《筋肉不足が認知症につながることも》「体・心・脳」に欠かせない必須アミノ酸「BCAA」、効率的に摂れる食材は?医師が解説
三大栄養素であるたんぱく質と深く関わっている栄養成分・BCAAは、元気に生きるためには欠かせないものだという。『医者が考案したたんぱく質をたっぷりとる長生きスープ』(アスコム)の著者で、医師の土田隆さんにたんぱく質とBCAAが健康にどう作用するのか詳しく教えてもらった。
教えてくれた人
土田隆さん/医師
つちだ・たかし。よこはま土田メディカルクリニック院長、日本医師会認定産業医、日本体育協会公認スポーツドクター。東邦大学医学部卒業後、東邦大学医療センター大森病院脳神経外科学教室入局、磯子脳神経外科病院設立と同時に赴任。1989年、同院副院長就任。磯子中央病院合併と同時に同院副院長就任。磯子中央病院健康管理センター発足とともにセンター長兼任。2011年、よこはま土田メディカルクリニック開設。著書に『たった2週間で内臓脂肪が落ちる高野豆腐ダイエット』(アスコム)など。
たんぱく質不足は体・心・脳に影響
たんぱく質、脂質、糖質で構成される、生命維持に欠かせない「三大栄養素」。なかでもたんぱく質は人の皮膚や爪、髪の毛、筋肉、臓器、血管などのもとになっており、筋肉は水分を除くと約80%がたんぱく質で作られている。
そのため、たんぱく質が不足すると筋肉が衰え、「歩く」「立つ」「座る」などの運動機能が低下してしまう。
「その結果、家に引きこもりがちになり、趣味の集まりなど人とのつながりがなくなってしまいます。段々と孤独を感じるようになり、気力まで衰えていき、心身ともにバランスをくずすという負のスパイラルに陥ってしまうのです」(土田さん・以下同)
さらに、筋肉が衰えると大きな事故やけがにつながることもある。例えば、筋肉不足が原因でふらつき、転倒すると、そのまま要介護状態になってしまうことも。また、最近の研究では、筋肉が認知機能に影響を与えることもわかってきており、認知症予防の観点からも、たんぱく質をきちんと摂り、筋肉を維持することが重要だ。
「60代、70代、80代……もちろん若い人にとっても『たんぱく質不足』は体・心・脳に直接影響を与え、残りの人生を大きく揺るがす重大な問題なのです!」
たんぱく質は吸収されやすい形で摂ることが重要
積極的に摂りたいたんぱく質だが、吸収されやすい形で摂ることも重要だ。たんぱく質は50個以上の「アミノ酸」というものが鎖状につながってできているが、口から摂取されたたんぱく質は、まず胃や腸で鎖が解かれてバラバラになり、最小単位であるアミノ酸の状態になる。
このように、たんぱく質が体の中で筋肉に変わっていく仕組みは少し複雑。そのため、たんぱく質の元であるアミノ酸が多く含まれた食材をとるなど、吸収されやすい形でとることが大切だ。
BCAAはアミノ酸のなかでも重要なバリン・ロイシン・イソロイシンのこと
人間の体に必要なアミノ酸は全部で20種類あるが、そのうち、体内で作ることができなかったり、ごくわずかな量しか作れなかったりして、食品からとる必要がある「必須アミノ酸」が9種類、体内で糖質や脂質から作り出すことができる「非必須アミノ酸」が11種類ある。
「アミノ酸にフォーカスするならば、そのなかでも『バリン』『ロイシン』『イソロイシン』という3つに目を向ける必要があります」
これら、「バリン」「ロイシン」「イソロイシン」の3つを総称して「BCAA」と呼ぶ。BCAAは、疲労物質をエネルギーに変換させるサイクルをスムーズに回す働きがあるため、疲労回復に役立つ。また、運動後に摂れば、傷ついた筋肉を素早く修復し、筋肉痛を軽減させることにもつながる。
さらに、体の中でエネルギーが足りなくなった場合も、BCAAは代わりのエネルギーとなる。
「筋肉のためだけでなく、毎日を元気に過ごすためにもBCAAが欠かせないのです。なお、BCAAを運動前に摂取すると、脂肪が燃えやすくなることも認められています。運動の前と後、どちらにとってもうれしい成分なのです」
筋肉の分解を防ぐ「バリン」
人間の体は、たんぱく質と一緒に「窒素」を取り入れているが、血中で窒素とたんぱく質のバランスが崩れると、筋肉のたんぱく質がアミノ酸に分解され、足りない栄養を補おうとすることがある。
その結果、筋力の低下につながることもあるが、このときに役立つのがバリンだ。バリンは、体の中の窒素のバランスを整えながら、筋肉の分解を防ぎ、成長をサポートする働きがある。
「また、『アルブミン』という主に肝臓で作られるたんぱく質を増やし、肝機能をサポートする働きもあります」
司令塔のような「ロイシン」
「司令塔」のような役割を担う、ロイシン。体の中で筋肉を作る働きを促したり、筋肉を分解しすぎないようブレーキをかけたりして、筋肉をちょうどいいバランスで保つ働きをする。
また、運動とあわせてロイシンをとれば、体の中で筋肉を作る指令を出す「エムトール」という物質も活発になる。
「だからこそロイシンは、筋肉作りをサポートするために、特にしっかりとりたい成分なのです。また、弱った肝臓をいたわり、肝機能の向上を促す働きもあります」
筋肉の成長を促す「イソロイシン」
イソロイシンは、体の新陳代謝を支える「甲状腺ホルモン」の働きを助け、筋肉の成長を促す役割を持っている。さらに、糖質を、運動時のエネルギー源になる「グリコーゲン」という形で体に貯めておくよう促してくれるため、疲れにくい体を作るのにも効果的な成分だ。
「また血管を広げ、柔らかくして、血流をよくし、筋肉も強くします。さらに、脳からの指令と体の動きとをつなげるサポートをすることで、判断力や反射速度などを向上させます」
BCAAを効率的にとるなら鶏肉、牛肉、マグロの赤身など
効率的に筋肉をつけるためには、バリン、ロイシン、イソロイシンが1対2対1の割合になるようにとるのがいいとされている。このバランスにかなっている食材は、鶏肉、牛肉、マグロの赤身など。
また、植物性食品より、動物性食品のほうが、一度にとれる必須アミノ酸量も圧倒的に多いためおすすめだ。
「なかでも、鶏むね肉やささみは脂肪分が少なく消化されやすいですし、『イミダゾールジペプチド』という疲労回復を促す成分も豊富に含むためオススメです。ちなみにこの成分は、調理中に水分とともに食材の外に溶け出してしまうので、スープでとるのが最も理にかなっています」
●《77歳現役医師が発案》長生きに役立つ「かまた体操」のやり方 たった1分でOK!朝は脳と体を目覚めさせる