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IoTの先駆け象印マホービン『みまもりほっとライン』電気ポットでさりげなく親を見守るサービス誕生のきっかけとなった事件と大英断【想いよ届け!~挑戦者たちの声~Vol.5前編】

 電気ポットを介して親の安否確認ができる象印マホービンの『みまもりほっとライン』。まだIoTが普及していない2001年から見守り家電市場を切り開いてきたが、そこにはいくつもの壁があった。「見守り家電」の先駆者にその誕生秘話を訊いた。

挑戦者たち/プロフィール

象印マホービン CS推進本部 シニアアドバイザー 樋川潤さん

1985年象印マホービン入社。10年以上にわたり家電量販店などでの提案営業やその活動を全国の営業担当に広げる業務などに従事。マーケティングや広告宣伝、中国での旗艦店の起ち上げにも関わる。100周年事業の式典企画や社史編纂を経て、2019年にCS推進本部に着任。『みまもりほっとライン』の営業・宣伝活動に従事。趣味はランニング。

ただのポット、されど「技術の結晶」

「見た目はただのポット。ごく普通の電気ポットですけどね、そこに色んな技術や想いが詰まっているんです」

 象印マホービン(以下、象印)のCS推進本部で『みまもりほっとライン』のシニアアドバイザーを務める樋川潤さんは、明るい口調でテンポよく語り始めた。

 樋川さんの言うように“ただのポット”ではあるのだが、「今でいうサブスクの先駆け、IoT家電の先駆けでもあるんですよ」と樋川さんは続ける。

 今から遡ること約25年前、2001年3月、一見ポットに見える「i-POT」が完成、『みまもりほっとライン』として、利用料金月額払い、いわゆるサブスクリプションモデル(サブスク)を採用し、ポットに通信機能を搭載したIoT家電として世間を驚かせた。この電気ポットを使うと、離れて暮らす家族にメールでお知らせが届く仕組み。家電と情報通信が融合したサービスとして、先駆的な取り組みだった。

「見守り家電というと、カメラやセンサーが付いた機械に監視されているようなイメージを抱くかたもいらっしゃるようで、親御さんが抵抗を感じたり、自分にはまだ必要ないと思っていたりするケースもあります。

 しかしこちらは言ってみればただのポット。日常生活で自然と使うものですから、さりげなく見守りができます。

 離れて暮らす高齢の親が倒れていないか、無事に生活しているか、電話で確認している人は多いと思うんですが、頻繁に電話をするのはお互い負担を感じることもありますよね。私自身、かつて一人暮らしをしていた亡き父によく電話をかけていましたが、繋がらないと不安が募り、その後父が電話に出たら出たでホッとするのは束の間、出ないことに怒っていたりもしていましたね。

 その点、『みまもりほっとライン』なら毎日電話をすることもなく、親が今日も無事に生活をしているな、と安心できますし、お互い無理することもありません。

 お子さん側は『お母さんがポットを使っただけで、私たちも安心できるから』といった形で、親御さんにもおすすめしやすいと思います。いわゆる見守り家電の中でも、導入のハードルが低い。Wi-Fiやインターネット環境も必要なく届いたその日から使えるんです」

 そんな「さりげなく寄り添う見守り」を可能にしたこのサービスが生まれた経緯を振り返る。

開発のきっかけは1人の医師の言葉

 このサービス誕生の背景には、一見して心温まるその名前からは想像できない壮絶な出来事があった。

「1996年、東京・池袋で病気の息子さんと、看病をしていた高齢の母親が自宅で亡くなり、1か月経ってから見つかったというニュースが報じられました。

 その話を知ったある医師から、『日用品を使って高齢者を見守る仕組みができないか』という相談が当社に寄せられたんです。

 この医師の思いを受けた当時の研究員たちは、すぐさま開発に着手。事件の翌年には、炊飯ジャーや電気ポットを操作すると信号が発信される安否確認システムの試作機を完成させた。これがスタート地点となりました」

 試作したシステムを実証していく中で、日用品なら高齢者も“監視されている”という意識や抵抗感を持つことがなく、かつプライバシーも守られると利用者への評判も好調だった。

「最初は、当社の主力商品でもある炊飯器の活用も検討していたのですが、ご飯は毎日炊かない人もいますし、その使用頻度から安否確認には向いていないのではないか。一方、電気ポットなら、たいてい毎日、1日に数回は使うので生活のリズムを把握しやすいだろうと。電気ポットに一本化して、開発が続けられました」

 およそ2年かけて開発が進み、1998年12月にモニター販売をスタート。画期的な安否確認システムとして当時大きな話題を呼んだ。

通信速度やネット環境の壁

「社内でも評価が高く、開発陣もやる気満々でした。ところが、思わぬ壁にぶち当たりました。ネックとなったのは、通信の問題でした」

 当時、安否確認に採用していたのは、ポットとパソコンを電話回線でつなぐというもの。1998年といえば、インターネットも携帯電話での通信もまだまだ浸透していない時代。設置工事やメンテナンスが大掛かりとなるため、利用者側の初期投資や手間といった負担が大きかった。

「通信の問題で一度開発が中止になったのですが、技術の進化が追いついてきました。NTTドコモ関西の携帯電話サービス『mova』がインターネット接続やメール送受信ができる携帯電話(iモード)として登場したんです。

 我が社のポットにこの技術を搭載するにあたり、NTTドコモ関西が応じてくださった。そしてシステム開発には富士通が名乗りを挙げてくださったんです」

 象印マホービンの新たな挑戦は、NTTドコモ関西、富士通、3社による共同の取り組みとして大きく動き出した。

再び試練が立ちはだかる

 ポット及びサービスの共同開発自体はスムーズに進展したが、ここにきて社内の反発が立ちはだかる。

「家電メーカーである象印がITの領域に手を広げるのは、ビジネスとしてリスクが大きいのではないか」という反対意見が社内で頻発。もちろん高齢者向けサービスには社会的責任も大きく、一度始めたらそう簡単には撤退できない。決して簡単なビジネスでないことは確かに明らかだった。

「当時、社内に暗雲が立ち込めていたのですが、状況を変えたのは今の社長(代表取締役・社長執行役員・市川典男さん)です。ものづくりのメーカーがリスクを取らずに面白いものは生み出せないという想いがあったんだと思います。

 市川自身、当時まだ珍しかった電子手帳を活用するなどデジタル機器やITに深い関心を持っていました。『このサービスには社会的な意義がある。将来的に必ず求められる事業だ』と事業化を強く後押ししたんです」

 様々な障壁を乗り越え、2000年に3社共同で記者会見を実施。メディアでも大々的に報じられた。こうして2001年3月、1人の町の医師の思いがきっかけで結実した『みまもりほっとライン』のサービスが事業として本格スタートした。

 ポットに電源を入れるだけ、給湯すると家族にメールが通知される見守りポット――。画期的な安否確認サービスは話題を呼び、毎年右肩上がりの売り上げを記録した。しかし、2009年をピークに新規契約者数が鈍化。新たな壁にぶつかることになる(次回につづく)。

■みまもりほっとライン 0120-950-555
https://www.zojirushi.co.jp/syohin/pot_kettle/mimamori/index.html

取材・文/斉藤俊明 撮影/横田紋子、黒石あみ

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