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22年間映画監督を続ける飯塚健さんが説く“自分の元気をはかるモノサシ”「今日、自分は夕日の美しさに気づけたか」

 ふと空を見上げて、夕日の美しさに気づいたことはあるだろうか。

 映画監督として22年間、編集作業に没頭し、朝から真夜中まで編集室にこもることもあった飯塚健さんは、夕日に感動できるかどうかが、いい人生を送れているかのバロメーターになると説く。

 何が起きてもうまく乗り越えられる人の考え方とは? 飯塚さんが仕事にも人生にも効く41のヒントをまとめた『晴れのシーンを撮る日に、雨が降ったら?』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成してお届けする。

 * * * 

「希望のバロメーター」を持つ

 映画づくりにはいくつかの山がある。

 最初の山は、「企画」の段階。だれに向けて、どんな目的の映画をつくるのか。ここがブレると、全体がガタガタになるから、一番気合を入れる。

 次に、「お金」や「キャスト」の問題。出資者を集め委員会を組成したり、協賛をとりつけたりするために動き回るのは、主にプロデューサーが担ってくれるが、ときに監督が走り回ることもある。

 キャスティングも大切だ。「映画の9割はキャスティングで決まる」という格言もあるくらいで、映画の質や印象はもちろん、興行収入にも大きく影響する。

 場合によっては、オーディションもする。数百人に実際に会い、その中から「たった一人」を見つけ出す作業は途方もない。エントリー者の一覧を作るだけでも労力がかかるし、神経も使う。人に会い続けると、消耗も激しい。

 そして、「撮影」。つまり現場。ここが、映画づくりの要である。

 ここでの失敗は絶対に許されない。監督だけでなく、各部署の全スタッフ、全俳優部にとって“主戦場”である。だから当然、「映画の9割は現場だ」という格言もある。

 そうして現場のあと、最後にくる山が「編集」だ。

 チーム一丸となって撮り集めた膨大な撮影素材データを確認し、ワンカット、ワンカット、ああでもないこうでもないと、毎日編集室へ通って、ひたすら繫いでいく作業。大変だし、「映画の9割は編集だ」という格言も当然ある。

 実際、編集は映画づくりの「最後の砦」だ。

 この時点で決まった、およそ1000から多い場合は2000にもおよぶ、映画を構成するすべてのカットは、もう直せない。

 その後に控えている作業、画の色味調整や効果音といった「仕上げ」をするチームの、設計図となる。

 それほど重要な工程だから、昔、まだまだ編集の技量が足りなかった頃は、朝、編集室に入り、気付けば真夜中ということもザラだった。泊まり込んで繫いだ作品もある。

 映画づくりを始めて20年以上が経った今は、「山のとらえ方」が変わってきた。

 起きて、朝の空気を吸う。日が暮れたら、仕事は終わり。家族との夕食で、その日のことを聞いて話して、寝る。

 それが、人の健全な生き方だと思うようになった。

 最近では、たとえば執筆期間だったら、朝起きたら犬の散歩をし、7時まで書く。朝食後、また12時半まで書く。昼休憩後、16時まで書く。

 あとはもう絶対書かないと明確に時間を決めて、取り組むことにしている。

 いつからか、私の中に「夕方がわかった日は、いい一日」という思いが定着した。

 その日の仕事をこなし、再び犬の散歩をしている頃に、落ちる夕日を見て、「ああ、夕方だ」と、1日が終わることにきちんと気がつけると、正しくほっとする。

 当然だが、夕日はまわって、朝日になる。夕方に気がつくのは、明日があることに気づくことだ。

 でも夕方に気づけないまま、日が暮れ、「あれ? もう夜? いつの間に?」となってしまうと、あまりいい一日が送れていない気がする。

 どっと疲れが出て、「俺の人生、これでいいのかよ」なんて思ってしまう。

 同じようなことが、ヴィクトール・フランクルの本『夜と霧』にもあった。

 フランクルはユダヤ人の精神科医だったが、第二次世界大戦中、ナチスにより、アウシュビッツの強制収容所に入れられた。苛酷な収容所生活で多くのユダヤ人たちが命を落としていったが、彼は生き残った。

 その経験をしたためたのが『夜と霧』である。

 生き残った人に共通するものがあった、と彼は言う。それが「明日への希望」だった。

 ある日、つらい労働から疲れ果てて帰ると、空がまっ赤な夕日に染まっていた。「きれいな夕日ですよ」とある人が声をあげ、何人かの収容者は、美しい夕日を見るために外に出た。

 夕日を見て感動する心が残っていた収容者は生き残ったというのだ。

 どんなに心身が追い詰められていても、夕日を見て美しいと思う心があれば、前を向く力がある証拠だ。

 不朽の名作『ショーシャンクの空に』のセリフにもある。

「希望はいいものだ。たぶん、最高のものだ。そして、すばらしいものは決して滅びない」

 今日、自分は夕日の美しさに気づけたか。

 それが、自分の元気をはかるモノサシになる。

教えてくれた人

飯塚健さん

1979年、群馬県生まれ。映画監督、脚本家。2003年、『Summer Nude』で劇場デビュー。撮影時22歳、公開時24歳という若さが反響を呼ぶ。以降、『荒川アンダー ザ ブリッジ』(原作:中村光)、『虹色デイズ』(原作:水野美波)、『野球部に花束を』(原作:クロマツテツロウ)といった漫画の映像化から、『笑う招き猫』(原作:山本幸久)、『噂の女』(原作:奥田英朗)、『ステップ』(原作:重松清)、『ある閉ざされた雪の山荘で』(原作:東野圭吾)といった小説の映像化に加え、『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』『宇宙人のあいつ』『FUNNY BUNNY』『REPLAY & DESTROY』『榎田貿易堂』といったオリジナル作品まで、多岐に渡るジャンルの作品を手がける。ASIAN KUNG-FU GENERATION、OKAMOTO’S、秦基博などMV監督作も多数。東京・丸の内コットンクラブを会場とするライヴショウ「コントと音楽」プロジェクトはライフワークとなっている。著書に『ピンポンダッシュ 飯塚健冒険記』(サンクチュアリ出版)、『さよならズック』(復刊ドットコム)、『FUNNY BUNNY』(朝日新聞出版)など。

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