プロが教える在宅介護のヒント 在宅医・鈴木央さん<第1回>
自宅や施設で診てもらう「在宅医療」って?
超高齢化社会となって、高齢者を対象とした医療は変わりつつあるという。厚生労働省は「できる限り住み慣れた地域で必要な医療・介護サービスを受けつつ、安心して自分の生活を送れる社会を目指す」として、在宅医療の制度を整えてきている。
在宅介護のヒントを教えてもらうこのシリーズ、今回登場する専門家は在宅医。
365日・24時間対応で在宅での療養を支えている診療所、鈴木内科医院の鈴木央(ひろし)院長に「在宅医療」について、現場での経験や実例などを交えて、「在宅医療」の現状と受ける側の心がまえを聞いた。
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「住み慣れた環境で療養したい」希望を叶える在宅医療
慢性的な病気や症状、足腰の痛みなどがあって医療を必要としている人が病院に通えなくなったとき、希望の場所で医療を受けることができるのが「在宅医療」のしくみです(※1)。”在宅”というので、誤解してしまう人が多いのですが、診療する場所は自宅には限りません。患者さんが入所している施設なども含めた居住している場所に医者や看護師などが出向いて医療を提供します。
高齢者の場合、「住み慣れた場所に居たい」「入院したくない」という人が多くいらっしゃいます。
入院生活は不自由ですし、自分のペースで生活できないので、入院をきっかけにベッドで過ごすことが多くなり、総合的に体力や気力が衰え、退院しても入院前と同じ日常生活を営むことができなくなってしまうのではないかと心配する患者さん、ご家族が多いですが、実際に、入退院をきっかけに生活する力が弱ってしまうことは少なくありません。
また、慢性的な症状の原因が老化や、持病の進行などによる機能低下ですと、適している医療は「病気を治すための手術など、積極的な治療」というより、「つらい症状の緩和など、生活を支えるケア」であることも多く、そのような場合、療養の場は病院より、実際の生活の場である方がよいということもあります。
一方、「高齢者の健康に関する意識調査」(2012年、内閣府)などの結果では、半数以上の人が「自宅で最期まで過ごしたい」「自宅で看取られたい」と希望していることが分かっているのに、現実は8割を超える人が病院で亡くなっていることも、行政や医療、介護などにかかわる人の間で長く問題視されてきました。
このような現状をふまえ、国は、高齢者の在宅医療の充実に力を入れていて、住まいのある地域で医療と介護が連携してサービスを提供し、在宅での療養と看取りを支える体制「地域包括ケアシステム」を整えるよう各地域の自治体等に促しています。
こうしたことの背景には、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年を目前に、その少子高齢社会で起こると予測されている問題に配慮しているところもあります。
2025〜2050年は病気や障害を抱える人、亡くなる人が急激に増え、病院のベッドや施設、医療・介護を担う人材の不足が推計されています。人口減少は既に始まっているので、単純に数を増やすわけにもいきません。そのような時代に、あらゆる世代の人に適切、公平に医療や介護予防、介護が提供される体制を備えることが急がれているのです。
地域の自治体と医療、介護関係者、そして市民が共に、地域包括ケアを目指し、以下の体制を整えているところです。
・住み慣れた環境で療養生活や看取りを希望する人の願いを叶える。
・在宅でのケアは医療と介護の専門職を含む地域全体が協力して支える療養中も、積極的な治療が必要なときには病院で集中的に治療する。
・なるべく入院期間は短く、病院と地域医療・介護は連携して退院を支援し、入院前と比べて生活の質が低下しないように配慮する。
こういった体制づくりは、 “地域づくり”などと呼ばれています。お住いの地域の“地域づくり”の状況は、自治体が発行する広報紙やウェブサイトで知ることができます。