な環境の中で、家族との関係性も変わらず、継続されています。また、田中さんは自分で作ってみたい編み物を選び、その能力を発揮されています。お二人ともとても幸せそうに見えました。

 私たちは、これまでの人生の中で、毎日の洋服や食べ物、住居や学校、職場など、自分で選択して生きてきました。しかし、施設の暮らしにおいては、本人の選択の機会を奪われてしまうこともあり、ただ生かされているだけと感じ、気力が落ちてしまうかたもいるかもしれません。

 生きていく中で「自己選択」と「自己決定」の機会は、幸福度に影響を与える大切なものだと思います。もちろん、それは施設での暮らしにも同じことがいえるのではないでしょうか。

***

 高齢になり介護が必要になると、様々な物事を家族や周囲の人間が決めてしまうことが多くあります。しかし、いかに心身が弱り厳しい状態になったとしても、生き方や暮らし方については、あくまでも自分で決定すべきである。高齢者の自己決定を尊重し、周りはそれを支えていく。デンマークの三原則には、そんな想いが込められています。

 日本においても、施設に入居してからも自分で選択して選ぶという機会を持つことで、幸福度は上がるのではないでしょうか。

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