こむら返りが起こる原因は「筋肉センサーの誤作動」? 原因と予防法を整形外科医が解説
寝ているときや歩いているときなど、ふとした瞬間に突然起こるこむら返り。頻繁に起こるこむら返りに苦しんでいる人は、まず、こむら返りが起こる原因を知って対策をしてみよう。『足の名医がついにたどりついたこむら返りと手足のつりリセット法』(アスコム)を上梓した、整形外科医の北城雅照さんにこむら返りについて詳しく解説してもらった。
教えてくれた人
北城雅照さん/整形外科医
きたしろ・まさてる。日本整形外科学会認定整形外科専門医、医療法人社団円徳理事長。2009年北里大学医学部卒業、2011年慶應義塾大学医学部整形外科学教室入局、2017年慶應大学院医学部医学科博士号取得。再生医療やリハビリテーションに力を入れ、最新の医療技術を取り入れた治療を提供しているほか、理事長を務める足立慶友整形外科・リウマチ科では、整形外科外来も担当。
筋肉の伸び縮みのコントロール不良がこむら返りの原因
人間の体は、骨に沿った「骨格筋」を伸び縮みさせることで姿勢を保ったり動いたりしており、普段「筋肉」と呼ばれるのはこの骨格筋のことだ。すべての筋肉には、その伸び縮みをコントロールする「筋紡錘(きんぼうすい)」と「腱紡錘(けんぼうすい)」というセンサーが備わっており、筋肉の中にある筋紡錘は、筋肉の伸びすぎを感知するセンサーの役割を果たす。伸びすぎを感知した筋紡錘は、脊髄に知らせ、脊髄が筋肉を縮める指令を出す仕組みだ。
一方、腱紡錘は筋肉と腱の間にあり、伸びすぎも縮みすぎも両方感知する。そして、縮みすぎている場合、それが脊髄に知らされ、今度は筋肉を伸ばすように脊髄が指令を出す。
「これが、筋肉の伸縮のメカニズムであり、この仕組みのおかげで、私たちは無意識のうちに力を入れたり抜いたりしながら、スムーズに動けているのです」(北城さん・以下同)
筋肉のセンサーの誤作動により痛みが発生
縮みすぎを感知する腱紡錘が、加齢や疲労などの理由で誤作動を起こし、縮みすぎの信号を脊髄に送らなかった場合、筋肉はどこまでも縮もうとする。筋肉が縮むと血管が圧迫されて、血流の低下が起こる。そして、筋肉に必要な酸素が届かなくなると、プロスタグランジンと呼ばれる物質をはじめ、細胞が異常事態を知らせる物質をどんどん分泌する。
この物質が鋭い痛みの原因であり、これがこむら返りの正体だ。
「筋肉のつり(筋けいれん)は、体を動かす筋肉ならどこでも起こる可能性があり、すべてが『腱紡錘』の誤作動に起因します。指、腕、お腹、お尻など、場所を選ばずに発生しますが、実際には、ふくらはぎ、すね、足の裏など、足で起こることが大多数です」
また、血流が悪くなると、筋紡錘への血流も低下するため、筋紡錘の誤作動もさらに生じやすくなる。
ふくらはぎがつりやすい理由
なかでもつりやすいのはふくらはぎだが、それにもいくつかの理由があるそうだ。そもそも、「抗重力筋」と呼ばれるふくらはぎの筋肉は、立ったり歩いたりするため、常に働いており、疲労がたまりやすい。さらに、心臓から遠いために、血流が悪くなりやすいという要因もある。
「足元は冷えやすいということも大きな要因。冷たい空気は下にたまりやすく、血流が滞ることで筋肉が固まり、こむら返りが起こりやすくなるのです」
こむら返りが頻繁に起こる3つの要因
こむら返りは一過性のものと考える人も多いだろうが、頻繁に起こる場合には大きく3つの原因が根本にあると考えられる。
加齢による筋肉量の低下や腱紡錘の衰え
年齢を重ねると体のあらゆる筋肉が少しずつ衰えていくが、筋肉量の低下とともに血液量も減る。その結果、筋肉に十分な酸素や栄養が届かず、疲労物質がたまりやすくなっていることが、腱紡錘が誤作動を起こしやすくなる原因になっている場合がある。
また、筋肉が衰えるのと同様に、腱紡錘も少しずつ衰えていく。そこへ血流の悪化などが重なると腱紡錘のセンサー感度は鈍り、誤作動を起こしやすくなる。
「『最近、運動する機会が減った』『以前より食が細くなったな』と感じている方は、筋肉量が落ち、血流が悪くなっている可能性があります」
血流の悪化
血流が悪化すると、筋肉がつかれたときに出る乳酸などの疲労物質が体外に排出されづらくなったり、筋肉の収縮や神経の伝達に大きく関わっている、マグネシウムやカルシウム、カリウムといった電解質が十分に筋肉に届かなくなったりするが、これもこむら返りの原因となる。
また、「肩こり」「冷え性」「むくみ」などの症状がある場合は、なんらかの理由によって、血流が悪くなってしまっている「血流障害」となっている可能性もある。「血流障害」の場合は、背後に「疾患」が潜んでいる可能性もあるため注意が必要だ。
「とりわけ、足の静脈で血流が悪化することによって起こる『下肢静脈瘤』や、動脈硬化などによって下肢の血流が悪くなってしまう『末梢動脈疾患(PAD)』は、こむら返りと密接に関係しています」
神経障害
神経障害も、血流障害と同様、背後に「疾患」が潜んでいる可能性がある。こむら返りの原因となることが多い神経障害の代表例は「脊柱管狭窄症」で、背骨にある「脊柱管」という神経の通り道が狭くなることで神経が圧迫され、下肢に痛みやしびれが生じるのが主な症状だ。
「神経が正常に機能していなければ、脊髄からの指令も筋肉に正しく届きません」
血流改善がこむら返りの予防には大切
こむら返りを改善する一番の近道は、血流を改善することだといえる。血液がしっかり流れるようになれば、加齢による腱紡錘の衰えや筋肉量の減少、筋肉疲労によるセンサーの誤作動を抑えることができる。さらに、神経障害によるこむら返りであっても、血流を改善し、神経の周りに張りめぐらされている毛細血管を増やすことができれば、神経に必要な栄養が届くようになり、神経障害の症状の改善が期待できる。
「血流をよくして、筋肉や神経にじゅうぶんな量の水分や電解質を届けられるようにすれば、崩れていた電解質バランスもおのずと改善されていきますし、乳酸などの疲労物質がスムーズに排出され、筋肉が柔軟な状態を保ちやすくなります」
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