「親は子どもに何をしてもらうと幸せですか?」92才料理研究家・小林まさるさんが親目線で回答「まずは相手をよく観察してみよう」まさるの人生相談・第8回
4月で92才を迎えた料理研究家・小林まさるさんが、読者のお悩みに真摯に答える人生相談企画。第8回は「親孝行」に関するお悩み。「親は子どもに何をしてもらうと幸せか?」という40代女性の相談にまさるさんがアンサー。読んですっきり、心は晴々!
答えてくれた人
料理研究家・小林まさるさん
昭和8年、樺太(現在はサハリン)生まれ。70才から長男の嫁で料理研究家の小林まさみさんのアシスタントを始め、料理研究家として活躍。著書『人生は、棚からぼたもち! 86歳・料理研究家の老後を楽しく味わう30のコツ』(東洋経済新報社)ほか、小林まさみさんの著書『血糖値を下げる1か月献立』(Gakken)では血糖値を下げる企画にチャレンジ。88才でYouTubeを始めるなど、新たな挑戦を続けるシニア世代の星。小林まさる88チャンネル
お悩み「親は子どもに何をしてもらうと幸せですか?」
両親は、大病はしたものの、とりあえず自分のことは自立してできる70代です。
私はどちらかというと父親似です。頭は私より母のほうがしっかりしています。もし、父より先に母に何かあれば…と考えると、いろいろ不安です。
あと10年くらい元気にいてほしいです。小林まさるさんなら、子どもにどうしてもらえたら幸せですか? 例えば、たくさん会いにきてくれたら嬉しい、一緒に旅行に行けたら嬉しいなど。些細なことでもよいので、子どもにどうしてもらえたら幸せか教えてください。(ゆず40代・46才/女性)
まさるさんの回答「“親が好きなもの”は何か、観察することが大切だ!」
親が元気なうちに孝行のひとつでもしてあげたいというゆず40代さんの気持ち、よく分かるぞ。俺は人生でひとつ後悔していることがあるとすれば親孝行。もっと親父と一緒に酒を飲みに行きたかったなぁと思う時があるんだ。
俺だったら、「何かしてほしいことはない?」なんて直接聞かれたら恩着せがましいなって。それに好きでもないものをすすめられても「うるせーなぁ」って思っちゃうよ。
たとえば、俺は人と旅行に行くのがあまり好きじゃない。会社勤めをしている時に社員旅行で、「いびきがうるさかった」と同僚に言われてから、誰かと旅行に行くのは気が引けるようになってしまった。
親子の旅もいいもんだろうけど、俺は酒が好きだから「親父、ちょっと一杯飲みに行こうよ」って、近所の飲み屋でいいから一緒に出かけられるのは嬉しいね。息子とふたりで飲むってのもオツなもんだよ。
親のことを想って何かしてあげたいと考えても、親の気持ちとズレていたら、せっかくの親孝行したい気持ちが台無しになっちゃうよな。
その人によって好きなものは全然違うし、親子だって案外わかっていないかもしれない。まずはゆず40代さんのご両親が何を好きなのかを知ることが大事だよな。もし直接聞けないようならば、会った時に親の様子をよく観察することから始めてみるのはどうだろう?
わざわざ旅行に行かなくても、お父さんがラーメンが好きなら、ラーメンを一緒に食べに行くのだっていい思い出になるよ。お母さんは花が好きなら、花をプレゼントするのだっていい。
何か特別なことをしなくても、その気持ちだけで親は嬉しいもんだよ。 親孝行だけに限らず、相手を喜ばせようと思うなら、自分の価値観だけで動くんじゃなくて、相手が何を好きなのか、相手のことを理解することが大切だよな。

まさるさん
親の様子をよく観察して、親の好きなことをしてあげよう!
まさるさんの愛用品紹介「息子がくれた思い出のバンダナ」
まさるさんのトレードマークでもある“バンダナ”。料理研究家で義嫁の小林まさみさんと一緒の現場ではふたりでバンダナを巻いてカメラの前に立つことも多い。
「バンダナはね、ハゲ隠し(笑い)。仕事をする時の俺のトレードマークかもしれないな。自分で買ったものもあるし、プレゼントでいただいたものもあるね。どうだろう、100枚以上はあるかな」
そう言って、まさるさんはバンダナがぎっしり詰まった衣装ケースを見せてくれた。
なかでもお気に入りのものを聞いてみると、使い込んだ赤いペイズリー柄のバンダナをさっと取り出した。
「これは息子から初めてもらったバンダナなんだ。まさみちゃんがテレビや雑誌に出始めた頃、アシスタントの俺もチラッと映ることがあったんだけど、俺の後頭部がどうにも気になったらしくてね。それを察した息子が、“バンダナでも巻いたらいいんじゃない”って、くれたもの。
気に入って何十年も使っているうちに色も褪せてくたびれてきて。同じデザインの新しいものを自分で買おうかとも考えたんだけど、息子がくれたものは唯一無二。新しいものは買わないでおこうって決めたんだ。この一枚を大切に使っているんだよ」
まさるさんはバンダナをていねいに畳んで衣装ケースにしまった。息子さんが父親の姿をよく観察していたからこその贈り物。まさるさんを幸せにした、大切な思い出になっている。
ーー次回のお悩み相談もお楽しみに!
撮影/菅井淳子 取材・文/岸綾香