《年を重ねても輝く秘訣》90歳の世界最高齢アプリ開発者・若宮正子さんの生き方「物忘れもゲームのように楽しむ」「生涯バッターボックスに立ち続ける」
58歳からパソコンを独学し、80代で米アップルのCEO、ティム・クック氏より「世界最高齢のアプリ開発者」として世界開発者会議に特別招待された、ICTエバンジェリストの若宮正子さん(90歳)。90歳でなおIT業界の前線で輝き続ける若宮さんに、人生100年時代という長い人生をイキイキと生き抜くヒントを聞いた。
「物忘れ」のカバーをゲームのように楽しむ
――健康面で気をつけてることはありますか。
若宮さん:なにもないです。だって、気をつけようがないんですよ。規則正しい生活は健康にいいと言ったって、私は講演会で全国を回っているから、毎日違うスケジュールで動いています。食生活に気をつけようと言っても、講演の合間にコンビニのおにぎりをかじることもあれば、主催者さんにご馳走していただく時もある。
1年で均せばそれなりにバランスがとれてるのかもしれませんが、その時に食べられるものを食べて、その時のスケジュールで休養をとっています。
運動面で言えば、講演会があるとノートパソコンを入れたリュックを背負って家から駅まで歩きますし、広い構内ですと乗り換えも距離がありますから結構歩いています。都市生活者の方が歩くって言われていますよね。郊外だと車生活になりますから。
――若宮さんは常に情報をアップデートしているようですが、記憶力はどのように維持されていますか?
若宮さん:もちろん、物忘れは激しいですよ。だから大変なんです。でも、物忘れの激しさをどうやってカバーするかっていうのも、1つのゲームのように楽しんでいます。例えば、スケジュールはスマートフォンとパソコンの両方から確認できるように、デジタル管理をしています。
明日は名古屋、次に大阪、横須賀、広島……、毎日スケジュールが詰まっているから、ダブルブッキングしたら大変なことになりますよね。スマホがあれば、いつでも確認できます。それから、仕事が詰まっていると、病気やけがもできないんです。穴を開けちゃいますから。この年になると足腰が弱って転びやすいので、気をつけて歩いています。
エスカレーターで事故に遭い流血も、仕事に穴は開けない
若宮さん:高齢になると、みなさん病気をすごく気にしますよね。だけど、事故の方がずっと怖い。だから、私は階段やエスカレーターは必ず手すりに掴まっています。それでも、エスカレーターで上の人が落ちてきたことがあって、避けようもなくてね。足から流血したので救急車を呼ぼうかと言われたんですけど、次に仕事がありましたから、包帯を巻いただけで仕事に行きました。
だからね、事故っていうのは死ぬかもわからないし、大けがをするかもしれない。いくら健康に気をつけていたって、事故で一発アウトです。だから、長生きしたければ事故にならないように行動するのがいいと思います。
――食事の好き嫌いはありますか?
若宮さん:嫌いなものはないけれど、好きなものはあります。甘いものとかナッツ類、それから春菊とかも好き。自炊していますから、好きなものを食べています。レストランにも行きますけどね。1人暮らしなので家事は全て自分でしています。
1人暮らしで困ることと言ったら、照明の交換です。この年齢で脚立に乗って両手を上げて作業するのは極めて危険でしょ。普段はマンションの管理人さんにお願いしていたんだけど、その日はお正月でいなくって、2、3日暗いまま過ごしたことがありました(苦笑)。
何歳になってもバッターボックスに立ち続けてほしい
若宮さん:1人暮らしでも寂しくはありません。ネット上にお友達がいっぱいいるわけですから。「メロウ倶楽部」というネット上のシニアクラブに所属していて、講演会に行くと近くに住んでいる会員さんが会いに来てくれるの。いつもオンラインの付き合いだから、顔が見えるのは嬉しいですよね。
メロウ倶楽部は年に1回集まりがあって、普段はハンドルネームで呼び合っているから、性別もわからない。ナデシコさん、って名前の方はきっとかわいい女性だと思っていたら、無口な男性だったりして(笑い)。会が終わるときには、みんなで手つないで、『今日の日はさようなら』を歌うのよ。仲間がいるって素晴らしいですね。
――若宮さんのように、いくつになってもイキイキと生きるために、50代60代の方にアドバイスをお願いします。
若宮さん:引っ込んでないで、とにかくバットを持ってバッターボックスに立ってください。そしたら、たまたまボールがバットに当たるかもしれない。もし、それが凡フライでも、追い風が吹いてヒットになるかもしれない。
まさに、私がそれですね。追い風が吹いてヒットになって、あれよあれよとホームランになって、それがなんと場外ホームラン。アメリカまで飛んでいっちゃった(笑い)。何歳になってもバッターボックスに立ち続けていただきたいです。
◆若宮正子
わかみや・まさこ/1935年4月19日、東京生まれ。三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)を定年退職後、パソコンを独学で学習し、70代で表計算ソフトのエクセルを使って図案を描く『エクセルアート』を考案。81歳でひな人形を正しくひな壇に並べるiPhone用ゲームアプリ『hinadan』を公開。その実績から米国アップル社CEOより世界最高齢プログラマーとして世界開発者会議に特別招待された。NPOブロードバンドスクール協会理事。一般社団法人メロウ倶楽部理事。
撮影/黒石あみ 取材・文/小山内麗香