認知症の介護は想定外のことが起こる「適度な距離とほどよい準備が大切」【専門家解説】
平均寿命の延伸や少子高齢化による高齢者人口の増加により、介護を必要とする人が増えている。いざ自分が介護する側になったら、そしてされる側になったら――家族が不仲にならない、最期に後悔しないための介護の在り方を伝授する。
教えてくれた人
久坂部羊さん/医師・著書に『介護士K』など、川内潤さん/NPO法人となりのかいご代表理事
認知症を発症したら距離をとれるように
介護のトラブルを避けるために、親やパートナーが元気なうちに介護について家族会議の場を設けることは非常に大切だ。
重要なのが「誰が介護を担うか」を決めること。これはつまり、誰が“負担を負うか”ということでもある。医師で、著書に『介護士K』などがある久坂部羊さんが言う。
「配偶者の介護であれば、まずは自分がしなければいけませんが、親の介護の場合は、きょうだいなど誰がどの程度かかわれるのかの洗い出しを含め、中心となって動ける人をいかにスムーズに決められるかがカギとなります。キーパーソンが決まれば、必然的にトラブルは少なくなります」
きょうだいや孫など、家族が多ければ多いほど会議は重要だ。
「介護負担は肉体的、精神的なものだけではありません。時間的、経済的負担も大きい。お金が絡んでくることですから、事前にきちんと話をしておかないと後になってもめやすくなるのです」(久坂部さん)
「家族会議」は介護が始まってからでも遅くない
家族会議は元気なうちから始めた方がいいが、介護が始まってからでももちろん遅くはない。
その場合には、ケアマネジャーやヘルパーにも参加してもらうといいとNPO法人となりのかいご代表理事の川内潤さんが言う。
「家族だけでの介護には破綻が生じます。互いに甘えが出てしまい、それが負担となって介護虐待に発展するリスクもある。また身内だと、なんでも先回りしてやってしまうことで高齢者自身の尊厳をないがしろにしてしまうケースも少なくありません」
特に認知症を発症した場合の介護は、適度な距離をとった方がいいと川内さんは指摘する。
「認知症のかたとコミュニケーションをとるのは専門職でないとかなり難しいです。認知機能を改善させようと日付や食事内容をしつこく繰り返し聞くようなことは症状をより悪化させることすらあります。
施設を利用してもいいでしょうし、慣れ親しんだ家で過ごしたいというのであれば、なおのこと訪問介護やデイサービスなどを活用すべきです。家族会議で生活の希望を聞くことで、専門職との連携もスムーズになります」
家族会議は定期的な開催が望ましい
家族会議は一度開いたらおしまい、というわけではない。久坂部さんが言う。
「1年に1回、毎月やってもいいくらいです。家族を取り巻く環境は刻一刻と変化しますから、1年前は“自分が面倒を見る”と思っていても、急な病気にかかるかもしれないし、仕事で転勤になるかもしれない。会議をするというよりは、現状報告をしながらコミュニケーションをとって、いまの状況で介護が生じたらどう対応していくかを常に考えておくことです」
何度も繰り返すからこそ、「一度決めたことにとらわれないこと」も大切だ。
「どれだけシミュレーションしても、最終的には起こったことに対処していくしかありません。あれこれ考えて準備しても、思い通りにならないことがほとんどです。下手に準備をしすぎると、“全然違った!”ということになりかねませんから広い視野で考えながらも、常に“想定外があること”を心に留めておくといい」(久坂部さん・以下同)
その心持ちはいざ介護が始まってからも同じ。
「介護する側もされる側も求めすぎはトラブルのもとです。こうありたい、こうされたいという気持ちが強すぎるとそれが叶わなかったときに不満や不安を感じ、もめることにもなりかねません。理想を追い求めないことが介護には必要です」
適度な距離感と、ほどよい準備。近しい関係の最後のコミュニケーションである介護が、“最悪の思い出”とならないような準備を、早めのうちから心がけたい。
写真/PIXTA
※女性セブン2025年5月22日号
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