倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.104「ゆる〜い夢の叶え方」
漫画家の倉田真由美さんは今、54才。2年前に夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さん(享年56)を在宅で看取った。愛する夫を失ってからの人生「どう充実させて生きていくか」と、模索する日々が続いている。そんな中、身近な友人が夢を叶えるために動き出し――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。新たな描きおろし漫画も収録した最新の書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
同い年の友だちのこと
昨年、広島県の離島に移住した私と同い年の友だちミカンは、「今、毎日が充実しとる!」と言います。
専業主婦で子どもがいないミカンは、東京にいる時は毎日のように近所の飲み屋で飲んだくれていました。女一人で飲みに行くってなかなかハードルが高いと思うんですが、彼女はものともせず、地元のあらゆる飲み屋に顔見知りがいるというくらい、日々飲み歩いていました。
でも、私は知っています。ミカンは、やり場のないエネルギーを持て余していたことを。
「飲み歩くのは楽しいけど、なーんも残らん。いや、翌日の後悔だけは残るか」
と、飲み過ぎるたびに嘆息していました。私はそれを聞くと毎回、「まあ、楽しかったならいいやん」と苦笑いで答えていました。ほどほどに、というのが彼女の場合難しいのは知っています。興が乗ってしまうと、とことんまで飲んで途中で止めることができなくなるのを何度か見てきました。私と出会ってからのたった4年間で、ミカンは2回も酔って転んで顔に大怪我をしています。
「飲み歩きたいわけじゃなくて、他にやることがないから飲み歩いてるんよ」
ミカンは私と出会う前ずっとから、やりたいこと、やりがいを感じられることを探していました。
そして彼女は一昨年にとうとう、「このままじゃ人生を無駄遣いして終わってしまう」と一念発起し、元々興味のあった移住体験ができるツアーに申し込みました。そして実際に行ってみたかった「離島」に渡り、移住した人たちの声を聞いて実現を決意、機会を伺っていました。
機会というのは、「いかにお金をかけずに生活する環境が整えられるか」ということです。
移住したいのはミカンだけで、彼女のダンナさんは賛同していません。「移住先でこの仕事をしたい」という思いがないミカンには、ただ「島に住みたい」という気持ちがあるだけ。贅沢にお金をかけて住まいを移すだけ、というのはダンナさんの合意も得られず、本人もそれはしたくなかったのです。
だから、伝手を辿って辿ってやっと「無料で借りられる家」を見つけた時、そしてその家がとても気に入った時、そこでならやりたいことをやれそうだと思った時、ミカンは躊躇なくあっという間に住まいを移しました。
それが昨年の11月です。そして着々と現地での生活に馴染み、地元の人たちとの交流を深め、さらに「生きがいのある日々」を手に入れることに成功しました。
彼女なりの「夢の追い方」
ミカンには、大好きなお酒を出すお店を開けたらいいな、という気持ちがうっすらとありました。
東京で日々飲み歩いている頃からです。私もそれは知っていましたが、開店資金の問題などハードルが高く、また、生活のために働く必要がないために崖っぷちに立って背水の陣で頑張るということもできず、ぼんやりとした夢で終わっていました。
でも、島で、自宅の一部でなら、やれるかもしれない。
儲けなくてもいい、少しでも生活費の足しになれば。近所の人たちの、ちょっとした憩いの場になれば。
ミカンは、自宅の一部を使った「ちょい飲みの場」を作ろうと、準備を始めています。ゆっくりしたペースで、無理をせず、開店日も決めないまま。設備投資など大きなリスクも抱えない、こういう夢の追い方は、本気で生活を賭けて店を出したいと思っている人には「ぬるい」「甘い」と思われるかもしれません。
実際、「無茶をせず、やれる範囲でだけやりたいことをやる」という生き方には、あんまりスポットを当てられることがありません。夢を叶えるエピソードには、弛まぬ努力や苦労、そして大きな賭けであることが必要条件のように語られがちです。
でも、「ゆる〜い夢の叶え方」があってもいいはずです。
ミカンを見ていると、そういうことに気づかされます。ひと足先にやりがいを見つけた友だちの、夢の行く末を見届けていくつもりです。
