《介護費用が高額になったら》「高額介護サービス費制度」の利用法や“対象外となるサービス”、高額医療費との合算制度をFPが解説
介護は何かとお金がかかるが、あまりにも負担が高額になった場合は、一定額を超えた分の払い戻しを受けることができる「高額介護サービス費制度」がある。一度申請すれば、以降は自動で払い戻される便利な仕組みだが、支給対象外のサービスもあるため注意が必要だ。そこで、節約アドバイザー・ファイナンシャルプランナーの丸山晴美さんに、介護費用が高額になった場合に利用できる制度について詳しく教えてもらった。
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教えてくれた人
丸山晴美さん/節約アドバイザー。ファイナンシャルプランナー
22歳で節約に目覚め、1年間で200万円を貯めた経験がメディアに取り上げられ、その後コンビニの店長などを経て、2001年に節約アドバイザーとして独立。ファイナンシャルプランナー(AFP)、消費生活アドバイザー、宅地建物主任士(登録)、認定心理士などの様々な資格を持ち、ライフプランを見据えたお金の管理運用のアドバイスなどをテレビやラジオ、雑誌、講演などで行っている。
限度額を超えた分が払い戻される高額介護サービス費制度
「高額介護サービス費制度」とは、1か月に支払った利用者負担の介護サービス費の合計が負担限度額を超えた際に、一定の上限額を超えた分が払い戻される制度です。
負担の上限額は、世帯の課税状況と収入によって異なりますが、非課税世帯は第1段階から第3段階、課税世帯は第4段階から第6段階に分けられ、それぞれの上限額が異なります。例えば、第4段階の一般的な所得(課税所得380万円、年収約770万円未満)の負担限度額は4万4400円(世帯)です。
《高額介護サービス費の負担限度額》※2025年9月時点
非課税世帯
第1段階:生活保護受給者等 上限額 1万5000円(世帯)
第2段階:世帯の全員が市町村民税非課税かつ、前年の公的年金等収入金額とその他の合計所得金額の合計が80万円以下 上限額 2万4600円(世帯)、1万5000円(個人)
第3段階:世帯の全員が市町村民税非課税(第1・2段階以外) 上限額2万4600円(世帯)
課税世帯
第4段階:市区町村民課税~課税所得380万円、(年収約770万円未満)の負担限度額は4万4400円(世帯)
第5段階:課税所得380万円(年収約770万円)~課税所得690万円(年収約1160万円)未満:の負担上限額は9万3000円(世帯)
第6段階:課税所得690万円(年収約1160万円)以上の負担限度額は14万100円(世帯)
出典:令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます|厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf)
高額介護サービス費制度の申請方法
介護サービス利用の自己負担額が負担限度額を上回った場合、自治体から高額介護サービス費に関するお知らせが届きます。同封されている支給申請書を記入し、役所に提出しましょう。申請が受理されると受給決定の通知書が届き、申請時に指定した口座へ助成金が振り込まれます。
サービスを利用した月の翌月1日から2年間が申請期間で、基本的には初回申請後、2回目以降は自動的に口座へ入金されます。
ただし、自治体によっては申請から支給まで数か月かかる場合もあります。
高額介護サービス費の対象になるサービス
高額介護サービス費の支給対象となるのは、自宅で暮らしながら受けられる「居宅サービス」、施設に入居して受けられる「介護施設サービス」、住み慣れた地域で生活し続けることを目的とした「地域密着型サービス」を利用した際の利用者負担額です。
「居宅サービス」は、要介護・要支援者が、買い物や食事・排泄などの介助といった身の回りのサポートをする訪問サービス。リハビリやデイサービスなどの通所サービス、ショートステイなどの短期入居サービスが該当します。
「介護施設サービス」は特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護療養型医療施設などへ入居した要介護者が受けられるサービスです。施設内での食事や入浴、排せつの介助などのほか、看護などが含まれることもあります。
「地域密着型サービス」は、高齢者が「認知症」や「要介護状態」になっても、住み慣れた地域でできる限り長く生活できるように、地域の実態に即したサービスが提供されるよう創設された介護サービスです。
一般的な介護保険サービスが都道府県による指定管理のもと、運営がなされているのに対し、地域密着型サービスは市町村により指定された事業者がサービスを提供し、その地域に住む住民が利用の対象となります。
地域密着型サービスの種類
・小規模多機能型居宅介護
通所・訪問・宿泊の3つのサービスを、1つの事業所で一体的に提供する介護サービス。
・看護小規模多機能型居宅介護
「小規模多機能型居宅介護」に訪問看護を組み合わせたサービス。
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
要介護者の生活リズムや状態に応じて、1日複数回の定期訪問と、必要に応じた随時の対応が可能な訪問型サービス。
・夜間対応型訪問介護
夜間や早朝に介護職員が利用者宅を訪問し、排泄介助や安否確認などの支援を行うもの。
・地域密着型通所介護
従来のデイサービスと同様に、日帰りで通所しながら機能訓練や食事、入浴等の介護サービスを受けることができる。
・療養通所介護・短期利用療養通所介護
地域密着型通所介護のサービスの一種で、常時医療的ケアが必要な方を対象とした通所型サービス。
・認知症対応型通所介護
認知症の症状がある方を対象とした通所型サービスで、症状に応じた専門的な支援が提供される。
・認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
認知症のある高齢者が、5~9人程度の少人数で共同生活を営む形態の施設。
・地域密着型特定施設入居者生活介護
比較的介護度の高い高齢者を対象に、介護付き有料老人ホームなどで提供されるサービス。
・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
定員が29人以下の小規模特別養護老人ホームで、要介護3以上の高齢者が対象。
高額介護サービス費の対象とならないサービスもある
また、介護保険が適用されているサービスであっても、高額介護サービス費の支給対象にならないものがあるため注意が必要です。
高額介護サービス費の支給対象にならない主なサービスとしては、ポータブルトイレや入浴用品などの特定の福祉用具購入費や、住宅改修費、施設サービスの食費や居住費・滞在費、生活援助型配食サービス費などがあります。また、理美容代などの日常生活費も支給対象とはなりません。
介護保険施設の費用を医療費控除できるケース
介護保険施設のうち、「指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」「介護老人保健施設」「指定介護療養型医療施設」「介護医療院」は、居住費や食費など、施設サービスでかかる自己負担額やその2分の1の額が医療費控除の対象となります。
支払った費用の領収書は保管しておき、確定申告の、「医療費控除の明細書」を記入・作成する際に使いましょう。領収書などの提出は不要ですが、確定申告期限から5年間は税務署からの提出を求められることがあるため、その間は自宅で保管する義務があるため、紛失しないように注意しましょう。
医療保険費と合算できる「高額医療・高額介護合算療養費制度」
毎年8月から翌年7月までの1年間の医療保険と介護保険の自己負担額を合算した額が高額になる場合は、「高額医療・高額介護合算療養費制度」も利用することができます。限度額は所得区分に応じて異なりますが、自己負担限度額を超えた分は、医療保険と介護保険の比率に応じて、両方から払い戻されます。
《高額介護合算療養費制度の対象者》
- 【1】国民健康保険、被用者保険、後期高齢者医療制度の各医療保険における世帯内であること
【2】1年間の医療保険と介護保険の自己負担合算額が、各所得区分に設定された限度額を超えた世帯であること
医療保険制度を利用する世帯に、介護保険の受給者がいる場合には、被保険者からの申請に基づき、高額療養費の算定対象となる世帯単位で、医療保険と介護保険の自己負担を合算した額が限度額を超えた場合、支給の対象となります。また、医療機関や調剤薬局の窓口、あるいは介護サービス事業者などに対し、自己負担限度額を超えて支払った場合に、その差額分を以下の2つの方法で支給されます。
介護保険に係る部分は「高額医療合算介護サービス費」として支給。
医療保険に係る部分は「高額介護合算療養費」として支給。
また、自己負担分ではなく、保険制度が負担する部分の費用負担は、医療保険者・介護保険者双方が、自己負担額の比率に応じて負担します。
高額医療・高額介護合算療養費制度の申請方法
高額介護サービス費制度と同様に、限度額を超えたら自治体から通知とともに申請書が届くため、申請書を記入し、役所へ提出します。受理されれば、介護自己負担額証明書が届くので、介護自己負担額証明書を添えて、健康保険組合などの医療保険者に支給申請をしましょう。
高額医療・高額介護合算療養費制度の申請期限は2年間
高額医療・高額介護合算療養費制度も、申請期限は基準日である7月31日の翌日(8月1日)から2年間です。限度額を上回りそうになった頃に自治体から通知が届くため、届き次第早めに申請すれば問題ありません。
ただし自治体からの通知は、国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している人が対象である点には注意が必要です。
健康保険組合や協会けんぽの加入者には通知されないため、「高額介護合算療養費支給申請書兼自己負担額証明書交付申請書」を記入し、個人確認書類等を添付して各健康保険組合や協会けんぽに提出します。また、転居をしたり、医療保険と介護保険お保険者が違う場合などは、自治体から通知が届かない場合があるため、医療費や介護費の負担がかさんできたと感じたら、一度自治体の福祉課などに問い合わせてみるのがおすすめです。
取材・文/新藤まつり